2018/11/28

響きが必要な音楽と響きが少ない方が良い音楽

10/25に、ザ・シンフォニーホール(大阪)で行われたキンボー・イシイ指揮、日本センチュリー交響楽団のコンサートに行きました。

演目は、J.S.バッハ:「音楽の捧げもの」BWV1079より“6声のリチェルカーレ”(ウエーベルン編曲)、その他3曲(R.シュトラウス:楽劇『ばらの騎士』よりワルツ、コルンゴルト:ヴァイオリン協奏曲ニ長調作品35、モーツアルト:交響曲第41番ハ長調K.551「ジュピター」です。いずれの曲も音楽の都ウイーンで結ばれた曲を選んだとプログラムに書かれています。バッハの曲は、編曲したウエーベルンがウイーン生まれのため選ばれたとのこと。いずれの曲も素晴らしかったのですが、中で印象に残ったのは、この「6声のリチェルカーレ」で、プログラムによると「主題を一つの楽器によって奏でるのではなく、いくつかのセクションに分け、複数の楽器によって一つの旋律を奏でてゆくというもの」とあります。聞いているとキラキラした宝石の光を見ているような感じです。ザ・シンフォニーホールは大きく言えばシューボックスですが、私の席は舞台の脇の2Fバルコニー席のためか、楽器の音がどこから聞こえるのかはっきりしていて、この曲には大変好ましく感じました。



また、11/15には横浜県民共済みらいホールで行われました「民族楽器オーケストラ テュルク世界の大いなる遺産」という名のコンサートを聴きました。テュルクとはアゼルバイジャン、カザフスタン、キルギス、ウズベキスタン、トルコ、トルクメニスタン、ロシア連邦内のサハ、アルタイ、トゥバなどのテュルク語系諸民族の文化を持つ国や地域で、その民族の合同オーケストラがテュルクソイです。そのオーケストラは以下の写真で示すようにドンブラやコムズ他、様々な民族楽器で構成されています。この音楽もまた宝石のように音がちりばめられているような感じの曲です。しかし大きなメロディに沿って、ハーモニーを構成していくような音楽ではなく、大きな面に音をちりばめていく感じです。
このような音楽はおそらくヨーロッパクラシック音楽のような残響は必要ではなく、むしろ音の位置などがはっきりしている方が聞いていて楽しい可能性があります。これまで芝居小屋の研究をしてきた中でも実感してきましたが、今後の室内音響研究が必要な分野と感じます。

なおこのみらいホールは弊社の音響設計した300席のホールで、どちらかと言えば演劇系のホールです。こけら落とし公演は平成15年の横浜夢座の公演でした。





   
昭和60年代は日本では多目的ホールが批判され、演劇や音楽の専用ホールが必要とされてきました。音響技術の分野では、反射音の効果が発見されるようになってきました。1950年代には直接音から50ms以内の初期の反射音は直接音を補強し、音声明瞭性を上げることが発見され、1970年代には80ms以内に到達する反射音は音楽に対しても明瞭性を向上させる効果があることが発見されています。さらにBeranekの音響設計したニューヨークフィルハーモニックホール(昭和37年(1962))が音響的に評判が悪く、シュレーダーらの調査で初期反射音の到来方向がホールの音響に影響を与えていると分析し、側方反射音の重要性が発見され始めました。BarronとMarshallは1981に側方から到来する反射音ほどSpatial Impressionに対する寄与が大きいことを見出し発表しました。そのような観点からウイーンムジークフェラインのようなシューボックスタイプのコンサートホールが重要視されるようになりました。その結果日本でもシューボックス型ホールのザシンフォニーホール(昭和57年1982)やカザルスホール(昭和62年1987)が建設されました。カザルスホールで室内楽を聞いた時には感激した覚えがあります。ところでシューボックス型の杉並区公会堂新ホール(平成18年2006)ができた時には、音響学会で見学会があり、東大の佐久間先生が舞台でピアノを弾かれて、周りでその音を聞いて音像の拡がりの実験をしました。私もびっくりしましたが、中通路より後ろの席になると、ピアノの音が舞台いっぱいに広がって聞こえます。初期側方反射音の効果で音像が空間的に広がって聞こえることを言い、これを見かけの音源の幅ASWとも言っています。さらに教会のように拡散音のエネルギーが大きい場合には残響感が増し、音に包まれた感じを得ることができます。しかしこのような音像が大きくなってしまう効果や音に包まれた効果はクラシック音楽のようなハーモニーを重視する音楽には好ましいですが、音像の位置をはっきりさせたい場合には逆効果になり、特に初期の側方の反射音の制御が必要になります。これらのことは今後の技術的な開発が必要だと思います。豊かな響きと音像の定位の両立です。強いて言えばサントリーホールのようなアリーナタイプでは豊かな残響感というよりはっきりした音像の定位が特徴と言ってもいいかもしれません。

