あけましておめでとうございます。いよいよ2011年が始まりました。
昨年の話になりますが、11月にご紹介した球形のピアノ室が無事昨年暮れに竣工し、音響調査を行いました。
残響時間は、コンクリート素面のときには500Hz帯域で2.8秒と長いものでしたが、竣工時の建築空間では1.42秒、吸音用にクッションを8個をベンチに置いた場合で1.07秒となり、気持ちの良い響きが感じられる空間になりました。
クッション(吸音材)を設置して実験する様子
測定の様子
球形の空間は、音響障害である「ブーミング」、「ささやきの回廊」、「フラッターエコー」、「音の焦点」などが起こります。ピアノ室を設計する場合には、一般的には音響障害を排除した空間をはじめから設定して、音響調整をすることが多いのですが、今回はその逆で、球形の無限の空間をイメージして、その空間を大事にしながら音響設計を行ったため、前回のブログでは、音響技術の挑戦と書かせていただきました。具体的には、壁・天井には、様々な形の木毛板をたくさんランダムに配置し、それをアンコにして、断熱材兼拡散材兼多少の吸音材としてパーライトモルタルで凹凸を付けてこて塗りしたものです。パーライトモルタルは中高音域の音を対象としていますが、低音の拡散体のためには、譜面棚を平面的に7角形のうち3辺に配置しました。そのほか3辺をベンチ、1辺を入口としてあります。譜面棚の扉は、さまざまにスリットを入れて、低音を広帯域に吸音するように心がけました。
そのような音響的な対策を行った結果、音響障害はほとんど感じなくなりました。入口付近で多少ブーミングが見られ、ささやきの回廊がいまだに多少残っています。しかしこれらは演奏に直接影響がないと考えられます。
球形のピアノ室の窓は円形のガラスブロックが星のようにランダムに配置されたものです。実際に星のようにも感じ、宇宙の様な印象があります。ピアノの音もおそらく宇宙空間に響き渡るような感じになると思っています。
天井付近
内部
外観
外観
このピアノ室で、35年ほど前に旅行で行ったギリシャのエーゲ海に浮かぶサントリーニ島にあるLAUDAという海に面した美しいレストランを思い出しました。そのレストランは、海に向かう急斜面にあけた洞窟にあり、内部は火山岩のでこぼこした表面に真っ白な漆喰を塗りつけた仕上げで、海に向かって開放されています。いつかこのような空間を作ってみたいと思っていましたが、ついにそれが実現したような感じがしています。
設計:ストゥーディオ クレアティーヴォ 大野靖 氏
施工:株式会社 川島組