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2012/02/20

論文「芝居小屋の音響特性」が日本建築学会技術報告集第18巻第38号(2月発行)に掲載されました


2007年度から3年間、全国の木造芝居小屋と比較のための劇場等の音響調査を行い、建築学会の大会に発表してきましたが、それらをまとめて論文を執筆し、日本建築学会技術報告集2月号に掲載していただきました。

江戸時代初期から建設が始まった木造の芝居小屋は、明治期には全国で数千軒ほどもあったとされていますが、現在全国で数十軒ほどしか残されていません。芝居小屋は歌舞伎や人形浄瑠璃の公演のほか、明治期には箏や三味線などの器楽演奏会にも使われるようになっていました。そこで伝統芸能を育んだ芝居小屋15座の音響測定を行い、音響反射板を設置した杉田劇場や歌舞伎座などと比較してみました。調査の方法は、インパルス応答と無響室録音の音源とを重畳し、音響シミュレーションを行って演奏音を再現し、主観評価実験を行いました。その結果、芝居小屋の音響的特徴としては、響きの少なさ、音声明瞭性および音の方向感で、芝居小屋の残響時間はコンサートホールに適する残響時間とはかけ離れた位置にあり、また邦楽は芝居小屋や歌舞伎座の様な残響時間の短い空間が好まれることが確認されました。

「JATET FORUM 2011 東日本大震災による劇場・ホール被災調査報告 資料集」に、全国芝居小屋会議の奈良部さんが東北地方の芝居小屋の調査結果(P.269)を記しています。
それによると、東北地方には芝居小屋が確認されているだけで6館あります。秋田県小坂町の康楽館、福島市民家園にある旧広瀬座、福島県南相馬市の朝日座、いわき市の三函座、日立市の共楽館、群馬県みどり市のながめ余興場です。いずれも昨年3月11日の東日本大震災による大きな被害はなかったようです。しかし、いわき市の三函座は震災をきっかけに売却が決まり2012年3月には取り壊す予定とのこと。また、この調査で新たに2軒の芝居小屋の存在が確認され、ひとつは石巻市の岡田劇場で、津波で流されてしまった。もう1軒は福島県本宮市の本宮映画劇場で、こちらは震災による被害はなかったとのこと。
芝居小屋の維持は通常でも大変なことですが、震災の被害に挫けないように続けることは大変です。
この論文が芝居小屋の存続・活用に少しでも役に立てればと思います。