ページ

2010/11/30

渋谷区文化総合センター大和田 伝承ホールの杮落し公演

2010年11月27日(土)10時半より、伝承ホールの杮落し公演があり行ってきました。伝承ホールの目的は、区民文化の伝承のためのホールであり、また優れた伝統文化のためのホールのようです。
プロデューサーの鈴木英一さんが御挨拶をされ、このホールは芝居小屋の雰囲気をイメージして作ったと仰っていました。舞台近くの両側客席には横に向いた桟敷席があり、花道もあり、それが客席中央手前で直角に曲がり壁の方に折れて鳥屋口があります。客席と舞台の一体感があり、芝居小屋の雰囲気が出ていました。

杮落し公演は、渋谷区の伝説的ヒーローである渋谷金王丸(こんのうまる)にちなんだ内容で、渋谷金王丸伝説と出して、祝言「寿金王桜三番叟」、新作カブキ踊り「KONNOMARU伝説」、「渋谷カブキ音頭」、最後に「かぶき体操」でした。出演は、渋谷金王丸に市川染五郎、渋谷川の川神に尾上青楓、桜の精に尾上京、常磐津は和英太夫(鈴木英一)、三味線は菊与志郎。カブキ音頭以降は、公募で選ばれたワークショップの皆さんでした。御隣に座っていた方が、染五郎は金王丸に似ていると仰っていました。どこのどなたにですかと聞きなおすと、金王八幡にある像だか絵にある金王丸だそうで、金王丸が身近になりました。今回の出し物で圧巻だったのは新作カブキ踊りです。ラップのケーダブシャインや菊与志郎のエレキ三味線やドラムなどのロック系の音楽で、新しいリズムで踊りまくるものです。カブキ踊りとは染五郎が歌舞伎の原点を見つめ直すために始めた究極の娯楽スタイルとのこと。非常に面白かったです。劇場も芝居小屋をイメージして、ある意味演劇空間の原点を見つめ直したものであり、公演の内容も原点に戻ってのものでした。



最近読んだ本の「シェイクスピアとエリザベス朝演劇」に、1596年ロンドンにある劇場スワン座に訪れたオランダ人がその雰囲気を表現した文章がありました。少々長くなりますが引用いたします。
「中に入ると、木造三階建ての桟敷にとりかこまれた平らながらんとした露天のたたきに出る。これが平土間であった。人間の高さの舞台には、超自然的人物たちを地中から登場させる上げ蓋が仕切ってあった。囲いを背にして、舞台は平土間の中央に四角に突き出ており、その両側にはまだ空間が残っていて、他の平土間席と同じく、立見客を入れることができた。舞台奥の貴賓席と呼ばれる一種の桟敷は、俳優の共同部屋(楽屋)の階上にしつらえていて、そこに陣取った観客は、役者を背後から眺めることになった。それでもここは名誉ある席であった。というのは椅子席でもあったし、またここにいればまわりの不愉快な連中から隔離されていたからである。こうしたわけで、俳優たちは周りじゅう、観客にとりかこまれていたのであった。」(引用)
これは、ほとんど江戸時代の芝居小屋と同じ風景であり、舞台と観客の一体感のある空間が演劇空間の原点といえるものだと思います。

2010/11/29

平河町ミュージックスのコンサートを聴きに行きました

平河町ミュージックスは、安井平河町ビルの1階のロゴバという家具屋さんのショールームで行われているコンサートです。2010年11月26日は「漆原啓子 瀬木理央のヴァイオリンひとつとふたつ~点と線」でした。
このショールームは2層吹き抜けの空間で、一部2階がその空間の中に宙に浮いた半島のように張りだしており、客席空間がその2階のために分断されています。舞台空間は設定されているのですが、お客さんが、どちらが正面ですかと聞いている場面もありました。
最初の曲はバッハの「パルティータ第3番」で、その半島の様な2F部分から突然演奏が始まりました。演奏者は見えない状態で上から音が聞こえてくるという演出です。
最初の曲の演奏が終わると1Fに降りてこられ、バッハの曲が天国から聞こえるようにと考えてそうしたとのこと。なるほど面白い空間だと思いました。
次はイザイの「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ第2番」、バッハの先のパルティータの引用から始まる音がちりばめられたような曲です。つぎの2曲はプロコフィエフの「二つのヴァイオリンのためのソナタ」と武満徹の「揺れる鏡の夜明け」で、珍しいヴァイオリンデュオの作品でした。こちらがコンサートのタイトルである点と線の線にあたるもので、急に音楽空間をイメージできるようになります。最後の曲は高橋悠治の「七つのばらがやぶにさく」でした。
この空間はショールームですから2面は大きなガラス張りで外からよく見えます。周辺の人には大変便利で、音楽を身近に感じられるコンサートです。曲目も刺激的な選択で、演奏者も演奏も素晴らしかったです。その場で販売されていた小沼純一著「無伴奏」を購入して帰りましたが、そのほぼ真ん中のページにイザイの写真が載っています。なんだか町の大工職人のような風貌で、繊細な曲を作曲した人のようでなく、親近感を覚えました。

