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2008/09/22

2008年度日本建築学会にて発表いたしました

9月18日(木)~9月20日(土)に日本建築学会広島大会が開催され、
20日の室内音響設計(2)において、
「木造芝居小屋の音響特性 岐阜県の鳳凰座・白雲座・常盤座・明治座の例」
というタイトルで発表いたしました。

とりいそぎ、発表原稿および資料を掲載いたします。

※画像はクリックで拡大します。
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『木造芝居小屋の音響特性 岐阜県の鳳凰座・白雲座・常盤座・明治座の例』
というテーマで発表させていただきます。


木造芝居小屋とは、ここでは江戸歌舞伎様式の木造建築の芝居小屋で、舞台客席ともに屋根で覆われている小屋のことを総称します。
木造芝居小屋は明治期には、全国で数千軒ほどもあったとされておりますが、現在では数十軒ほどしか残っていません。


しかし最近では、いくつかは街起こしの手段として復原され、利用され始めており、またそういった芝居小屋の空間は、役者と観客が一体となれる魅力ある空間であると、見直され始めています。
日本の伝統芸能は、このような木造芝居小屋と密接に結びつきながら発展してきていると思われ、しかも現在では数少ない貴重な芸能空間でありながら、この音響的な特徴は、これまではほとんど研究されることがありませんでした。 


そこで本報告では、岐阜県の木造芝居小屋4座、鳳凰座・白雲座・常盤座・明治座の音響測定を行い、現代の多目的劇場と比較しながら、その音響的特徴を音響シミュレーションなどによって検討いたしました。多目的劇場は横浜市の杉田劇場です。


音響シミュレーションは、現場で測定したインパルス応答と、無響室で録音した音楽とを、実時間畳み込み演算装置のHuronを用いて行いました。
 無響室録音は、三味線とヴァイオリン音楽です。
測定は、劇場の舞台上に設置した12面体無指向性スピーカから、スイープ正弦波信号(2秒)を放射し、客席で受音して、その劇場のインパルス応答を求めます。
さらに音響シミュレーションによって、あたかもその劇場で演奏されているかのような音を作り出して、それを複数の音楽・舞台関係者にヘッドフォンで聞いていただき、主観評価を行いました。


各劇場の平面図および仕上げ表を示します。芝居小屋のうち3座は床が畳、常盤座のみ、床が板です。


次に、残響時間周波数特性を示します。いずれも空席時で、杉田劇場は音響反射板設置時のものです。500Hzの残響時間は、杉田劇場1.42秒、常盤座0.91秒、鳳凰座0.58秒、白雲座0.64秒、明治座0.59秒でした。


平均吸音率の分析結果を示します。杉田劇場および平土間席が板張りの常盤座は0.21ですが、平土間席が畳になっている他の3座は、0.29~0.33という値になっています。


次に、RASTI分析結果を示します。杉田劇場は0.5程度、常盤座は0.6程度、他3座は0.7程度で、IEC評価は、芝居小屋がGOOD、杉田劇場はFAIRでした。


次に、杉田劇場と明治座のインパルス応答波形を示します。


次に、三味線とヴァイオリンの無響室録音の波形と、杉田劇場と明治座における音響シミュレーションの波形を示します。

ここで、シミュレーション結果を音で聞いていただきます。
まず三味線の無響室録音です。(音)
次に三味線の杉田劇場でのシミュレーション音です。(音)
次に明治座でのシミュレーション音です。(音)
さらに、ヴァイオリン音楽の無響室録音です(音)。
次に杉田劇場でのシミュレーション音です(音)。
次に明治座でのシミュレーション音です。(音)
印象はいかがでしたでしょうか?

