2007/12/25

小田急相模原駅文化交流プラザ(おださがプラザ)オープン

小田急相模原駅文化交流プラザ(おださがプラザ)が、12月2日にオープンしました。弊社は当施設の音響設計を担当いたしました。
この施設は同日オープンした小田急相模原駅直結の商業施設『Rac-AL odasaga(ラクアル・オダサガ)』内にあり、交通がとても便利で、またスーパーマーケットを含む商業施設と高層集合住宅との複合施設となっており、人が集まりやすい施設です。さらにこの施設の特徴は、多目的ルームで音楽の練習や演奏会、演劇などの公演が出来るように、防音のための浮き構造を採用したことです。これによって90デシベルほどの音を出すクラシック音楽、軽音楽や歌の練習でも、隣接したミーティングルームや階下の店舗などに音の影響がでないようになっています(ただし、ロック系軽音楽などの場合は100デシベルを超えるような音圧レベルとなるため、会議室や階下の店舗に多少影響が出る場合も考えられます)。
この多目的ルームは、12.5m×19.5m、約240平米というかなりの広さがあり、ギャラリーや講演会、また合唱や演奏会、多人数の音楽の練習、演劇の練習、社交ダンス、ハワイアンダンス、エアロビクス、カラオケなど様々な用途に活用することができます。少人数での利用の場合は、2つの可動遮音間仕切りで3室に仕切れるようになっています。可動間仕切りのうちひとつは遮音性能の高いものを使用しています。
竣工後の測定では、残響時間は室全体では0.8~1.0秒程度、3室に分割した場合には0.6~~0.7秒程度となっています。室用途が講演からクラシック音楽までを対象としているので、響き具合については声の明瞭性と音楽のための響きを考慮したバランスの取れたものとなっています。オープン以来、たくさんの方にご利用いただいているようです。

設計:パシフィックコンサルタンツ株式会社
文化施設の内装設計:フレームデザイン株式会社 
施工:安藤・藤木・小田急・櫻内建設共同企業体

多目的ルーム




ハーフPCaボイドスラブの減衰定数についての論文が日本建築学会技術報告集第13巻第26号に掲載されました

ハーフPCaボイドスラブの58箇所の床振動実験を行い、その減衰定数を分析した結果を日本カイザーの堀内さん、ボイドスラブ協議会の佐藤さんと共同執筆いたしました。

集合住宅のボイドスラブは、振動減衰波形にうなりを生じているものが多く、単純な対数減衰率から求めることが出来ないために、シュレーダー法による減衰波形から残響時間をもとめ、その値から減衰定数を求めました。その結果、うなりの原因は隣接するスラブの固有振動数が近いために影響を受けていること、またこのハーフPCaボイドスラブの減衰定数はおおよそ1.7%であることが求められました。一般的なコンクリートスラブの減衰定数2~3%の値より小さな値となっていますが、これはボイドスラブの剛性が大梁と比較して大きく、小梁などの減衰要素が無いためと考えられます。環境振動などの影響を考えると減衰定数は大きいほうが良いと思われ、小梁に変わる減衰要素によって減衰を大きくすることも今後の課題と考えられます。

分析を指導していただいた信州大学の山下先生、分析に協力をしていただいた同じく信州大学修士課程の森川さんに大変感謝をしている次第です。また論文の評論をしていただいた日本大学の井上先生、鹿島建設の安藤さんにこの場で、感謝の意を表します。

この床振動実験は、ボイドスラブの実験方法、その評価方法、振動に関する設計方法などを検討するために行った実験であり、目的に沿って今後とも継続していく所存です。

2007/12/10

第13回全国芝居小屋会議に参加

ご報告が遅れましたが、11/24~25に川越で開催された全国芝居小屋会議に参加し、木造芝居小屋の音響特性について発表いたしました。

11/23には、群馬県渋川市赤城町の上三原田農村歌舞伎を見学しました。2日後にこの会場で、全国地芝居サミットがこの会場で行われる予定で、その日はリハーサル中でした。

リハーサルの様子



この屋根は、この日のためだけに3ヶ月もかけて作られたそうです。その後、群馬県みどり市大間々町のながめ余興場を見学しました。ちょうど桐生・みどり地区高等学校合同音楽祭が開催されていて、桐生女子高等学校管弦楽部の演奏を聴きましたが、指揮をしている先生も学生も乗って演奏しているのが良くわかりました。





そして11/24には川越のスカラ座で、「講演・事例報告」が行われ、その中で「芝居小屋の失われた音を探して」という題目で発表させていただきました。発表内容は、下記にご紹介します。





その他、山鹿市立博物館館長の木村理郎氏より「八千代座 市民運動と芝居小屋再生について」、全国芝居小屋連絡協議会技術支援部門代表の賀古唯義氏より「芝居小屋の守りかた・活かしかた」、そして早稲田大学演劇研究センター講師、常磐津和英太夫 鈴木英一氏による「歌舞伎の音そして空間について」と常磐津のミニライブで盛り上がりました。