2018/11/26

建築技術2018年12月号に「渋谷スタジオの音響設計」という記事を書きました

本記事は、2018年11月号の「渋谷スタジオ遮音工事」という濱口オサミ氏による記事の続編となります。この渋谷スタジオとは、渋谷の桜丘にあるマンションの1階に計画された木造架構の音楽スタジオで、竣工時には本ブログにも紹介をしています。

床は檜、壁・天井は赤松集成材で、軽鉄等の一般的な下地のない、仕上げが構造体になった架構です。また天井は木造のトラス梁を柱で支えて、その梁に赤松集成材の根太(240×40)を支持させ、さらに赤松集成材の板を載せた構造で、スラブからは構造的に分離した構造です。内部は木をふんだんに使った柔らかな温か味のある雰囲気で、音楽を演奏することに気持ちの良い空間です。

今回の記事は、その設計に対応した音響設計を弊社で行い、内容を記したものです。遮音設計や室内音響の方法などを書いています。中でも床は、一般的な防振床ではなくヘルムホルツ共鳴器を有する床を採用しています。その設計方法について、かなり具体的に書きました。

ご興味のある方がいらっしゃいましたら、ぜひご連絡ください。なお、この工法はUR等と集合住宅用に共同開発した特許工法です。


2018/11/02

Almagroの芝居小屋―現存する世界最古の木造の芝居小屋―

先日、飯沢匡 著「ドン・キホーテの国」を読んでいたらP.81に、

「アルマグロの町は広場からしてアラビア風を遺していて変わった印象を受けるが、ここには世界最古の劇場が現存している。木造で中庭を囲んでコの字形に三階まで座席がある。早稲田大学演劇博物館が模した英国のエリザベス朝のグローブ・シアターによく似ている。」

とありました。これまで知らなかった劇場です。世界最古の劇場とは非常に面白そうです。正確には、現存する木造の芝居小屋としては世界最古という意味だと思われます。Almagroの位置を以下の地図で示します。



AlmagroのPlazaMayorのGoogleMap 


赤い印の斜め右下の白い布がかかっているところが劇場。

Almagro - 01

『Corral de comedias de AlmgroはCastile-La Mancha(カスティーリア-ラマンチャ)州、Almagro市の中心にあるPlaza Mayor(市長広場)のこの写真で言えば右側の建物にある。
この劇場は1628年にAlmagroの住民のDon Leonardo Oviedoによって、Taberna del Toroと言われた古い宿屋の中庭に建てられたとのこと。

Wikipediaに、Corral de comedias de Almagro ("Courtyard theatre of Almagro")の紹介記事がありました。劇場の名前はAlmagroの中庭形式の劇場です。 以下はWikipedia の英文を一部訳して紹介します。
記録に残っている最初の公演は1629にJuan Martinezの劇団Autorによって行われた。この劇団はスペインで認可された12の劇団のうちの一つである。ただし18世紀にはこの様な劇場の建設が禁止され、Taberna de las Cmedias と Taberna de la Frutaという旅館に改装された。ただ1802年には再び公演に使用された報告があるが、1857年以降は中庭としての使用以外には記録がない。
1953年の市長広場の改修時に、劇場として再発見され、1954年5月29日Calderon de la Barca 劇団によって開演した。それ以来 毎年 国際古典演劇祭がここで開かれている

と言ったことが書かれています。

現存する最古の芝居小屋のCorral de comedias de Almagroができたのは1628年で、ドン・キホーテがセルバンテスによって書かれたのは1605年、それより13年後になります。

R.E.ラッセル著 田島伸悟訳の『セルバンテス』のP.26に、
「1580年代には自分の書いた「二十本から三十本」の芝居が大当たりを取り、スペインのお客様に、それまでの芝居になかった目新しい重要な部分をいろいろと披露したのだ、とは晩年になってからの本人の述懐するところです。しかし残念なことに、現在ではそれらのうちの二本しか残っておりません。そのころスペインの主立った都市に常設の芝居小屋が出来たことで台本の需要も多くなっておりました」

