2019/06/25

「ヘルムホルツ床」東京白金のマンション採用事例

お知らせが遅くなりましたが、URと共に開発を行い、実用化を目指してきた「ヘルムホルツ共鳴器を有する乾式遮音二重床」が、このたび港区白金の民間マンション1棟まるごとのリノベーションに採用され、今年の3月に竣工いたしました。

建物は平成10年(1998)竣工の民間の賃貸マンションでRC造4階建、15戸、スラブ厚は150mmの建物です。

URの実験では、団地を想定して床高さを140mmとしていましたが、今回の条件は床高さ100mm、しかも床下に配管を行うというものでした。そのため重量床衝撃音(ゴムボール)での改善目標は、実験時の10dBより少し低く、10dB弱に設定しました。

床衝撃音測定は、(1)旧フローリング(二重床)、(2)スラブ素面、(3)ヘルムホルツ床が張られた状態(天井無し)、そして(4)天井が張られた後の計4回行いました。

図1 住棟平面図(一部)および測定位置図

測定結果

重量床衝撃音(ゴムボール)測定結果
旧二重床 → 63Hzと125Hz帯域でスラブ素面より低下していた
ヘルムホルツ床→ 63Hz帯域で8.3dB、500Hz帯域で19.7dB、スラブ素面より改善した

軽量床衝撃音(タッピングマシン)測定結果
ヘルムホルツ床は旧二重床と比較して250Hz帯域で8.8dB改善

※天井の設置前後の変化は、ゴムボールではL値上変化はなく、タッピングマシンではL数で2dB効果があった。

図2 床衝撃音測定結果(左ゴムボール、右タッピングマシン)

ヘルムホルツ床の特徴
ヘルムホルツ共鳴機構により、床下の空気層の音圧を低減できること、面剛性が高く力が分散し変形を抑えられること、面密度が一般の二重床より大きいことなどの長所があります。

床仕上構造の設計にあたり、床仕上高さおよび床下の必要空間を設計条件として、部材の厚み、空洞部の厚み、面剛性、面密度、防振ゴム、表面材およびコスト・施工性・耐久性などを、また最後にヘルムホルツ共鳴周波数および床下空間の共鳴周波数の設定を行っています。

表1 床仕上げ表

図3 床仕様

図4 平面の基本パターン

今年の秋の建築学会にて「ヘルムホルツ共鳴器を有する乾式遮音二重床の開発 集合住宅の改修への適用」と題して発表を行う予定です。

設計および施工技術にあたり、技術士事務所 佐野英雄氏、平成ビルディング 小池豊氏、アーキジャムワークショップ 小山美智恵氏、アルファリンクス 弓削寛司氏、雨澤壮敏氏に協力を得ました。

2019/05/23

旅する楽器展

国立民族学博物館で『旅する楽器 南アジア、弦の響き』という企画展(2019年2月21日~5月7日)を行っており、大阪での仕事の帰りに立ち寄ってみました。

国立民族学博物館は大阪府吹田市千里万博公園の中にあります。最寄り駅は大阪モノレールの万博記念公園駅です。そこから太陽の塔のわきを通った先に博物館があります。


2007年に、トルコのイスタンブールで開催されたInter Noiseの大会に参加した際、街を歩いていて大変びっくりしたのは、楽器店が多くあり、しかもエレキギターなどの電気楽器はほぼなく、ほとんどが弦楽器のサズおよびその種の民族楽器だったことです。サズは町の店舗の壁にもかけられており、いつでも弾ける状態になっています。街を歩く人の中にも楽器のケースを持っている人がたくさんいたので、一人に「それは何ですか」と声をかけると、路上でサズをケースから出して弾いてくれました。そのくらい身近に民族楽器があることに驚きました。

2007年トルコの楽器店

トルコの楽器にて

トルコの楽器にて

トルコの楽器にて

トルコの楽器にて

また、2008年にはカザフスタンに行きました。カザフスタンの民族楽器であるドンブラ及びコブスを演奏するホールの音響調査が目的でした。ドンブラは馬の足音のような弾き方で、コブスは重厚なチェロのような音を出す楽器です。カザフスタンは独立後に民族楽器の復興につとめており、その当時ドンブラ用のコンサートホールを作るという計画があったのですが、アメリカ発信のリーマン・ショック(2008年)の影響でカザフスタンにおける建設計画もかなり止まってしまい、このドンブラホールの建設計画も中止されてしまいました。とても残念なことです。


大統領文化センターホールでの民族楽器による演奏および音響測定(2008年9月28日)


