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2008/12/15

建築技術2008年12月号に記事を執筆



建築技術2008年12月号『密集市街地につくる住まいのデザインと技術』の特集に、『密集市街地に住まいをつくるテクニック【音】密集市街地での遮音性能の考え方』というテーマで記事を書かせていただきました。

サッシの遮音性能の考え方、床衝撃音の対策方法の目安、昭和50年代のマンションの改修について、騒音の大きさよりもむしろ相互不信感に基づいて発生する近隣騒音問題、文化としての吸音性能、などさまざまな観点からの遮音のテクニックをご紹介いたしました。また、文化としての吸音性能とは、生活習慣や芸能文化と、生活空間の吸音性は密接に結びついて発展してきていることなど、最近の研究や経験からわかったことをもとに述べています。

2008/11/10

『建築家だって散歩する』山下昌彦著を読む

「私は良く散歩をする」という書き出しで始まるこの本は、タイトルは『建築家だって散歩する』ですが、建築家だから散歩が好きといった感じの内容です。
筆者は、UG都市建築の代表の方で、最近の作品では、麻布十番にできた高層集合住宅「アクシア麻布」がとても美しく、本の中でも紹介されています。
筆者は、

1975年。簡単には海外旅行ができない時代だった。私は大学院修士の学生で、幸運にも東欧・中近東の集落調査に参加する機会を得た。それはすばらしい体験だった。西ドイツで購入したフォルクス・ワーゲンのミニバスに乗って現れる集落を手当たり次第に観察して回ったのだ。建築家・原広司に率いられて東欧諸国からトルコのイスタンブールを通ってイランの砂漠地帯まで、約3ヶ月間の彷徨をした。

と書かれています。今では戦争があるなど危険な場所でもあり、当時すばらしい経験だったと思います。
また山下さんは、5年ほど設計事務所で勤務された後、ドイツに渡りやはり設計事務所で3年ほど働いたそうです。そのときのドイツ人の散歩好きにも影響を受けたようです。その後、世界中の都市を散歩しているとのこと。その中で、

中国人や日本人の伝統ののなかでは、散歩はどうも否定されてきたらしい。目的がない散歩は、遊び人や隠居か特殊な人だけに許されていたのではないか。神詣でや寺詣でなら目的があるのでよいが、ぶらぶら歩きははしたないことで、してはならない行儀であったのではないか。

と書かれています。何も目的がなく、ただぶらぶら歩くことは、日本人は後ろめたさを感じるとのこと。改めて考えてみると、以前に犬が我が家にいたときには、家の周りを毎朝犬の赴くままに散歩しました。今は、確かに散歩をすることは少なくなってしまいました。
しかし、浅草や明治神宮、江ノ島の神社など、はたまた金毘羅権現や熊野古道は混んでいます。今年オープンした芝居小屋永楽館のある出石町も江戸情緒の有る町並みのため観光客はたくさん歩いています。四国のお遍路さんもたくさんいるようです。目的をもって歩く人はたくさんいます。しかし無目的の散歩は少ないのではないかと思います。
私の家の近くには旧大山街道があり、そこには旧荏田宿からつづく古い荏田商店街がありますが、最寄りの江田駅やあざみ野駅から遠く、寂しい状態です。旧大山街道は道幅が狭いわりに車がたくさん通り、今は江戸情緒など何もないどころか、歩道もなく、塀と車に挟まれそうになって歩かなければなりません。しかし、街道筋から多少脇に入ると、里山が広がり、そこに剣神社という神社があります。この神社は、江戸時代から神奈川県を代表する神楽を舞う神社として有名でした。しかもその周辺は、美しい山や林や水田、畑が残っています。ただ、人が散歩できるような道がありません。都市と農村の接点のような場所のために、場合によっては、とても魅力のある場所になりそうな可能性を感じます。このあたりが、散歩のできるような場所になれればいいのではないかと、この本を読んで考えております。





都心部では、ドイツのような魅力が街になさ過ぎます。

日本人は、歩いていける範囲に、すばらしいアーティストが演奏するホールがあるという生活をしたことがない。職場から4時ごろには帰宅して、シャワーを浴びて、簡単な食事をすませ、ドレスアップして、ちょっとそこまで室内楽でも、なんて生活をしたことがないでしょう?ヨーロッパ人たちはなんの苦もなく、そういう都市生活を楽しんでいるわけなのである。ちなみに、ハンブルク市は第二次世界大戦で壊滅的な破壊を受けた。中略、しかし、市民の要望でそれ(住宅)よりも前に整備されたのがオペラハウスだったのである。