とあります。

Alojería de Almagro

Corral de comedias de Almagro

Corral de Comedias de Almagro - 05

セルバンテスは1547年9月29日 アルカラ・デ・エナーレスで生まれ、1616年4月23日、マドリードで没しています。

イギリスでもシェイクスピア(1564.4.26~1616.4.23)がこのころ活躍していて、なんと亡くなったのはセルバンテスと同じ日です。シェイクスピアの劇場グローブ座も1599年にできています。シェイクスピアの作品は『ロミオとジュリエット』が1596年、『ハムレット』が1601年、『オセロー』が1604年、『リア王』が1605年、『マクベス』が1606年で、セルバンテスの活躍した時期に重なり、両地域で芝居好きの人々の存在を感じます。

イタリアでは、テアトロ・オリンピコが1584年に竣工、1585年に「オイディプース王」によって開場しています。観客席は半楕円形で、構造はローマ劇場に倣っています。この劇場は世界で初めての屋内劇場ともいわれています。また1618年にはテアトロ・ファルネーゼが開場しています。平土間を囲む馬蹄形のような観客席とプロセニアム風の舞台がついています。1637年には最初のオペラハウスであるサン・カシアーノ歌劇場が開場しています。

芸術現代社刊「オペラ全集」のP.13には「オルフェオ」が紹介されていますが、その中で、
「オペラ史上最初の作品と言われる<ダフネ>がフィレンツェの宮廷に集うカメラータ(同士の意)たちの手で上演されたのは16世紀も押し詰まった1597年、そしてその3年後には、現存する最古のオペラ<エウリディーチェ>が登場する。」 
ただしそれは、
「オペラと呼ぶにはあまりにも音楽性に乏しい」

と書かれ、そして1607年に初演されたモンテヴェルディの最初のオペラ<オルフェオ>について、
「ドラマと音楽の統一が、ここに初めて果たされた」

と書いています。オペラも1600年前後から始まっていることがわかります。

ドイツではWikipediaのオペラの項目によると、
「最初の重要なドイツ語のオペラは、時代をさかのぼること17世紀前半、シュッツ(1585年 - 1672年)の『ダフネ』(1627年)と目されているが、楽譜は現在では失われてしまっている。17世紀後半になると、ドイツ語圏各地に宮廷劇場ができるが、1678年に三十年戦争(1618年 - 1648年)の影響の少なかったハンブルクに公開オペラハウスが建設されると、ドイツ人作曲家によるドイツ語オペラが数多く上演されるようになる。」

とあります。

その他にWikipedia コメディア・デッラルテの項目によると

「コンメディア・デッラルテ(イタリア語: Commedia dell'arte)は、仮面を使用する即興演劇の一形態。16世紀中頃にイタリア北部で生まれ、主に16世紀頃から18世紀頃にかけてヨーロッパで流行し、現在もなお各地で上演され続けている。」
とあります。

同時代の日本ではというと、1603年に阿国が北野天満宮で歌舞伎踊りを行ったことが記されており、芝居小屋の萌芽が感じられる時代となっています。
1615年には京都南座が四条河原町で開場、7つの櫓の1つ、江戸では、中村座(当初は猿若勘三郎芝居)が寛永元年(1624年)2月に、中橋南地で櫓を上げています。

中国では?例えば西遊記はどうだろうと調べてみると、これもwikipediaではありますが、

「実在の僧侶玄奘が、仏典を求めるため国禁を犯し、16年の歳月をかけてインドとの間を往復した史実を踏まえてはいるが、各地に伝わった三蔵伝説や猿にまつわる逸話などを吸収し、南宋代の都市で語られた講談や元の雑劇で発展した。元末期頃(14世紀)に大枠の話が成立した後、いくらかの改編を経て、明代中期の16世紀に、長篇小説として完成する。現存する最古のテキストは、1592年初版の『新刻出像官板大字西遊記』(世徳堂本)であり[1]、その後清代にかけて様々な刊本が発刊された。」

とあり、元は古い物語ではありますが、現存する最古のテキストは1592年刊とのこと。偶然とはいえ、これも記しておこうと思います。


なんとなく1600年前後に、演劇的な出来事が世界の各地で起こっているような印象を受けます。
それではほかの地域、ヨーロッパでは、アラブでは、中央アジアでは、インドや中国ではどうなっているのか気になってきます。そのうち調べてみようと思います。

2018/10/29

荏田宿お祭り2018

今年の夏は異常に暑く、豪雨による岡山の大洪水や広島の土砂災害も記録的で、台風もたくさん上陸した年でした。台風21号は関西空港を水没させてしまい、大きな被害が出ました。24号は10/1ごろ強い風で本州を縦断していきました。その約1週間後、また台風25号が24号と似たようなコースで近づいてくる中、地元のお祭りが行われました。