 これらの旅行を通じて、様々な楽器が様々なところで存在していることが気になっていました。

また昨年には、「テュルクソイ」というテュルク語系諸民族の民族楽器の合同オーケストラの演奏を聴く機会もあり、このブログでもご紹介しました。

今回は、たまたま国立民族学博物館で開催されていた『旅する楽器 南アジア、弦の響き』の展示会に行った次第です。これだけ様々な楽器が一堂に陳列されているのを見るのはなかなかないことです。サズやドンブラ、コブスは単独にそれぞれの地域に存在していることはわかりますが、その他の地域、西アジア、中央アジア、南アジア、中国、東南アジアとのつながりが感じられます。

正直、弦楽器だけでもものすごい数が存在していることがわかりました。おそらく管楽器や太鼓なども入れると相当な数になると思います。

季刊166. 2018民俗学『特集 旅する楽器』のP.4に「楽器は、特定の地域で生まれ、その場所で何世紀にもわたって伝承された『土着』型がないわけではないが、圧倒的に多いのは他地域から伝播し定着した楽器である。」とありました。

「旅する楽器展」は西アジア、中央アジア、南アジア、日本、中国、東南アジアにある楽器のルーツを探るもので、大陸の東のどん詰まりにある日本の楽器、三線、三味線、箏などもどういう経路を経てきたのかと思いをはせました。

『旅する楽器 南アジア、弦の響き』より









2019/01/07

川越市の旧鶴川座の引取り手募集

普段は建築音響の仕事をしている以外に 研究として長年芝居小屋の音響調査を行ってきました。ここ最近は、川越市の旧鶴川座の調査を行い、建築学会で発表を行いました。
昔は全国に数千件もあったとされる芝居小屋も、現在は数十件ほどしか残されておらず、関東にはこの鶴川座、群馬のながめ余興場くらいしかありません。
その貴重な資料である鶴川座を音響調査することで、芝居小屋の音響的特性を様々な角度から再現しようと試みました。

昨年・今年の建築学会のブログ。主に建築音響の発表になりますが、見ていただけると幸いです。

2018年の発表
2017年の発表 

しかし実はこの旧鶴川座、上記の音響調査当時は川越市も街づくりの一環と位置付けて保存活用事業を行っていたのですが、昨年になりそれがストップしてしまいました。鶴川座の持ち主である蓮馨寺も、それにより復原をあきらめ、今年の春、鶴川座を解体してホテルを建てることが決定しています。

非常にもったいないことと思いますが、川越市があきらめてしまった今、部外者ができることと言えば、鶴川座の移築先を探すことくらいのようです。移築のための費用も負担していただく必要があります。さらに時間もほとんどありません。

どなたか、この鶴川座に関心がある方、または関心がありそうな方をご存じでしたら、弊社までご連絡ください。


以下に、鶴川座の現在の様子と歴史を簡単にご紹介します。

現在の鶴川座(2013撮影)
鶴川座は蔵の街、小江戸、川越市にあり、東京近郊に唯一残存する芝居小屋です。建設は明治31年、竣工当時の外観は蔵造り風の形(下図)をしていますが、のち外観も洋風に模様替えされて映画館になり、現在では閉館し、廃墟になっています。鶴川座は明治26年に大火で焼けて立て直しています。

竣工当時の鶴川座(明治31年竣工)
明治11年(1878年)に近代劇場として大々的な洋風開場式を行った新富座の外観(下図)です。明治9年(1876年)日本橋区数寄屋町の火災で類焼し、立て直したため、鶴川座と似た蔵造り風です。


東京名所のうち第一の劇場新富座(三代目歌川廣重画)(Wikipediaより)

2018/12/28

劇場でない場所での公演

2016年に横浜ボートシアター創立35周年+代表の遠藤啄郎氏米寿記念冊子『「場」の持つ力』が刊行されました。「場(トポス)の持つ力によって、これほどまでに作品世界が生まれ変わり、見えないのではとあきらめていた世界が見えてきたのだ。」とあります。船劇場もまたそういった場です。この冊子のタイトル通りに、場の持つ力を生かした公演を3種類ご紹介します。


画材店での横浜ボートシアター公演

横浜ボートシアターが、9/14から10/1まで、画材店の大森アートポジションで仮面展を行っていました。こちらで9/16(日)、24日(月)、9/30(日)には創作影絵人形芝居が、さらに音楽ライブが9/17(月)、9/23(日)にありました。私は9/23の音楽ライブに伺いました。ちょうどひどい雷雨が降ってきて、びしょびしょになりながら公演場所に飛び込みました。ここは大森駅から線路に沿って東側にあり、ちょっと戦後の雰囲気が残ったような場所です。
画材店の道路側の場所が画廊で、仮面の展示された中、数名で歌や演奏をします。歌は主に「さらばアメリカ」から戦中・戦後の時代精神を振り返ったものでした。お客さんは20名ほどでしたが、道路からも中の様子が見え、いい場所でした。



