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2023/02/27

山口県長門市の赤城神社楽桟敷

 以前テレビで、ある歌舞伎役者が楽桟敷を紹介し、実際に平土間に立って、話をしたり、手を叩いたりして、音が跳ね返ってくることを感じていました。大きさは異なりますが、ちょうど形がギリシャの野外劇場のような形をしていて、非常に興味を持ちました。そのうち音響調査に行きたいと思っているうちにすでに現在になり、現在は山口県に住んでいる元同僚で構造設計が専門の河野さんが現地に行って、写真を撮ってきてくれました。この長門市の石碑によると、「すり鉢状の山の浴に、北、東、南斜面の傾斜面の地形をうまく利用し、谷底を踊り場として石垣で築き上げた階段馬蹄形の桟敷である。」とあります。1596年に建てられはじめ、江戸後期から明治初期にかけて現在の形態になって完成したようです。昭和30年代までは芝居小屋もあり、文章最後の方にはその音響効果は素晴らしいものであった書かれています。この芝居小屋とはおそらく舞台部分を作る小屋で、客席部分はこの石の段ですり鉢状にできているものと思われます。やはり段々になっている立ち上がりの面から反射音が発生し、室内音響のような状態を構成しているものと思われます。やはり音響測定をしてみることがよかったと思われました。1596年とは、おおよそシェークスピアが舞台と椅子で構成されたスワン座やグローブ座などの芝居小屋で公演をしていて、セルバンテスもシェークスピアと似たような芝居小屋で公演をしていたようです。現在でもAlmagroの町に芝居小屋が残っています。1603年には出雲阿国が北野天満宮でかぶき踊りを公演したとの記録があります。ユーラシア大陸の西の端と東の端で、ほぼ同時にこのような公演があったことがわかっています。ちょうどこのころに楽桟敷の公演も始まっているようです。このころのペルシャやアフリカやインドや中国、朝鮮、またスラブやインドネシアやタイやモンゴルやシベリアなどではどんな雰囲気だったのだろうか?気になるところです。ひょっとしてさまざまなところで同時に新たな芝居の動きが始まっているといいと思います。


                写真:長門市の石碑(河野氏撮影)

               写真:階段状桟敷席の全景(河野氏撮影)


2023/02/19

釈迦堂の再生

 この荏田の地域には、釈迦道(しゃかんどう)や釈迦堂公園という名前は存在しているが、肝心の釈迦堂はすでになくなっている。釈迦堂は大昔に解体され、現在忠魂碑に替わっているが注)、その土地の西側部分に釈迦堂を立てるための敷地が残っているように感じる。昔のことを思うと、ここに釈迦堂があるといいとおもわれるが、現在本尊のお釈迦様は、国指定重要文化財となって、真福寺のコンクリートの建物に祀られていて、管理もしっかりしているように感じる。千葉の鋸山の日本寺が廃仏毀釈の時のようにぞんざいにお地蔵さんを扱ったようにではなく、大事に本尊を扱って真福寺に祀られているように感じる。したがって再度真福寺からお釈迦様を移動することも無理があるように思う。

そこで釈迦堂跡というような石碑を立てられたらいいように感じる。この忠魂碑の現在の土地は横浜市の土地で、管理しているところも横浜市で、簡単に個人の思いがかなえられるわけではない。むしろ経済の再生を考えた方がいいようにも思うが、現在はこの土地には入口にかぎがかけられ、簡単には入れないようになっている。しかしこの土地はほぼ山の頂上にあり、以前はいろいろなところの花火がみられ、川崎民家園の枡形山や旧荏田城のあった山も、更には富士山も丹沢山系の奥によく見える。それだけでも人が集まる契機になりそうだし、また忠魂碑に来るにはしゃかんどうの道から階段で登るしかないので、車は入ってこれず、落ち着いた散歩道になりそうなところだ。

注)釈迦堂がどのように消滅したかの歴史は以下のブログでも明らかではないが、そのうち資料を見つけられるといいと思っている。

横浜市歴史博物館の特別展 『横浜の仏像 しられざるみほとけたち

http://yab-onkyo.blogspot.com/2021/02/blog-post.html

荏田街の散歩道

http://yab-onkyo.blogspot.com/2009/06/blog-post.html

2023/02/13

戸建住宅の音楽練習室の防音の必要性

 音楽室の練習では、おおよそ100dBAの音が出ている。野中の1軒屋であれば、何も問題は無いが、一般的には隣接して住宅があることが多く、夏の場合には窓を開け放している場合もある。したがって音楽室の練習音が近隣に伝搬してしまう場合に問題点がある。つぎに音楽練習室のある家で、一人だけで住んでいる場合には問題は少ないが、家族の寝室や居間がある場合もそこへの練習時の音の対策を建てる必要がある。