10/6の18時頃、お祭りの前夜祭の宵宮(よみや、よいみや)の時に台風25号が北陸方面へ通過していきました。お祭りと重なりやきもきしましたが、幸い、紅白の幕が時折舞い上がった程度でした。

この荏田に、隣町の驚神社宮元囃子連の援助のもと、お囃子が約30年ぶりに再開し、今回が3回目のお祭りとなります。いつも驚神社の宮元お囃子連のメンバーにかなり手伝っていただいて何とかこなしておりましたが、今年は驚神社のお祭りと重なってしまい、自分たちだけで行うことになりかなり緊張しました。

事前の練習を2週間毎日連続で行って、お祭りに備えました。お祭り当日にはすでに疲れがたまり指は腱鞘炎の様な状態でした。お祭り当日(10/7)は、台風一過のいい天気で暑いぐらいでした。

私は人数の少ない笛の係なので忙しく、お祭りの最初と最後しか写真は撮れませんでした。途中2~3か所、老人ホームに立ち寄って獅子舞とひょっとこ踊りを因幡(いんば)という曲で行います。この曲は難しく、またちゃんと聞いて楽しんでいただきたいので、宮元の人の援助をお願いしました。それ以外は荏田宿のお囃子会で行うことができました。途中はかなりの暑さでしたが事故もなく、無事終了することができました。

荏田宿の歴史は古く、江戸時代は大山街道の宿場町としてこの地域では華やかな場所だったと想像ができます。つい40~50年ほど前までは、周囲は山に囲まれていて、この荏田宿のあたりはこの地域の中心街だったと思います。

30年ほど前までは荏田宿のお囃子連も活躍していたようで、驚神社のお囃子連の再興のお手伝いをしていたとのこと。そんな縁で、今度は荏田宿のお囃子の再興にお手伝いをしていただいているそうです。昔は神楽も盛んだったようで、遠くまで出稼ぎに行っていたとのこと。しかし今や見る影もありません。商店街も記憶にある限りでは、30年ほど前には床屋さん、雑貨屋さんや酒屋さん、魚屋さん、すし屋さん、カラオケスナック、などがありました。床屋さん、すし屋さん、カラオケスナックは今でもありますが。しかし246が商店街を分断し、田園都市線のあざみ野駅ができて、港北ニュータウンに地下鉄が通って、その中間にある荏田宿商店街は急速にさびれてきています。商店街があれば住民同士顔を合わせることがありますが、今ではそういう機会もほとんどありません。誰でもが参加できるお祭りで、多少でも住民たちのつながりができるといいと思っています。

宵宮が始まりました

お祭りの朝、子供神輿の組み立て

山車を引き終わった時、祭りの後

お神輿も終わり、子供たちがいなくなった後、
大人たちで自治会館まで担いで帰ります

チーク材の3WAYスピーカ

2018年10月27日(土)朝日新聞朝刊の「折々のことば」に

「昔の職業というものは大まかで、なんでも含んでいる 夏目漱石」
という言葉が紹介されていました。そのなかで、
「昔は一人がいくつもの商売をし、すぐに手に入らない物は間に合わせで作った。昨今は『知識や興味の面積が日に日に狭められ』て、個人が孤立し、ひどく無能になりつつあると。講演『道楽と職業』から。」
とありました。
この文章を読んだときに、最近チーク材によるスピーカを作ったことを思いだしました。

私は建築音響による建築設計を専門としていますが、無響室の検収測定のために無指向性音源を作ったり、マイク移動装置、超音波発信機を作ったりと、文字通り「すぐに手に入らない物は間に合わせで作っ」ていました。

そんな中で、バンコクにできるレストランのスピーカの相談を受けました。デザインは、タイらしくチーク材で作りたく思いました。日本でFOSTEXのスピーカユニット(ドライバー、ツイータ、ウーハ)を購入し、High Pass / Low Passフィルターを組み立て、それをタイまで運び、スピーカの箱を作っている工場に持ち込み、チーク材でホーンと箱を作ってもらいました。タイでもチーク材は貴重な存在で、やっと手に入れたそうです。レストランの計画は遅れていてまだできていないのですが、近いうちに実現できそうです。このスピーカは貴重なチーク材のためにタイから外国への持ち出しはできません。音の方の評判も上々です。タイで十分に役に立ってほしいと思います。