20181222 神楽坂・香音里(かおり)
横浜ボートシアター樋口一葉作品を語る 「わかれ道」「この子」「闇桜」

神楽坂の駅から約1分間のところにレンタルスペース神楽坂・香音里(かおり)があります。こちらは昔の木造住宅で、8畳と6畳の二間続きの部屋の周辺に廊下がめぐらされている空間に、床の間と書院がついています。6畳の和室の方にはグランドピアノが置かれています。今回は、朗読する人1名と伴奏を行う人1名で、観客は約50名ほどでした。朗読を行うために雰囲気も音響的にもいい空間で、また樋口一葉の作品にもとても合う空間です。「わかれ道」は語り奥本聰、「この子」は岡谷幸子、「闇桜」は吉岡沙耶により朗読されました。また松本利洋によるエレキギターの機微の動きも素晴らしかったです。



横浜都筑民家園での乙女文楽公演

最後に、11/25(日)13:30から14:30まで近くの都築民家園で、ひとみ座乙女文楽の公演がありました。公演の内容は「義経千本桜」道行初音旅です。さらに最後に人形の仕組みと扱い方の説明、および会場から希望者3名による三番叟の演技指導がありました。一人は外国人の方でした。乙女文楽は一人遣いで演じます。3人で行う文楽とは異なり、人形の周囲に人が少ないためにすっきりした感じがします。



2018/12/20

建築学会から床振動に関する新基準が発刊されました

11/8に建築学会のシンポジウムが建築会館で行われ、『建築物の振動に関する居住性能評価基準・同解説』が発表されました。

これまで、この床振動に関する基準は1991年および2004年の『建築物の振動に関する居住性能評価指針同解説』であり、それがずっと我々の解説書でした。

1991年の基準書には振動の変位と加速度の基準値があり、住宅や事務所における振動の基準もありました。2004年版の基準では、加速度が水平と垂直にわかれており、知覚確率を伴った評価の方法となっていましたが、評価の方法は設計者に任せられていました。

今回の2018年の新基準は、評価指針と設計指針を分離し、評価指針として「設計の過程で必要となる、振動とそれに対する居住者の評価との関係を表す指標のみを評価基準として独立させ」、設計指針では「加振力や応答測定点の設定方法など」や「対象とする振動の性状が限定され、振動源ごとに蓄積され」る傾向があるためにそれを分離させたとのこと。
ただし、設計指針はまだ発刊されてはいません。

新評価指針では、鉛直では、住宅と事務所と評価の違いがあり、ほぼ2dBごとにランクが変化し、さらに住宅の方が事務所より2dBほどランクが厳しくなっています。また水平方向の評価方法では、評価は等間隔のランクではなく、また周波数も0.1Hzから30Hzまで幅広く存在しています。

また、非定常の振動についても評価方法が決められています。

鉛直方向では、JISC1510-1995の鉛直特性で重み付けられた振動値に対して、今回の指針では、時定数VL10msが55dB となるときの時間の合計とする、とあります。ただし振動が10秒以上継続する場合や1秒以内にA*10^(1/4)で補正された場合には定常的振動と考えます。
1秒から10秒までの振動については、A*=A×10^(((logT)-1)/4)で補正されます。
道路交通振動のような場合に、ほとんどの時間が55dB以上となる場合にはそのままで問題はないのですが、例えば半分が55dB 以下の場合などは上記の方式を用いることになります。
また床の衝撃振動で、一人歩行のような1秒以下で衝撃がある場合には、多少低減されることになります。ただし何人もの人が通り抜ける場合には低減されません。
またゴムボール落下のような(例えば5秒間隔など)、等間隔で振動が発生するような場合にも、多少振動が低減されることになります。

振動の低減効果があることは、何か目的があるような場合にのみ必要な気がします。例えば夜中にある滅多にない鉄道車両の走行振動などが、それに相当すると思われます。

弊社のように、実験などでゴムボールを落としたような場合には、実験結果を低減することなく、単に最大値を求めて、比較することが好ましいと思われます。
ただ、スラブの振動測定をたくさんしてきましたが、評価方法は今回の指針を元に修正する必要があると思います。