と書かれています。たしかに現代の日本人には、そのような余裕がなさそうです。

しかし、山下さんに読んでほしい本があります。服部幸雄の「大いなる小屋」です。江戸、明治期には、日本人はヨーロッパ人に勝るとも劣らないほど、劇場通いをしていたようです。生活を楽しむということが日常的にあったようです。特に戦後は少なくなってしまったように思いますが、それでも戦後直ぐに、空襲で焼けた歌舞伎座は立て直されていますし(昭和25年12月建物完成、26年1月興行再開
)、身近なところでは、磯子では廃墟であった場所に昭和21年杉田劇場(木造芝居小屋)ができたようです。昭和21年4月に美空ひばりがデビューした場所です。山下さんがおっしゃるように、街を、散歩することが楽しい場所にしたいと思います。


著者:山下昌彦「建築家だって散歩する」 発行所:株式会社コム・ブレイイン \1200

川崎市立日本民家園の農村舞台(船越の舞台)で農村歌舞伎をみる

川崎市立民家園は主に古民家を移築して、里山のような雰囲気の中に展示されている施設です。しかも、囲炉裏には薪が実際にくべられていたり、白川郷の民家が御蕎麦屋さんになっていたり、また室内で昔話の朗読があるなど、単に展示されているのではなく、実際使われている雰囲気があり、温かみがあります。

その民家園の中でも、最も奥の山の頂上に農村舞台があります。この農村舞台は、安政4年(江戸時代末期)に三重県志摩半島の船越という漁村の神社の境内に立てられたもので、地元の『若者組』が、その運営に関わっていたようで、明治20年ごろまでこの地元の人々によって演じられていたようです。その後、昭和48年に、この民家園に移築され、昭和51年には、国指定の重要有形民俗文化財に登録されています。普段は、この民家園の中でも端っこで、また急な階段を上っていかなければならないので、ひっそりとしていますが、この歌舞伎公演が、先日11月3日文化の日にあり、そのときは満席の賑わいでした。
公演は、秋川歌舞伎 あきるの座によって行われました。農村舞台での農村歌舞伎はめったに見られないと思い、行ってきましたが、何年か前から毎年文化の日には、ここで公演があるようです。

あきる野座は、あきる野市二宮地区で継承されてきた二宮歌舞伎を継承する目的で行われています。まず子供歌舞伎が平成4年に結成され、平成9年に大人歌舞伎も含め、あきる野座という座名を採用して再スタートしたそうで、平成12年には東京都指定無形民俗文化財の認定を受けているそうです。
演目は『義経千本桜 二段目 伏見稲荷鳥居前の場』で、約1時間の公演でした。ちょっとゆったりとした、素人的なところもありましたが、話が面白く、また身近な感じがして、とても楽しみました。寒い日で、また座りにくい場所でしたが、それも感じさせませんでした。

江戸時代、また明治時代の人々は、このような歌舞伎を身近に楽しんでいたのだろうと昔の人々の思いに馳せていました。義経の都落ちの話ですが、静御前がもっている鼓の皮(狐の親の皮)を慕ってきた狐が、義経の家来に化けて、静御前を追手から助ける話です。子の親を慕う気持ちは、長い間受け継がれてきているものだと思います。



2008/10/28

第14回全国芝居小屋会議in永楽館にて、『木造芝居小屋の音響測定について』を発表

10月18日(土)、19日(日)、第14回 全国芝居小屋会議が、豊岡市出石(いずし)町永楽館(写真1)にて開催されました。永楽館は、今年8月に復原オープンされ、8月1日から5日まで、片岡愛之助さんを中心とした杮落公演が行われた芝居小屋です。我々も、8月23日に音響測定を永楽館で行いました。

写真1 永楽館



永楽館は明治34年に建設されましたが、テレビなどの娯楽文化の影響で、昭和39年に閉館を余儀なくされ、それから44年間閉館の状態でした。しかし、昭和62年に兵庫県町並みゼミで、城下町出石町の町づくりの核として評価され、復原運動が始まったようです。平成10年には、町の文化財の指定を受けて調査が始まり、やっと平成18年より復原工事が始まり、完成に至ったようです。周辺の城下町地区は、国の重要伝統的建造物群に昨年より選定されているそうで、とても江戸情緒のある美しい町並み(写真2)です。