事務所で組立中

バンコクのスピーカー工場にて


これはガーデンパーティのためにここにセットしたものです。ステレオですので、もう一台あります。

2018/10/26

ホキ美術館の吸音材


93日、4日と千葉県の2か所の劇場に改修のための音響調査に伺いました。

測定の前日、92日(日)から千葉に向かい、千葉県緑区にあるホキ美術館に行ってみました。

ホキ美術館は鉄板製の美術館で、シャープな躍動感があります。美術館の端部は部屋全体がキャンティレバーとなって宙に飛び出しています。しかも断面は大きなC型の形状で、Cの途切れた部分は壁の下部にスリットとして通っていて不思議な感じがします。その内部の展示空間もシャープで、美術館や博物館の天井の仕上げは一般的な岩綿吸音板ではなく、ボード類の上に塗装仕上げでした。床もゴムチップ床で吸音するところがないのですが、椅子は球形の椅子で、触ると気持ちの良いフワフワとしたウレタンスポンジのようなものでできていて、デザインが素晴らしいだけでなく、これは吸音材でもあると思いました。ただ数が少ないので、もう少し多ければ残響調整ができそうと思った次第です。

もし吸音材を追加するとすれば、選択肢として、岩綿吸音板のように表面が凸凹していなく、また従来の有孔板のように孔が大きくなく目立たない、微細穿孔板(MPP: Microperforated Panel Absorber)という方法良いのではないかと思いました。日本ではあまり活用されていませんが、建築学会などで研究発表されています。孔が目立たないので、ホキ美術館のようにシャープにデザインされた場所には可能性があるのではと思います。







2018/09/27

超重量衝撃音・振動対策

今回は、超重量物の防音・防振対策についてご紹介する。

一般的な生産機械、集合住宅の重量床衝撃音や音楽の騒音・振動などの場合、こちらの記事にご紹介したように、主に対策には防振ゴムを使用する。

しかし、それよりも重い超重量物の場合は、衝撃力に低い周波数を多く含んでおり、一般的に固有振動数10Hz以上を対象の防振ゴムでは性能が足りない。

超重量物とは、例えば金属加工を行う鍛造機やプレス機械、ジムのバーベルの衝撃などがあげられ、対策としては金属ばねを使用することが考えられる。

最近、弊社の近くに金属ばねを扱っている三協社というメーカーがあることを知り、その製品はばね定数などが公開されているために、遮音床などの設計を行いやすい。

大きな衝撃を起こす機械の場合、以下の写真のような金属ばねを用いると固有振動数を数Hzに設定ができ、対策が可能となる。
たとえば固有振動数を3Hzに設定できれば、1自由度の振動系と考えれば、4.2Hz以上の振動に対策効果があると言える。

ただし金属ばねは、そのままでは減衰が少ないため、いつまでも低い固有周波数で振動が継続してしまい不快となる。またサージングという高次の固有振動数も存在するために、固体伝搬音も伝搬しやすい。そこで金属ばねにはダンピング(減衰)が必要となる。本製品の場合には写真に見えるように金属メッシュが内蔵されているが、更にゴムなどで対策することも必要な場合があると思われる。また固有振動数を下げることと、変形を少なくするために、衝撃力の大きさに合わせて、鉄板やコンクリートでつくる付加質量も必要となる。

それらを含めて超重量衝撃音および振動対策設計を行うことが可能である。

三協社の金属ばね

2018/09/18

執筆に参加した本が出版されました

執筆に参加した本『遮音・吸音材料の開発、評価と騒音低減技術 次世代自動車・建築物・生活空間』が7月末に出版されました。
私の担当は最後の「第10章の第3節:大型施設の騒音・振動対策」「第4節:ISO3745に基づく無響室の設計法」です。

内容を以下の目次で示します。総勢45名の音響研究者・技術者による執筆で、広い分野の最先端の音響技術が示されています。
出版社は技術情報協会で、定価は80000円(税抜)です。本は建築関係が主な対象ですが、案外自動車の関係が多く割かれています。最近は自動車の制御に超音波を用いているようですが、これは今後の課題です。レーザーだけでなく超音波による空間の計測技術もできてきています。仕事のたびにこの本を脇に置いて参考にしたく思っています。