コンサート会場の様子

話は変わりますが、わが事務所の近くにトヨタカローラ神奈川荏田店のショールームがあります。車のことでよく伺うのですが、そのショールームもコンサートには大変良い空間といつも勝手に思っており、今回のコンサートでそれをさらにイメージすることができました。このあたりを活性化させるために何かできないかといつも考えています。トヨタ荏田店の場所は、かつての大山街道の荏田宿の起点の様な所で、荏田商店街の端にあたり、道路の向かいにはデイケアセンターもあり、人が集まる理由もありそうです。

球形ピアノ室-音響技術の挑戦

現在、浜松市にて「○と□計画」として、ピアノ室付きの専用住宅の建設が進行しています。○は球形のピアノ室を象徴し、□は住戸部分を表しています。球形のピアノ室とのことで、音響設計のご相談をいただきました。
今年7月から着工し、ようやく○の部分の型枠が外れ、内外とも球形の空間が現れ、11/25に音響測定を行いました。外部は、建築家大野さんのブログにあるように球形のピアノ室と長方形の住宅がバランスよく、かわいらしく、すでに町に溶け込んでいる感じです。横を通った高校生たちが、ガヤガヤと浜松にフジテレビが出現したと騒いでいました。

内部空間は、自分の話声が耳の周りで拡大して聞こえるブーミングや、壁の端で話した声が反対側の壁のところで鮮明に聞こえる「ささやきの回廊」現象などがはっきりと見られました。このままで音の博物館にしたいという声が出たくらいです。

この空間を、どうピアノ室にするかは音響技術の挑戦といってもよいくらいです。しかし試しに吹いてみたサックスの音は、豊かな残響のために気持ちよく感じます。音響設計のポイントは、この残響感を残して音響障害を取り除くことにあります。しかも大野さんのデザインを生かしながらの音響設計です。12月末には竣工予定です。

◯と□外観

音響測定の様子


2010/11/05

つくば古民家でのコンサートに行ってきました

2010年10月31日(日)17時半、第7回つくばフクロウの森コンサートがありました。
タイトルは「西村佳子 メゾソプラノリサイタル」、ピアノ伴奏は江澤隆行さんです。昨年の今ごろにも同じメンバーでコンサートがあり、ブログで紹介させていただきました。
江澤さんが、最初はスカルラッティの「すみれ」という曲で、300年前の古い曲ですと説明され、この家はそれより30年も古い時代にできたのです、とおっしゃいました。なるほどこの古民家は古いと感心したものです。
前日(10/30)は、台風14号のために大雨、当日は小雨交じりの良くない天気でしたが、ほぼ満席となっていました。
前半はオペラのアリアを、後半はポピュラーソング中心の内容でしたが、とくに前半のカントルーブ作曲の「かっこう」がカッコウの鳴き声をまねたとてもかわいらしいものでした。
会場は、床は畳、主な壁は襖と障子なので、ホールの様な響きはありません。ですが、土壁やガラス障子や天井からは反射音が来ているはずです。歌手は目の前3~4mのところで歌っていますが、歌は明瞭で、細かなニュアンスも伝わってきます。私は、歌手にとっては響きや返りの点が気になっていましたので、このような場所でも大丈夫かと講演後に江澤さんに聞いたところ、歌いやすいとのことでした。観客と一体感があって、このような場所は素晴らしいとおっしゃっていました。江澤さんの話や西村さんの歌を聞きながら観客が盛り上がっているのを見て、観客も舞台と一体化していると感じていました。とても満足して帰りました。

このコンサートは、つくばの地域計画の一環として行われているようで、もう7回にもなります。また次回は、11月20日、21日と「つくば田園都市居住シンポジウム」が開かれる予定で、そのあとにピアノ三重奏のコンサートも計画されているようです。



私も関係している「横浜ふね劇場をつくる会」では、鉄の艀による「ふねの劇場」ができてはいるのですが、市民活動の力及ばず、公共の海に常時浮かばせることができず、年に1回、1か月の限定で海上での公演の許可を受けられることにはなっています。しかし、ふね劇場を艀だまりの山下埠頭から公演できる場所に移動したり、公演のための発電機などの道具を借りたり、舞台設備の操作のための人件費などの公演の費用が捻出できず、これまで1度しか公演が実現できていません。やはり常時決まった場所に置けて、絶えず練習や公演ができるような状態でないと使いこなせないような気がします。

1981年に中村川に木造船を浮かべ、横浜ボートシアターが旗揚げしました。おはこの「小栗判官照手姫」が評判で賞(1984)をいただいたり、横浜水辺賞(1984)1や横浜文化賞(2001)などをいただいているのですから、横浜には貢献をしているはずです。しかし、実績が継続され積み上がっていません。つくばフクロウの森コンサートのように、町おこしの手段となるよう実績を積み上げるしかないのだと想います。ふね劇場も、同じように観客と舞台が一体化できる空間で、音響的には音楽も演劇も可能な空間です。しかも港横浜の象徴ともなれる存在です。来年2011年には公演を計画しています。再出発です。