講演・事例報告会の後、川越の木造芝居小屋の鶴川座の見学会が行われました。現在の所有者である蓮馨寺の住職が、木造芝居小屋に復原する決意を述べられていました。それは、今回の芝居小屋会議の最大の成果ではないかと考えます。近いうちに、木造芝居小屋に復原する作業が開始されそうな勢いでした。

鶴川座の見学

11/25の総会では、来年復原が完了しオープン予定の兵庫県豊岡市出石町の永楽館が会員となられ、来年の全国芝居小屋会議は永楽館で開催されることが早々に決定しました。

私の発表内容を下記にご紹介します。発表は神奈川大学建築学科寺尾研究室の4年生高見鉄兵君と共同で発表いたしました。

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●はじめに

昨年より、劇場演出空間技術協会(JATET)に、建築家の山崎先生が中心となり「木造劇場研究会」が発足し、木造芝居小屋を主な対象として研究が始まりました。
昨年、全国芝居小屋会議に出席し、初めて嘉穂劇場と八千代座という木造芝居小屋を体験しました。嘉穂劇場は三井三池炭鉱の街にあり、昔は周辺に40軒ほども木造芝居小屋があったと聞き大変興味を持ちました。また、今年の四月には金毘羅大芝居を観劇しました。そしてこの夏には実際に芝居小屋の音響測定を致しました。測定に先立ち神奈川大学の建築学科の寺尾教授にご協力を依頼し、またカメラマンであり「芝居小屋大向こうの会」の永石さんの熱意で実現しました。

●建築音響学の歴史

建築音響学の歴史は、ボストンシンフォニーホールの音響設計をしたSabineの残響理論に始まると言われています。竣工は1900年、今から約100年前です。そのホールは現代でも、3大ホールの一つと言われています。その他は1870年に出来たウイーンのムジークフェラインザール、1888年に出来たアムステルダムコンセルトへボーです。
実は、音響設計といっても残響時間しか考えていないボストンシンフォニーのすばらしさは、偶然の賜物でした。その後1962年に出来た、ニューヨークフィルハーモニーホールは、世界中のホールを調査して設計されたもので、その調査結果は世界的名著になりましたが、ホール自体の評判は悪く、4回も改修したのち、さらに全面改修が行われ1976年にエヴリフィッシャーホールと言う名称に変更されています。当初のホールの形は、たる型でしたが、現在は長方形のような形です。そのニューヨークフィルハーモニーの翌1963年に開館したベルリンフィルハーモニーは評判がよく、それをたたき台にして1986年に日本でサントリーホールが竣工しています。
ホールは残響時間だけではなく、直接音と、直接音から50ms~80ms以内に到来する初期反射音、それに側方の反射音が非常に重要と言うことがやっと1960年代にわかってきました。日本では1957年の杉並公会堂以来、たくさんの多目的ホールができ、1961年の東京文化会館で1つの技術的なピークを迎えました。その後、多目的ではない、目的を明確にしたホールが要求されるようになり、現在では質の高いコンサートホールがたくさん出来てきています。
これまで我々音響技術者は、ヨーロッパのモーツアルトやベートーベン、またブラームスの時代のクラシック音楽を対象として、しかもかなり大きなホールを前提に、好ましい豊かな響きが得られることを主な目的とし、残響の長いホールを目指して設計を行ってきました。ところが、木造芝居小屋は、床は畳、壁は障子や襖、天井は無いような、あるような、いずれにしても吸音性の材料で出来ています。残響が長いわけがありません。木造芝居小屋は、今まで音響技術者が求めてきたものとは正反対のものでした。

●実験の目的

日本の伝統芸能を育んできた木造芝居小屋と、現代の一般的な形の多目的劇場の音響測定を行い、その音響的特徴を比較しながら確認しました。測定を行った木造芝居小屋は岐阜県の中津川市および下呂市にある4座で、鳳凰座、白雲座、常盤座、明治座です。多目的劇場は、横浜市磯子区民センターの杉田劇場にご協力いただきました。もともとこの敷地には戦後に同じ名前の杉田劇場という木造芝居小屋があり、それが名前の由来となっています。

一般的に、音響上の物理的指標は、残響時間周波数特性がよく用いられますが、今回の実験の大きな特徴は、その他に劇場空間の音のインパルス応答を求めたことにあります。インパルス応答とは、拍子木の音のようなパルス音を舞台上で発し、客席でその直接音と壁や天井からの反射音の時間的経過を表したものです。しかもそのパルスは大きさが1で、時間がゼロといった物理的な基準を持つパルスであるために、その劇場に対するインパルス応答は無響室録音した音楽や音声とコンピュータ上で重ね合わせることで、あたかもその劇場の客席で演奏や話を聞いているようにシミュレーションできるものです。そのシステムによって、様々な音を用いて各地の劇場の音を再現し、耳で比較することができるようになります。今回は、日本の伝統的な楽器である三味線と、もっとも響きが必要と思われるヴァイオリンの無響室録音した音を用いています。三味線は、同日に講演される常磐津和英太夫さんと常磐津菊与四郎さんにお願いして、神奈川大学の無響室で録音を致しました。