写真2 町並み




全国芝居小屋会議の1日目(写真3)は、最初に、中野勘太郎一座による公演『大石りく・女忠臣蔵』がありました。大石内蔵助の奥方、りくは豊岡出身だそうで、そのしっかりものの、大石りくを主人公に描いたもので、腰砕けで、情けない大石内蔵助を討ち入りに導く話で、現代の夫婦にも良くありそうな話しになっていて、とても楽しめました。

写真3 『大石りく・女忠臣蔵』


次に、永楽館の復原工事について、設計事務所の福岡さんと大工の田中さんから説明があり、さらに「永楽館の復原と町づくりについて」と題してフォーラムが開かれました。中貝市長は、昔からのものを大事にして引き継いでゆくことが重要で、長い歴史の中にいると、穏やかな気持ちになる、とおっしゃっていました。それだけでなく、それを財産として大事にしたところ、10年前には一人も観光客が来なかったところに、年100万人もの観光客が来るようになり、経済的にもペイするようになったそうです。この出石の名物は、永楽館、出石そば、町並み、野生のコウノトリとのこと。夜は交流会、夜鍋談義があり、来年の芝居小屋会議は、ながめ余興場で行われることが発表されました。翌日は、コウノトリグランドホテルに会場を移し、総会の後、木造芝居小屋の音響特性について発表を、神奈川大学建築学科の4年生小口さんと一緒に行いました。

木造芝居小屋は、邦楽のための好ましい音響空間を研究するためには、非常に貴重な空間であるという発表を行いました。残響時間などの物理的なデータの説明と、また、さまざまな音楽を無響室にて録音したものとインパルス応答の分析結果との重ねあわせによって、あたかもそこで演奏されたかのような音楽をシミュレーションにより作り出したものを皆さんにも聞いていただきました。無響室録音された音楽は、朗読、篠笛、三味線、ヴァイオリン、フルートなどによるものです。またさらにダミーヘッドによる同様のシミュレーションを行い、拡がり感や方向感についても聞いていただきました。今後とも芝居小屋の音響の研究で、芝居小屋の復原と町づくりにお役に立てればと思っています。

また10月25日(土)には、浅草寺境内に設置された平成中村座の仮名手本忠臣蔵を見てきました。テント小屋(写真4)ですが、木造芝居小屋の雰囲気が良く出ていて、大変楽しめました。5時間の長丁場なので、腰や背中が疲れましたが。この話も、討ち入りの前の、由良之助の息子 力弥を慕う、とある家老本蔵の娘 小浪、本蔵の妻 戸無瀬、さらに由良之助の妻 お石に焦点を当てたもので、事件が、娘 小浪の幸せに生きたいという気持ちをも打ち砕いてしまったという悲しみも表現され、心に訴えかける物語でした。

写真4 平成中村座

2008/10/17

カザフスタンで民俗音楽を聴く

9月23日から10月1日まで、カザフスタンの民族音楽を聴きに、アルマティおよび新首都のアスタナに行ってきました。アルマティは天山山脈の北側の麓(写真1)にある、旧首都です。天山山脈の南側はキルギスタンで、このあたりは昔のシルクロードです。カザフスタンの民族音楽は、遊牧民の音楽です。

写真1 天山山脈の北側の麓


24日の晩は、クラシックコンサートをアルマティオペラハウスで聴きました。モロデジュニ交響楽団によるコンサートで、昔のソ連邦の国々から選りすぐりの若い音楽家たちを集めた楽団です。曲目はベートーベンのエグモント序曲、ラフマニノフのピアノコンチェルトNo.2、ヴェルディ、ロッシーニ、ヨハンシュトラウスなどで、表現豊かに音楽を楽しんでいるといった演奏で、非常にレベルが高かったです。聴衆も、若い人が多くクラシック音楽が生活に溶け込んでいる感じがしました。ここはオペラハウスなので、音響はどうだろうと気にしていたのですが、舞台の幕類は紗幕(写真3)のような薄いもので、ほとんど吸音しないようなものでした。舞台の壁はコンクリート打ち放しのため、ホール全体はかなり反射性となっていると思いました。ベルベットの幕はこのコンサートのためにはずしたのだと思われます。

写真3 舞台の幕


ちなみに、このオペラハウスは、第二次世界大戦のときに、日本人の捕虜が建設したものだそうです。以前に、大きな地震がアルマティを襲ったとき、このオペラハウスだけは壊れなかったそうで、それにより日本人に対する評価は今も高いとのこと。

アルマティオペラハウス
左:友人/右:テン氏(作曲家)