目次
第1章:音の伝搬メカニズムとヒトが音を感じるメカニズム
 第1節:音の種類、分類と定義
 第2節:吸音・遮音のメカニズムと構造の分類
 第3節:共鳴現象のメカニズム
 第4節:騒音・振動低減のための技術・材料とその適用法
第2章:人が音を近くするメカニズムと健康への影響
 第1節:聴覚のメカニズムと快・不快の感じ方
 第2節:騒音・低周波音の健康への影響
第3章:吸音材料の開発と材料特性
 第1節:均質化法による多孔質吸音材料の設計
 第2節:マイクロポーラス金属の製造とその吸音特性
 第3節:ナノファイバー系吸音材料の特性
 第4節:バイオマスを利用した吸音材料に関する研究
 第5節:かんな屑とバークによる断熱・吸音材料の開発
 第6節:3Dプリンタで作製された微細穿孔板の吸音特性評価
第4章:遮音材料の開発と材料の特性
 第1節:エッジ効果抑制による遮音壁の開発
 第2節:薄膜を利用した軽量でコンパクトな遮音技術
 第3節:木質構成パネルの遮音および曲げ性能
 第4節:建築用アスファルト系遮音材料の開発とその特性
第5章:制振・防振材料の開発と材料の特性
 第1節:制振工学の考え方とその応用技術へのアプローチ
 第2節:ポリマーを内包するクローズドセル構造金属材料の作製とその制振効果
 第3節:圧電素子を用いた振動制御、騒音制御技術
 第4節:制振LCPの開発とその制振特性
 第5節:制振材「Polaris」の開発とその特性
第6章:車両における振動・騒音の低減化技術と遮音・吸音材料、構造の適用
 第1節:自動車室内の振動不快音発生メカニズムとその制御
 第2節:高速輸送機関や流体機器から発生する空力騒音
 第3節:自動車用吸音材料の内部構造と吸音特性への影響
 第4節:自動車用防振材料、制振材料の開発と利用技術
 第5節:自動車の構造音響連成系の最適設計
 第6節:自動車用制振・吸音材への要求特性と車内音・車外音対策
 第7節:自動車の風騒音の発生メカニズムと低減技術
 第8節:自動車用遮音・防音材料の開発、その軽量化
 第9節:車両における吸音・遮音の設計と振動・騒音低減化
 第10節:気柱共鳴音レゾネータの開発と世代進化
 第11節:電気自動車走行音における「EVらしさ」「受容性」評価
 第12節:電気自動車におけるサウンドデザイン
 第13節:車内騒音伝達機構のモデル化
 第14節:吸音材が配置された自動車車室を模擬した空間の減衰音響解析
 第15節:プラズマアクチュエータを用いた翼後縁騒音の制御
第7章:建築・建造物における吸音・遮音・制振の設計
 第1節:音楽施設の音響設計
 第2節:集合住宅における騒音とその対策
 第3節:学校施設の音環境評価・音響設計法
 第4節:オフィスの音響設計
 第5節:公共空間の音響設計コンセプト
 第6節:格子状メッシュを用いた雨滴による膜衝撃音の低減
 第7節:アクティブ騒音制御技術の住宅換気口への適用
 第8節:建築設備機器の騒音・振動対策
 第9節:能動騒音制御と聴覚マスキングに基づく工場騒音の緩和
第8章:機械・産業機器における騒音対策
 第1節:モータの電磁騒音の発生メカニズム
 第2節:消音器による騒音対策
第9章:音響・音環境、遮音・吸音材料の測定、シミュレーション、評価手法
 第1節:環境騒音における騒音計測と音響環境を配慮する計測手法について
 第2節:音響管計測装置の利用方法とその測定応用技術
 第3節:吸音・遮音性能の測定方法および予測技術
 第4節:騒音、振動の予測計算と測定・分析手法
 第5節:振動レベル計の操作、振動レベルの測定・データ処理の方法
 第6節:材料開発におけるアンサンブル平均による材料の吸音特性のin-situ測定法の適用
 第7節:時間領域差分法による床振動解析
 第8節:光を用いた音場可視化装置
 第9節:室内音響特性の測定法
 第10節:音波伝搬シミュレーションの計算結果可視化手法
 第11節:音空間レンダリング技術の開発 
 第12節:面内面外変位連成系有限要素法による床衝撃音の数値解析手法の開発
第10章:騒音規制、騒音公害とその対策
 第1節:騒音公害の概要―苦情の経年変化と音源別対応策
 第2節:低周波音苦情の実例とその対応
 第3節:大型施設の騒音・振動対策
 第4節:ISO3745に基づく無響室の設計法

2018/09/11

2018年度日本建築学会(東北)大会に参加しました

2018年度の建築学会大会が東北大学(川内北キャンパス)で開催され、9月6日に発表しました。

4日から5日にかけて台風21号が大阪に大きな被害をもたらした後、北海道方面へ抜け、さらに6日の早朝には北海道では胆振地方で震度7の地震が起こり、大きな山崩れが発生、また発電所がブラックアウトし全道で停電が発生するという事態になり、落ち着かない中で仙台に向かいました。自然の脅威を改めて感じています。