クラシック音楽のための最適残響時間という指標では、残響の少ない木造芝居小屋を評価することはできません。しかし実際、日本の伝統的な音楽に対して、それを育ててきた木造の残響時間はどう評価されるのか、やはり短いと感じるのか、それとも好ましく感じるかどうか、耳で聞いて確認をしてみようというのが実験の主旨です。

発表では、ここで木造芝居小屋4座と杉田劇場の音を聴いて比較していただきました。

残響時間測定結果の紹介、 杉田劇場は音響反射板設置時のものです。
平均吸音率の測定結果の紹介
無響室録音の演奏音
インパルス応答測定結果
シミュレーション結果
明治座の三味線、杉田劇場の三味線
明治座のヴァイオリン、杉田劇場のヴァイオリン
鳳凰座、白雲座、常盤座、杉田劇場の三味線
鳳凰座、白雲座、常盤座、杉田劇場および無響室録音のヴァイオリン

●まとめ

私の感想としては、木造芝居小屋の三味線の音は自然な印象ですが、残響の長い杉田劇場で演奏した三味線の音は、風呂の中で歌っているような、あるいはオペラを歌っているような感じです。ヴァイオリンの音色に関しては、芝居小屋ではクリアな音ですが、杉田劇場では朗々として空間を充満させています。このヴァイオリニストにもある程度評判はいい劇場です。
何ゆえ、芝居小屋の三味線は自然に聞こえるかは、これからの研究テーマです。考えられるのは、三味線の無響室録音の音の波形は魚の骨のように分離していますが、ヴァイオリンの音は連続しているためではないかと思っています。音が分離していれば残響が短いほうが、その特徴を保持できます。しかしヴァイオリンの連続音はホールの拡散音で補強されることを期待しているのではと想像しています。しかし、このような仮説を立ててもすぐ覆される別の状況もあります。たとえば、篠笛や尺八は連続音ではあるが、どのような空間が好ましいのか?ピアノは打撃音なので、どちらかと言うと不連続音ですが、これはどうか?二胡はヴァイオリンのような弓で弾く楽器ですが、どのような音響空間が好ましいなのか?
 さらに、最近はヨーロッパで屋外のコンサートが流行っていると、ある音楽家がラジオの対談で言っていました。ヴァイオリンの音にあわせて、小鳥も鳴いて、とても気持ちが良いそうです。しかし屋外ですから、ホールのような響きはありません。以前、ウイーン郊外のホイリゲという屋外のレストランでワインを飲んでいた時に、ヴァイオリンの流しが来て、ヨハンシュトラウスを聞かせてくれたことがあり、これも気持ちが良かったです。したがって、楽しむという状況さえあれば、音の場合にはかなりいろいろ許されると言うことではないかと思います。

そこで今日のタイトルですが、「芝居小屋の失われた音をさがして」は、私がつけたテーマではないのですが、感心しています。これは、我々音響技術者に向けた警告と受け取れます。要するに、芝居小屋のような空間が現在ほとんどなくなってしまった、それが問題です。三味線は、そのような空間で聴くのが自然に聞こえるからです。おそらく、そのほかの楽器、琵琶、尺八や和太鼓なども木造芝居小屋の中で演奏されるのが、現代の多目的劇場で演奏されるより自然であろうと思います。それならば、インドの音楽はどうなのか、中国の音楽はどうなのか、様々な音楽に対して、建築音響学はまだ対応していないことがわかります。

音楽や演劇の歴史は4000年、建築音響学の歴史は100年です。今日は残響について主に御話をしましたが、芝居小屋には、コンサートホールには無い、もう一つ大きな特徴があります。それは音の方向感があることです。シューボックスタイプのコンサートホールは後のほうで聞くと、楽器の音が舞台の大きさの綿飴のような感じになって聞こえます。それはハーモニーを大事にするからですが、音の方向感は薄れます。臨場感は音の方向感も重要な要素です。木造芝居小屋では、残響が少ない分、直接音成分が多く、音の方向感が出てきます。しかも舞台は花道で、演者は客席まで入り込んで演じます。お客さんの前後左右から音が飛び交います。これもすばらしい特徴です。しかしこの特徴も、マイクで拾って、スピーカーから音を出すと消えてしまいます。声を発している人から聞こえないで、スピーカーの方向から聞こえてしまうのです。これは気をつけねばいけない事柄の1つです。

9月のはじめにイスタンブールに音響学会の発表のために行って来ましたが、イスタンブールでは、ザーズと言うマンドリンのような民族楽器をもって歩いている人が結構います。それは楽器ですか、と聞くと、ケースから出して弾いてくれる人もいました。みやげ物屋にも、このザーズが置かれていて、お店の人が弾いてくれたりします。楽器屋さんでは、このザーズが天井一杯にぶらさがっており、それ以外にザーズより少し大きい楽器と、柄が折れている琵琶のような楽器がほとんど、後は太鼓やアコースティックギターがあり、電気楽器は少ないです。日本では、町を御歩いている人が持っている楽器はほとんどがエレキギターです。三味線を持っている人に会うのは京都の祇園ぐらいではないでしょうか。
改めて日本の文化と木造芝居小屋を見直していく所存です。