翌25日はアスタナに行き、26日の夜はアスタナの民俗音楽用のホールである大統領文化センターに行ってみましたら、たまたま詩人の講演会があり、その詩に曲をつけて、2弦のマンドリンのような民族楽器ドンブラや、コブスという2弦の弓で弾く楽器の演奏されました。詩の朗読も演奏も電気で拡声をしておりましたが、スピーカが両端にあり、音が片方のスピーカからしか聞こえず、少々騒がしく臨場感に欠けるものでした。(写真4)

写真4 大統領文化センターでの演奏


翌27日には、そのホールで音響測定をお願いしたところ、OKしていただき、その後、ドンブラやコブスや7弦の琴ゼティゲン、3弦のセルテルなどによる演奏を10名ほどの演奏家により聞かせていただきました(写真5)。ドンブラの演奏者はヴァイセノル・アルセン(写真6)という人で、有名な演奏者だそうです。

写真5


写真6 ドンブラ奏者 ヴァイセノル・アルセン氏


コブス


ドンブラのアンサンブル


28日は再びアルマティに戻り、29日には、コンセルバトワール(音楽大学)のホールにて音響調査を行いました。そして学生によるドンブラとコブスおよびバイオリン(バッハの無伴奏ヴァイオリンソナタNo.2)の音楽を聴き、また民俗音楽史の研究者エレマノヴァ・サイダ・アブドラキモヴナ先生(写真7)お会いしてお話させていただきました。このホールは残響時間が3秒近くありましたが、先生は、民族楽器にはこのようなホールは響きすぎ、また大きすぎてふさわしくないとおっしゃっていました。民族楽器は、そのものが響きを持っているため、羊の毛でできた、遊牧民の家(ユルタ)の中で演奏するのが最も好ましいとおっしゃっていました。それは、最近の芝居小屋の研究で感じていることと同じです。
ドンブラ・コブスは弦楽器の起源だそうで、BC2000前にコインのようなものに書かれているようです。また、最初の音楽家コルカタッタという人物がBC5世紀に活躍しており、ちょうどギリシャではピタゴラスの時代(ピタゴラス音律はBC550ごろ)にあたります。

写真7 エレマノヴァ・サイダ・アブドラキモヴナ先生と


30日はアルマティ最後の日で、民族楽器博物館(写真8)に行きました。

写真8 民族楽器博物館


楽器の展示を見ていて、アル・ファラビーの絵(写真9)を見つけました。

写真9 アル・ファラビーの絵


アル・ファラビー(870頃~950)は現代の音楽の発展に寄与した「音楽大全」を書いた人ですが、アルマティにはアル・ファラビー通りというのがあり気になっていました。これによると、この土地の生まれなのだそうです。そして、博物館のホールでドンブラ、コブスの演奏を聞いて帰りました。このホールの形はユルタの形(写真10)をしていますが、なんとコンクリートでできています。円形の平面で、天井はドーム上となっています。コンセルバトワールのホールも平面は円に近く、天井は円錐が途中で切られたような形です。また大統領文化ホールも8角形の平面で、天井はほぼ平ですが、いずれもユルタの形が踏襲されています。

写真10 ユルタの形のホール


展示の最後の方は、トルコ、インド、キルギスなどの周辺諸国また中国、韓国の楽器がそれぞれの国から寄贈されて、展示されていましたが、残念ながら日本のブースはありませんでした。三味線や琵琶、和太鼓などあればよかったと思いました。コブスは、弓で弾く楽器です。ビオラやチェロのような音です。中国にも二胡が弓で弾く楽器ですが、日本では流行らなかったのか、現在までほとんど弓で弾く弦楽器はありません。私はきっと和室は響かないので、弓で弾く弦楽器はいい音にならなかったためではないかと思っています。

今回、カザフスタンの民族音楽の録音をし、いくつかのホールの音響測定を行うことができました。民族音楽用のホールの設計方法についてまとめ、検討していきたいと思っています。

アスタナの風景


アスタナの風景


アスタナの夜景

2008/10/06

横浜ふね劇場改修完成

横浜ふね劇場は、市民ボランティア(横浜ふね劇場をつくる会)により作られた劇場です。しかし横浜ボートシ アターが2001年9月に1度だけ『王サルヨの婚礼』の公演を行いましたが、それ以降、横浜港の新山下の艀溜りに停泊し、時々練習場として使用していまし た。今までは、艀の屋根部分は蓋で塞がれていて、中には光や風は入らず、夏には炎熱地獄、冬は極寒地獄と、劇団(横浜ボートシアター)が練習するにも大変 な状況でした。そこで今回、ふね劇場の改修工事を行いました。艀の縁から屋根を70cm持ち上げ、6箇所窓を作り、風と光が入るようになりました。さらに 昨日は、屋根に厚さ40mmのエスレン断熱材を敷きこむ工事をふね会の人々で行いました。久しぶりの肉体労働に疲れ、また晴天のため鼻が日焼けしました。 しかし、これで確実に環境が良くなりました。これから、ここがどのような活躍の場となるか楽しみです。

