2007/06/19

橋本典久 著『近所がうるさい!騒音トラブルの恐怖』 

 著者は、床衝撃音の予測法を開発していたことで有名な音響技術者です。この本では、1974年に起こった有名なピアノ殺人事件など、近隣騒音を原因とす る殺人事件や傷害事件の多数の例を示し、事件までの過程を細かく紹介し、その原因の検証を行っている。現状ではその対策方法は極めて難しいと述べている。
  事 件を起こすような人の多くは、日常的に外部に心を閉ざしていて、騒音の加害者(騒音発生者)が自分を攻撃している、ないし嫌がらせされているといった妄 想を懐くようになり、ついには事件を引き起こす。しかし、事件を引き起こさないまでも、騒音被害者は攻撃されているといった妄想を抱く段階に至っている状 況も多く、その多くの場合、騒音加害者側が被害者側に対して思いやりが不足している。昔のように地域のコミュニケーションが存在していれば、解決までいか なくとも、御互いが遠慮しあうこともある。近隣騒音の問題は、音の大小より心理的な問題が大きく、コミュニケーションが存在しない場合には、近隣騒音の問 題は攻撃的な性格を帯びるようになる、という。被害者も、音に囚われてしまっている状態であることを冷静になって考えてみる必要がある。騒音対策技術で は、効果に限界がある。また役所の環境課や、裁判でもほとんど解決不能である。他人の騒音を許さない社会を目指す限り、騒音事件は増える一方である。日本 人は音に対して従来は寛容な民族であったのだから、昔に戻って、音がうるさいのはお互い様、という社会をつくってゆかねばならないと述べています。もちろ ん著者は、音の大きさが問題となっている騒音と、近隣騒音のような心理的要素によりうるさいと感じる煩音を分けて考え、単にうるさくてもガマンしろと言っ ているわけではありません。筆者は『最後に、騒音事件のない社会の実現を願ってあえて言いたい。“音がうるさくて何が悪い”』と締めくくっています。
 
  こ の本の内容は、スリラー小説よりもぞっとするし、不安感も懐かせるものです。われわれ音響技術者は、技術的面から生活環境の快適性を向上させていく責務 があります。特に集合住宅の音環境は重要な問題です。しかし、生活者としては地域のコミュニケーションが機能している社会を目指すべきだと思います。例 えば、ヨーロッパの音楽を含む芸能文化はその一翼を担えるのではと思います。芸術は個人の思いを他の人たちと共有化することですが、それを地域的なもの として発展させることです。昔からある地域の御祭りはその機能を持つ典型的な文化です。劇場も地域文化を支える拠点になればいいと願っています。



『近所がうるさい!騒音トラブルの恐怖』
八戸工業大学大学院教授橋本典久 著 
発行所 KKベストセラーズ2006年7月発行 819円

2007/06/11

和太鼓「鼓遊」のコンサート

 6/10(日)和太鼓「鼓遊」のコンサートが稲城市の駒沢学園記念大講堂でありました。
 
 「鼓遊」は、稲城市を拠点とする和太鼓のグループで、この会を率いている、頭の木崎さんは普段は酒屋さんを本業としていらっしゃいますが、稲城市地域社会の文化・芸術の発展向上と共に次世代を担う子供達の心の健全育成を目的に活動されています。

  この日、大講堂は満席となり、すばらしい演奏を見せてくれました。第二部には障害者グループの「友遊クラブ」の演奏もありました。木崎さんは最後の挨拶 で、小学生や中学生がたくさん来てくれたことへの感謝と、太鼓を若い人に広げるのが夢だといっていました。地域のコミュニティーがほとんど無くなってし まっていることから、このような活動は非常に重要なことだと思います。鼓遊のグループは、ほとんどが女性で、男の子が少ないのは残念です。

  鼓遊とは、練習所の音の問題の相談を受けたことで知り合いました。和太鼓の一般への浸透は歓迎すべきことですが、その音の大きさでは近隣問題になる可能 性もあります。和太鼓の音は一般的にはお祭りがイメージされますが、しかしその感じ方は人によって異なります。騒音と認識されるかどうかは、地域コミュニ ティーがしっかりとしているかどうかによっても、影響を受けます。

神奈川大学吹奏楽部2007サマーコンサート

 6/8(金)横浜みなとみらいホールで、神奈川大学吹奏楽部のコンサートがありました。非常勤講師として教えている神奈川大学建築学部の学生にも、吹奏楽部の学生がおり、練習を見させてもらったこともあります。

 前半は寺井尚行作曲 『ウインドオーケストラのための「時間が空間を舞う(ときがそらをまう)」』、福島弘和作曲 『アイヌ民謡「イヨマンテ」の主題に よる変奏曲』、2007年度全日本吹奏楽コンクール課題曲より、真島俊夫作曲 『鳳凰が舞う-印象、京都 石庭 金閣寺』で、後半はヨハン・セバスチャ ン・バッハ作曲『トッカータとフーガ ニ短調BWV565』、クロード・ドビュッシー作曲『喜びの島』、モーリス・ラヴェル作曲『「スペイン狂詩曲」より 祭り』、ジョルジュ・ビゼー作曲『「アルルの女」第2組曲より第4曲ファランドール』、アンコール曲はアラビア風の『ナジムアラビーノ』、『美空ひばりメ ドレー』、『星条旗よ永遠なれ』。

 前半は日本人の作曲者の作品で、最初の「時間が空間を舞う(ときがそらをまう)」』の「時間(とき)」は朱鷺を表現しており、たくさんの朱鷺が空を舞っ ている様子を感じさせる雄大なものでした。日本人の作曲者のものはコンサートでは、あまり聴く機会がありませんが、吹奏楽器とハープやコントラバス、打楽 器、和太鼓などがとても豊かな音を出し、演奏も力強くすばらしかったです。「鳳凰が舞う」は、実物の笹を舞台で揺らして、風で葉がそよぐ感じを表現した り、獅子脅しのような音、フルートによる篠笛のような音もあり、非常に臨場感があり印象的でした。毎年のように金賞を得ている神奈川大学の吹奏楽部の実力 を感じました。

数年前に、知人でもあるKinbo Ishii-Etoが指 揮するベートーベンの「田園」を聞いたときに、出だしの音が野原を吹き渡る春風のように聞こえたことがあります(この話はKinboに楽屋まで行って伝え ましたら、喜んでいました)。Kinboは音の効果のために、楽器の並べ方を工夫しているそうです。例えば、コントラバスは一般的には上手側に固まってい ることが多いですが、横一列に並べるなど、演奏の効果をより発揮できるレイアウトに、曲ごとに柔軟に変えていきます。また、今年の1月に山本寛斎演出の 「太陽の船」というイベントを東京ドームに見に行った際、300台の和太鼓の生演奏では、波のように音が動く、生き生きとした臨場感を感じました。

 コンサートでは楽器の位置から音が聞こえることと、その音を効果的に表現することは芸術的な表現内容を広げ、臨場感が増すため、非常に重要なことと考えています。