音楽練習室が例えば居間にある場合には、ある程度の広さがあるので、何人かで合奏することができる。例えばピアノと何名かのコーラスの場合もある程度の広さが必要で、居間が一番好ましいと思われる。ジャズバンドの場合も何名かの編成で演奏するためにはやはり居間が広さの点で該当する。できればこのような場合には、音楽を練習する場ととして、居間だけでも鉄筋コンクリートで作って、外部に対しては窓を二重にするなどをして、防音対策を行とよい。これは新築の場合にはそれができるが、既にある木造の居間について、屋外に対して、窓や換気口に防音対策を行うことになるが、室内に対してはキッチンなど給水・排水・換気などの機能が複雑なために、なかなか困難な対策となる。そのため音楽練習室がベッドルームなど特定の機能の部屋の場合には防音対策は立てやすい。

最初に音楽室を1階に計画することを考える。最初できるだけ天井高さをとるために、既存の木造の床を撤去して、地面の上にコンクリートの基盤を作る。音楽室の既存の壁にプラスターボードなどを1枚追加する。コンクリートの上に防振ゴムを介して、木製の遮音床を空洞部の下部に適切な孔をあけて作る。(参考YABブログhttp://yab-onkyo.blogspot.com/2030/01/)。また浮壁および浮天井は音楽に応じて適度に面密度を大きくし、できればボルトなどで既存の壁や天井にアンカーをとらない方法としたい。窓は防音サッシを一枚追加する。また防音ドアを浮構造側に設置することが好ましい。既存の躯体に設置すると周辺の固体伝搬音がドアを通して伝搬してしまう。また冷・暖房用の室内機は浮構造のなかで納める。また換気装置のダクトなどは浮構造の貫通部で浮構造を固定しないようにする。ロスナイなどの併用も省エネルギーのために必要なことかもしれない。

音響用の内装については、音楽により、また好みもあるが、太鼓などの低音が大きい場合には低音用の厚い吸音材を、フルートや三味線などは中高音域を適度な量で用いる。ピアノやギターなど自己残響の多い楽器については内装について特に気を付ける必要がある。


                                             図 音楽練習室の概略断面図


2023/02/11

篠笛はなぜ1本で演奏する場合が多いのか

「邦楽百科事典 雅楽から民謡まで」という辞典では、篠笛の項には「長唄の囃子・民俗芸能などで用いられる竹製の横笛をさす」とあり、そのあとに、「現在使われる笛には二種あり、一つは、近世以来の、吹き口、指孔ともに小さい笛で、」 もう一つは大正期にできた「十二平均律的な音階を出せる笛」がある。前者は「、、難しい音階で作られており、笛ごとにこの音程感覚が少しずつ異なってもいる。この理由は、二本以上を同時に合奏することがなかったので、それぞれの笛の個性が認められていたためである。まれに合奏する場合でも、音のずれをまったく気にしないことが過去に多かった。これは、日本の音が、音階をそろえることを必ずしも重視していなかった点からきている。」 たしかに篠笛は歌舞伎や浄瑠璃の世界では、三味線や太鼓は何台も同時に演奏するのに、篠笛はほとんど1本で演奏している。しかしこの辞典ではなぜ笛は1本で演奏するか書かれていない。二本以上を同時に演奏することがなかったので、それぞれの笛の個性が認められていたとある。音響技術者の場合には、二つの音がよく調整されていないと「唸り」が生じると書いてしまう。建築・環境音響学の教科書では「唸り(beat)は振動数がわずかに異なる2つの音波の干渉によって、観測点に生じる時間的な振幅変化であり、1秒間の唸りの回数は2つの音波の振動数の差になる。」一般的には2本の笛を同時に鳴らすと後にプルプルという音に聞こえることが多い。しかし唸りがあって何故問題なのかと言われそうです。また「唸り」という言葉も一般には使われていないようにも思う。お囃子の笛は毎朝吹いて練習していてなじみがありますが。