発表内容は『川越市鶴川座の音響的復原その2 音響シミュレーションによる音響的復原の試み』と題して行いました。昨年は『川越市鶴川座の音響的復原―その1 3Dレーザースキャンデータの音響シミュレーションの応用』と題して発表いたしましたが、その続編となります。

本報告は、ベルリン工科大学のクレメンス・ビュトナー氏、東京大学生産技術研究所の助教 森下有氏、および弊社の共同研究になりますが、音響シミュレーション技術を補強するために、元東工大特任教授の清水寧氏にも加わっていただきました。
研究の目的は、前回計測した現状の空間の3Dレーザースキャンのデータや『伝統技法研究会著 旧鶴川座保存活用計画調査 報告書 平成21年(2009)3月』などを参考にして、芝居小屋当時の空間を推測して、音響的な空間を復原することが目的です。

音響的復原は音響分野では新しい技術で、ベルリン工科大学のクレメンスさんのいらっしゃる研究室(ヴァインジール教授)の主要なテーマになっています。

また発表原稿の表紙にはRAMSAの西さんが大正時代の鶴川座の雰囲気を描いた建築パースを、承諾を得て使っています。鶴川座は明治26年に川越大火があり、その後仮設で作った川越座を立て直し、明治31年に建設されました。明治32年、川上音二郎一座が演劇史上はじめての海外公演し、初めて女優の貞奴が誕生した時代です。鶴川座からも当時の新しい時代の息吹を感じます。



以下、発表原稿です。
















2018/08/31

超音波発信システムを自作した

 自動車の自動運転においては、超音波を発信して反射波で距離を計測し、何らかの制御を行っている。そのために自動車関連メーカーの無響室では超音波を計測することが必要になってきており、その検収測定を依頼された。

 しかし超音波領域(100kHz)まで計測するためにはこれまでの測定機材では不十分であり、まず「超音波発信機」および「超音波増幅器」、そして「超音波の無指向性音源」が必要となった。超音波発信機や増幅器は市販されているものもあるが、かなり高価である。さらに無指向性スピーカは市販されていない。そのため自作を試みた。

 超音波発信機は、エヌエフ回路設計ブロックという会社の、ランダムバイナリージェネレータCG-742Nというモジュールを用いた。このモジュールとホワイトノイズフィルターSR-4BLを組み合わせることで、100kHzまでのノイズジェネレータが安価にできることがわかった。しかし実際に組み立てるに当たっては、エヌエフ回路設計ブロックの技術者に大変お世話になった。
 
 増幅器は、一般的なものはオーディオが目的であるため、せいぜい20kHzまでが対象で、100kHz まで増幅できるアンプはほとんどない。しかし今はハイレゾ対応のものがでてきており、今回は共立電子産業のアンプキットWP-AMP7294STを、電源トランス及びケースを含めて買って組み立てた。ステレオで出力40Wのもので、20Hz~100kHzまで増幅できるものである。この組み立ても案外難しく、共立電子産業の技術者のお世話になった。

 スピーカは、パイオニア製カーオーディオ用のリボン型スーパーツイータ(TS-ST910)で、7000Hz以上のハイパスフィルターがついてステレオで売られている。このツイーターを無指向性に加工することにした。まず台を除いて作成したべニア製の箱の中に2台並べて入れ、上部に20mmの孔を開けて、開口部上に邪魔板を設置して超音波無指向性音源とした。再生周波数帯域は7000Hz~100000 Hzである。定格出力は50W。再生音圧レベルは90dBである。

 実際に音を出して周波数帯域が100kHz まで出力していることを確認した。また無響室の検収も無事に終了した。

 今回問い合わせしたモジュールやキットのメーカーの方々は非常に知識があり丁寧で、商品にどのような機能があり、どのような部品と組み合わせればよいかなどの指導が的確で、こちらも知識を得られ大変すばらしい経験となった。

左からホワイトノイズジェネレータ、アンプ、無指向性超音波スピーカ

2018/08/09

荏田地区納涼夏祭り大会にお囃子で参加

地元の荏田地区の納涼夏祭りにお囃子として参加しました。当初は7月28日(土曜日)に開催予定でしたが台風12号が接近し、翌29日の日曜日に延期されました。場所は赤田西遊水池です。当日は台風一過で朝から良い天気で、お囃子組は2時から設営の準備をし、トラックの荷台を舞台として、4時から本番が始まりました。舞台に立つと太陽の強いこと、演奏を始めるとくらくらする感じで、目に汗も入って、大変でした。屋外なので音が消え行ってしまい、音を力強く出さねばいけません。しかしやはり遠くまでは伝搬しない感じです。まだまだ練習が必要です。