ふね劇場内観

ふね劇場外観

断熱材を敷きこむ作業の様子


「横浜ふね劇場をつくる会」
http://homepage3.nifty.com/funegeki/
事務局長:一宮
funegeki@nifty.com

2008/09/22

2008年度日本建築学会にて発表いたしました

9月18日(木)~9月20日(土)に日本建築学会広島大会が開催され、
20日の室内音響設計(2)において、
「木造芝居小屋の音響特性 岐阜県の鳳凰座・白雲座・常盤座・明治座の例」
というタイトルで発表いたしました。

とりいそぎ、発表原稿および資料を掲載いたします。

※画像はクリックで拡大します。
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『木造芝居小屋の音響特性 岐阜県の鳳凰座・白雲座・常盤座・明治座の例』
というテーマで発表させていただきます。


木造芝居小屋とは、ここでは江戸歌舞伎様式の木造建築の芝居小屋で、舞台客席ともに屋根で覆われている小屋のことを総称します。
木造芝居小屋は明治期には、全国で数千軒ほどもあったとされておりますが、現在では数十軒ほどしか残っていません。


しかし最近では、いくつかは街起こしの手段として復原され、利用され始めており、またそういった芝居小屋の空間は、役者と観客が一体となれる魅力ある空間であると、見直され始めています。
日本の伝統芸能は、このような木造芝居小屋と密接に結びつきながら発展してきていると思われ、しかも現在では数少ない貴重な芸能空間でありながら、この音響的な特徴は、これまではほとんど研究されることがありませんでした。 


そこで本報告では、岐阜県の木造芝居小屋4座、鳳凰座・白雲座・常盤座・明治座の音響測定を行い、現代の多目的劇場と比較しながら、その音響的特徴を音響シミュレーションなどによって検討いたしました。多目的劇場は横浜市の杉田劇場です。


音響シミュレーションは、現場で測定したインパルス応答と、無響室で録音した音楽とを、実時間畳み込み演算装置のHuronを用いて行いました。
 無響室録音は、三味線とヴァイオリン音楽です。
測定は、劇場の舞台上に設置した12面体無指向性スピーカから、スイープ正弦波信号(2秒)を放射し、客席で受音して、その劇場のインパルス応答を求めます。
さらに音響シミュレーションによって、あたかもその劇場で演奏されているかのような音を作り出して、それを複数の音楽・舞台関係者にヘッドフォンで聞いていただき、主観評価を行いました。


各劇場の平面図および仕上げ表を示します。芝居小屋のうち3座は床が畳、常盤座のみ、床が板です。


次に、残響時間周波数特性を示します。いずれも空席時で、杉田劇場は音響反射板設置時のものです。500Hzの残響時間は、杉田劇場1.42秒、常盤座0.91秒、鳳凰座0.58秒、白雲座0.64秒、明治座0.59秒でした。


平均吸音率の分析結果を示します。杉田劇場および平土間席が板張りの常盤座は0.21ですが、平土間席が畳になっている他の3座は、0.29~0.33という値になっています。


次に、RASTI分析結果を示します。杉田劇場は0.5程度、常盤座は0.6程度、他3座は0.7程度で、IEC評価は、芝居小屋がGOOD、杉田劇場はFAIRでした。


次に、杉田劇場と明治座のインパルス応答波形を示します。


次に、三味線とヴァイオリンの無響室録音の波形と、杉田劇場と明治座における音響シミュレーションの波形を示します。

ここで、シミュレーション結果を音で聞いていただきます。
まず三味線の無響室録音です。(音)
次に三味線の杉田劇場でのシミュレーション音です。(音)
次に明治座でのシミュレーション音です。(音)
さらに、ヴァイオリン音楽の無響室録音です(音)。
次に杉田劇場でのシミュレーション音です(音)。
次に明治座でのシミュレーション音です。(音)
印象はいかがでしたでしょうか?