2023/02/08

マンションの中の音楽練習室の防音の必要性

 音楽室の練習音はおおよそ100BAの大きさが出てしまい、一般のマンションの遮音性能は建築物の遮音性能基準と設計指針〔第二版〕によると、コンクリートの界壁はおおよそ4550BAのため、5055dBAの音が隣接する住戸に透過してしまう。建築学会編の「建築物の遮音性能基準と設計指針〔第二版〕」の一部を抜粋して掲載する。これによると外部騒音などの不規則変動音は50BAで「多少大きく聞こえる」、55BAで「大きく聞こえ少しうるさい」となる。

 表 表示尺度と住宅における生活実感との対応の例

騒音レベル

騒音等級

外部騒音

内部騒音

道路騒音などの不規則変動音

工場騒音などの定常的な騒音

自室内の機器の騒音

共用設備からの騒音

 

 

 

 

 

 

25dBA

N-25

・通常では聞こえない

・ほとんど聞こえない

・ほとんど聞こえない

非常に小さく聞こえる

30 dBA

N-30

・ほとんど聞こえない

・非常に小さく聞こえる

・非常に小さく聞こえる

・小さく聞こえる

35 dBA

N-35

・非常に小さく聞こえる

・小さく聞こえる

・小さく聞こえる

・聞こえる

40 dBA

N-40

・小さく聞こえる

・聞こえる

・聞こえる

・会話には支障なし

・多少大きく聞こえる

50 dBA

N-50

・多少大きく聞こえる

・大きく聞こえ少しうるさい

・大きく聞こえる

・通常の会話が可能

・かなり大きく聞こえる

55 dBA

N-55

・大きく聞こえ少しうるさい

・かなり大きく聞こえややうるさい

・かなり大きく聞こえる

・多少注意すれば通常の会話が可能

・非常に大きく聞こえうるさい

60 dBA

N-60

・かなり大きく聞こえややうるさい

・非常に大きく聞こえうるさい

.非常に大きく聞こえうるさい

.声を大きくすれば会話ができる

・非常に大きく聞こえかなりうるさい

 

備考

道路騒音など

工場騒音など

空調騒音、給排水管など

エレベータ、ポンプなど

引用)建築物の遮音性能基準と設計指針〔第二版〕日本建築学会編 抜粋

したがって普通のマンションでは音楽室の音は、隣戸に音が伝搬して、一般的に言えば、マンションでは防音室を作らないと、隣戸に影響を与えずには一般の音楽の練習はできないことになる。

そこで壁の遮音性能を目標Dr-70として、対策を考える。また音の伝搬は空気伝搬音と固体伝搬音の2種類があることを念頭に浮構造として対策を立てる。Dr-70とすれば、室内で100dBAの音が、隣戸で、1007030dBAとなり、外部騒音などの不規則変動音は「ほとんど聞こえない」となる。固体伝搬音の対策としては、防振ゴムで支持する浮構造を用いる。

 また音楽練習室の防音仕様としては、浮床は適度な剛性のある木製の床が好ましいと思われる。コンクリート浮床は厚さ100mmで2400N/m2(約240kg/m2)もあり、建築基準法の住宅の積載荷重制限の1800N/m2(約180kg/m2)と比較して重すぎるために用いにくい。しかし木製とすると今度は面密度が軽すぎて重量床衝撃音に対して増幅してしまう。そこで2019年に建築学会大会で報告した床仕様を音楽練習室の床仕様に配慮することが好ましく思われる。(2019年の建築学会大会の梗概集:ヘルムホルツ共鳴器を有する乾式遮音二重床の開発 集合住宅の改修への適用

また浮壁および浮天井は音楽に応じて適度に面密度を大きくし、更にボルトなどで既存の壁や天井にアンカーをとらない方法としたい。アンカーボルトを既存の壁や天井に設置すると施工時に騒音が大きくなり、周辺の住民に迷惑がかることと、当物件を販売するときにも、解体時の騒音が大きくなる。もちろん浮床のコンクリートの解体は壁や天井の遮音層より大きな騒音となると想像できる。

音楽練習室の内装材は特にマンションの場合には不燃材で仕上げることが好ましい。暖房・冷房用の室内機は、浮構造の壁の下地に設置することが好ましい。また換気扇も浮構造の中で納めたい。換気扇の入力・排気の納まりはロスナイなどを用いて暖房や冷房効率を上げることが望ましい。

音楽練習室用の内装については、人の好みや音楽に質などがあり、一概に決められない。設計段階できめていければいいように思う。


                  

                        図 音楽練習室の概略断面図