その他の出し物は、小学校の生徒によるソーラン節ダンス、宗とも子さん(ソプラノ)の歌で主にミュージカルの曲、またおそらくブラジル人による本場サンバダンス、中学校の生徒による吹奏楽でした。7時半ごろから盆踊り、そして花火と盛りだくさん、屋台もたくさん出ていて、かなり楽しみました。



2018/07/27

杉山スタジオオープン

2018年7月7日(日)に杉山スタジオのオープニングパーティが行われました。場所は渋谷のセルリアンホテルや大和田ホールの近くにあるマンションの1階にある、グランドピアノを2台設置した音楽スタジオです。
当日は杉山先生のたくさんの教え子や同僚の方がいらして、皆さんピアノを弾いて楽しまれていて、こちらは素晴らしい演奏をたくさん聴くことができて大変楽しい時間を過ごすことができました。

オープニングパーティ

スタジオの正式な名称は杉山ムジーク・アカデミー渋谷スタジオです。建て主は杉山哲雄先生、元横浜国立大学の音楽の先生です。建築設計は有限会社濱口建築・デザイン工房の濱口オサミ氏。床は檜の無垢材、壁・天井は赤松で仕上がった柔らかな雰囲気の木質空間となっています。弊社は濱口氏の設計に音響の観点からお手伝いをさせていただきました。

スタジオの大きさは、基本的には約5.8m、8.0m、天井高さ2.5mの矩形の部屋です。長手の壁はそれぞれ水平方向に約1/20の傾きを持つジグザグの壁とし、入り口側の壁のみ下見板形状として、フラッターエコーを防止しています。下見板形状により、平行壁面間の角度が一部上向きとなり、水平方向に音が回遊することも防ぎます。天井は2.5mほどで反射音が強いために、吸音材シンセファイバーを着脱可能な状態に設置して、天井だけで音響調整を行う方法としました。音は主に水平方向に広がり、音に包まれるような空間を目指して音響設計いたしました。

またピアノの演奏音が隣戸にできるだけ影響が無いように、浮構造による遮音対策を行っています。ピアノの音は室内で100dBAと想定。浮構造にすることで隣接の部屋では、おおよそ65dBA低減できると考えています。場合によってはグランドピアノの音は100dBAよりさらに大きい場合があるので、注意が必要です。

ピアノ室などの音楽室は防音のため浮構造を用い、しかも床の浮構造は一般的にはコンクリート浮床とします。しかし今回はコンクリートが使えないために木製としています。その場合には、床下空間の空気層の共振周波数が可聴域にあるため遮音性能を低下させてしまうため、ヘルムホルツ共鳴器を内蔵する床を採用しています。この工法はUR都市機構と7~8年間共同で開発してきたものですが、まだ実験室での施工しかなく、今回は初めての実施物件です。基本的には床に空洞部を設け、床下空気層の共振周波数に合わせて動吸振的に、ヘルムホルツ共鳴器を構成して床下空気層の共振を低下させ、振動伝達率を低減する手法です。
 
天井の浮構造はスラブから吊らず、天井の荷重は壁に持たせる構造となっています。吊り防振ゴムを用いるより遮音性能は向上し、工事時、あと施工アンカーの穿孔騒音の問題もなくなります。またあと施工アンカーの施工不良による天井落下の不安もなくなります。

また音響性能に直接関係ありませんが、外壁に設置されている150φの換気口から外気が直接室内に取り込まれた場合、とくに夏の暑い雨の時などに室内が冷房で冷やされていると、湿度100%の空気が室内に取り込まれ湿度が上がってしまうため、多少熱交換ができる換気システムを窓際に設置しました。径30mmのパイプ10本を換気口から分岐して、細い管を通すことで、温度調整と湿度調整を行うこととしました。パイプオルガンのような設計および施工は設計者ご自身です。

換気システム

吸音材の効果は、500Hzの残響時間が天井の吸音材無しで1.30秒、吸音材を設置すると0.97秒と変化して、はっきりと効果がみられています。また音声明瞭性や音楽の明瞭性からも吸音材が効果的なことが分析されています。さらに、もう少し吸音材を追加した方がよいということになり、0.5m角の吸音材をあと更に10枚追加してほぼ天井全面に設置することになったようです。また、カーテンも吸音効果のあるビロードのカーテンを設置するなどの検討をするとのこと。

今後の杉山スタジオのご発展を祈念しております。