※発表では音も聴いていただきました。

最後に、主観評価の結果を示します。
主観評価に使用したのは、木造芝居小屋の白雲座と杉田劇場のシミュレーション結果です。
三味線音楽は、80%が杉田劇場より白雲座を好ましいと判断し、ヴァイオリン音楽は、白雲座25%、杉田劇場25%と分かれた結果となっています。

また、無響室録音した音楽を劇場で流して録音したものと、シミュレーションによって作り出した音を、主観評価実験によって比較し、43%の人が全く違いを感じないと評価し、シミュレーションの正確さを確認しました。


今年は、8月に四国の金丸座、内子座、九州の嘉穂劇場、八千代座、兵庫県の永楽館、および木造建物の中にある久良岐能舞台を測定しました。
その残響時間も合わせて示します。

次に、最適残響時間と室容積のグラフにプロットしたものを示します。芝居小屋の残響時間は、講堂の最適残響時間曲線の周辺に存在していることがわかりました。


芝居小屋と、現代の多目的劇場との物理的音響データを比較すると、木造芝居小屋の残響時間は、コンサートホールとしては短いという結果となりましたが、主観評価では、三味線の音楽は、響きの多いコンサートホールよりも、芝居小屋のほうが好ましいと感じられることがわかりました。

伝統的な音楽が、伝統的な空間と密接に結びついて、発展してきていることをうかがわせる結果となり、今後様々な音楽にとって、どのような空間が好ましいかを、検討するためのヒントになるものと考えます。
御清聴をありがとうございます。

2008/09/01

四国、九州、兵庫の芝居小屋の音響測定無事終了

前回ブログでご紹介した、芝居小屋の音響測定を8月18日~23日に無事行うことができました。

18日は、四国琴平の旧金毘羅大芝居金丸座、19日愛媛県内子町の内子座、20日福岡県飯塚市の嘉穂劇場、21日熊本県山鹿市の八千代座、22日再び金丸座、23日兵庫県豊岡市出石町の永楽館で、音響測定を行い、24日無事横浜に帰って来ました。

出発から考えると8日間の測定の旅でしたが、各芝居小屋のある地元の多くの方々に大変御世話になったことを大変感謝するとともに、またこの雨の多い異常気象の中、一度も測定中に雨や風に影響を受けることなく終了できたことは、不思議な気持ちが致します。

測定は、劇場演出空間技術協会建築部会の中の木造劇場研究会が主催し、全国芝居小屋会議と神奈川大学建築学科寺尾研究室と共同で行ったものです。また、東洋大学建築学科藤井研究室の中村さん、また伝統技法研究会の衣袋さんにもご協力をいただきました。またこの研究に関して、ポーラ伝統文化振興財団に助成をいただき、大変感謝いたしております。

現在は測定を行ったデータをまとめており、10月18日、19日に計画されている第14回全国芝居小屋会議永楽館大会にて発表予定です。昨年は、岐阜県にある4座、白雲座、常盤座、鳳凰座、明治座の音響測定を行い、第13回全国芝居小屋会議川越大会で発表をさせていただきました。
昨年は一般的な音響性能である残響時間のほかに、それぞれの劇場の音響シミュレーションを行いました。方法は、舞台からパルスを発し、客席で劇場空間の反射音構造であるインパルス応答を求め、無響室で録音をした三味線とヴァイオリンの音楽を重ね合わせて、あたかもその劇場で演奏されたかのような音を作り出し、耳で聞いて主観評価を行うというものです。その結果、三味線音楽は、コンサートホールのような残響のある空間ではなく、芝居小屋のようなあまり残響のない空間の方が好ましく感じられることがわかりました。今回も、それと同じような実験に加え、上半身マネキンのような形で耳の位置にマイクが仕込まれているダミーヘッドを使用してインパルス応答を求め、音の方向感を分析しようとしています。また昨年と同様に、クラシック音楽仕様の劇場である横浜の杉田劇場に協力を得て、このダミーヘッド録音を行い、各芝居小屋と比較しようとしております。10月の永楽館の全国芝居小屋会議の発表において、芝居小屋には芝居小屋独特の良さがあることを示せると良いと思っています。

第14回全国芝居小屋会議永楽館大会に参加されたい方は、全国芝居小屋会議in永楽館実行委員会事務局、豊岡市教育委員会出石分室(TEL:0796-21-9029)、出石城下町を活かす会事務局(TEL:0796-52-2793)に、お早めにご連絡をお願いいたします。



金丸座


金丸座内観


内子座


内子座内観


嘉穂劇場


嘉穂劇場内観


八千代座


八千代座内観


永楽館


永楽館内観