左から1991年および2004年の『建築物の振動に関する居住性能評価指針同解説』、
右が今回(2018)の『建築物の振動に関する居住性能評価基準・同解説』


2018/11/28

響きが必要な音楽と響きが少ない方が良い音楽

10/25に、ザ・シンフォニーホール(大阪)で行われたキンボー・イシイ指揮、日本センチュリー交響楽団のコンサートに行きました。

演目は、J.S.バッハ:「音楽の捧げもの」BWV1079より“6声のリチェルカーレ”(ウエーベルン編曲)、その他3曲(R.シュトラウス:楽劇『ばらの騎士』よりワルツ、コルンゴルト:ヴァイオリン協奏曲ニ長調作品35、モーツアルト:交響曲第41番ハ長調K.551「ジュピター」です。いずれの曲も音楽の都ウイーンで結ばれた曲を選んだとプログラムに書かれています。バッハの曲は、編曲したウエーベルンがウイーン生まれのため選ばれたとのこと。いずれの曲も素晴らしかったのですが、中で印象に残ったのは、この「6声のリチェルカーレ」で、プログラムによると「主題を一つの楽器によって奏でるのではなく、いくつかのセクションに分け、複数の楽器によって一つの旋律を奏でてゆくというもの」とあります。聞いているとキラキラした宝石の光を見ているような感じです。ザ・シンフォニーホールは大きく言えばシューボックスですが、私の席は舞台の脇の2Fバルコニー席のためか、楽器の音がどこから聞こえるのかはっきりしていて、この曲には大変好ましく感じました。



また、11/15には横浜県民共済みらいホールで行われました「民族楽器オーケストラ テュルク世界の大いなる遺産」という名のコンサートを聴きました。テュルクとはアゼルバイジャン、カザフスタン、キルギス、ウズベキスタン、トルコ、トルクメニスタン、ロシア連邦内のサハ、アルタイ、トゥバなどのテュルク語系諸民族の文化を持つ国や地域で、その民族の合同オーケストラがテュルクソイです。そのオーケストラは以下の写真で示すようにドンブラやコムズ他、様々な民族楽器で構成されています。この音楽もまた宝石のように音がちりばめられているような感じの曲です。しかし大きなメロディに沿って、ハーモニーを構成していくような音楽ではなく、大きな面に音をちりばめていく感じです。
このような音楽はおそらくヨーロッパクラシック音楽のような残響は必要ではなく、むしろ音の位置などがはっきりしている方が聞いていて楽しい可能性があります。これまで芝居小屋の研究をしてきた中でも実感してきましたが、今後の室内音響研究が必要な分野と感じます。

なおこのみらいホールは弊社の音響設計した300席のホールで、どちらかと言えば演劇系のホールです。こけら落とし公演は平成15年の横浜夢座の公演でした。





   
昭和60年代は日本では多目的ホールが批判され、演劇や音楽の専用ホールが必要とされてきました。音響技術の分野では、反射音の効果が発見されるようになってきました。1950年代には直接音から50ms以内の初期の反射音は直接音を補強し、音声明瞭性を上げることが発見され、1970年代には80ms以内に到達する反射音は音楽に対しても明瞭性を向上させる効果があることが発見されています。さらにBeranekの音響設計したニューヨークフィルハーモニックホール(昭和37年(1962))が音響的に評判が悪く、シュレーダーらの調査で初期反射音の到来方向がホールの音響に影響を与えていると分析し、側方反射音の重要性が発見され始めました。BarronとMarshallは1981に側方から到来する反射音ほどSpatial Impressionに対する寄与が大きいことを見出し発表しました。そのような観点からウイーンムジークフェラインのようなシューボックスタイプのコンサートホールが重要視されるようになりました。その結果日本でもシューボックス型ホールのザシンフォニーホール(昭和57年1982)やカザルスホール(昭和62年1987)が建設されました。カザルスホールで室内楽を聞いた時には感激した覚えがあります。ところでシューボックス型の杉並区公会堂新ホール(平成18年2006)ができた時には、音響学会で見学会があり、東大の佐久間先生が舞台でピアノを弾かれて、周りでその音を聞いて音像の拡がりの実験をしました。私もびっくりしましたが、中通路より後ろの席になると、ピアノの音が舞台いっぱいに広がって聞こえます。初期側方反射音の効果で音像が空間的に広がって聞こえることを言い、これを見かけの音源の幅ASWとも言っています。さらに教会のように拡散音のエネルギーが大きい場合には残響感が増し、音に包まれた感じを得ることができます。しかしこのような音像が大きくなってしまう効果や音に包まれた効果はクラシック音楽のようなハーモニーを重視する音楽には好ましいですが、音像の位置をはっきりさせたい場合には逆効果になり、特に初期の側方の反射音の制御が必要になります。これらのことは今後の技術的な開発が必要だと思います。豊かな響きと音像の定位の両立です。強いて言えばサントリーホールのようなアリーナタイプでは豊かな残響感というよりはっきりした音像の定位が特徴と言ってもいいかもしれません。