※発表では音も聴いていただきました。

最後に、主観評価の結果を示します。
主観評価に使用したのは、木造芝居小屋の白雲座と杉田劇場のシミュレーション結果です。
三味線音楽は、80%が杉田劇場より白雲座を好ましいと判断し、ヴァイオリン音楽は、白雲座25%、杉田劇場25%と分かれた結果となっています。

また、無響室録音した音楽を劇場で流して録音したものと、シミュレーションによって作り出した音を、主観評価実験によって比較し、43%の人が全く違いを感じないと評価し、シミュレーションの正確さを確認しました。


今年は、8月に四国の金丸座、内子座、九州の嘉穂劇場、八千代座、兵庫県の永楽館、および木造建物の中にある久良岐能舞台を測定しました。
その残響時間も合わせて示します。

次に、最適残響時間と室容積のグラフにプロットしたものを示します。芝居小屋の残響時間は、講堂の最適残響時間曲線の周辺に存在していることがわかりました。


芝居小屋と、現代の多目的劇場との物理的音響データを比較すると、木造芝居小屋の残響時間は、コンサートホールとしては短いという結果となりましたが、主観評価では、三味線の音楽は、響きの多いコンサートホールよりも、芝居小屋のほうが好ましいと感じられることがわかりました。

伝統的な音楽が、伝統的な空間と密接に結びついて、発展してきていることをうかがわせる結果となり、今後様々な音楽にとって、どのような空間が好ましいかを、検討するためのヒントになるものと考えます。
御清聴をありがとうございます。

2008/09/01

四国、九州、兵庫の芝居小屋の音響測定無事終了

前回ブログでご紹介した、芝居小屋の音響測定を8月18日~23日に無事行うことができました。

18日は、四国琴平の旧金毘羅大芝居金丸座、19日愛媛県内子町の内子座、20日福岡県飯塚市の嘉穂劇場、21日熊本県山鹿市の八千代座、22日再び金丸座、23日兵庫県豊岡市出石町の永楽館で、音響測定を行い、24日無事横浜に帰って来ました。

出発から考えると8日間の測定の旅でしたが、各芝居小屋のある地元の多くの方々に大変御世話になったことを大変感謝するとともに、またこの雨の多い異常気象の中、一度も測定中に雨や風に影響を受けることなく終了できたことは、不思議な気持ちが致します。

測定は、劇場演出空間技術協会建築部会の中の木造劇場研究会が主催し、全国芝居小屋会議と神奈川大学建築学科寺尾研究室と共同で行ったものです。また、東洋大学建築学科藤井研究室の中村さん、また伝統技法研究会の衣袋さんにもご協力をいただきました。またこの研究に関して、ポーラ伝統文化振興財団に助成をいただき、大変感謝いたしております。

現在は測定を行ったデータをまとめており、10月18日、19日に計画されている第14回全国芝居小屋会議永楽館大会にて発表予定です。昨年は、岐阜県にある4座、白雲座、常盤座、鳳凰座、明治座の音響測定を行い、第13回全国芝居小屋会議川越大会で発表をさせていただきました。
昨年は一般的な音響性能である残響時間のほかに、それぞれの劇場の音響シミュレーションを行いました。方法は、舞台からパルスを発し、客席で劇場空間の反射音構造であるインパルス応答を求め、無響室で録音をした三味線とヴァイオリンの音楽を重ね合わせて、あたかもその劇場で演奏されたかのような音を作り出し、耳で聞いて主観評価を行うというものです。その結果、三味線音楽は、コンサートホールのような残響のある空間ではなく、芝居小屋のようなあまり残響のない空間の方が好ましく感じられることがわかりました。今回も、それと同じような実験に加え、上半身マネキンのような形で耳の位置にマイクが仕込まれているダミーヘッドを使用してインパルス応答を求め、音の方向感を分析しようとしています。また昨年と同様に、クラシック音楽仕様の劇場である横浜の杉田劇場に協力を得て、このダミーヘッド録音を行い、各芝居小屋と比較しようとしております。10月の永楽館の全国芝居小屋会議の発表において、芝居小屋には芝居小屋独特の良さがあることを示せると良いと思っています。

第14回全国芝居小屋会議永楽館大会に参加されたい方は、全国芝居小屋会議in永楽館実行委員会事務局、豊岡市教育委員会出石分室(TEL:0796-21-9029)、出石城下町を活かす会事務局(TEL:0796-52-2793)に、お早めにご連絡をお願いいたします。



金丸座


金丸座内観


内子座


内子座内観


嘉穂劇場


嘉穂劇場内観


八千代座


八千代座内観


永楽館


永楽館内観