当日は杉山先生のたくさんの教え子や同僚の方がいらして、皆さんピアノを弾いて楽しまれていて、こちらは素晴らしい演奏をたくさん聴くことができて大変楽しい時間を過ごすことができました。
オープニングパーティ
スタジオの正式な名称は杉山ムジーク・アカデミー渋谷スタジオです。建て主は杉山哲雄先生、元横浜国立大学の音楽の先生です。建築設計は有限会社濱口建築・デザイン工房の濱口オサミ氏。床は檜の無垢材、壁・天井は赤松で仕上がった柔らかな雰囲気の木質空間となっています。弊社は濱口氏の設計に音響の観点からお手伝いをさせていただきました。
スタジオの大きさは、基本的には約5.8m、8.0m、天井高さ2.5mの矩形の部屋です。長手の壁はそれぞれ水平方向に約1/20の傾きを持つジグザグの壁とし、入り口側の壁のみ下見板形状として、フラッターエコーを防止しています。下見板形状により、平行壁面間の角度が一部上向きとなり、水平方向に音が回遊することも防ぎます。天井は2.5mほどで反射音が強いために、吸音材シンセファイバーを着脱可能な状態に設置して、天井だけで音響調整を行う方法としました。音は主に水平方向に広がり、音に包まれるような空間を目指して音響設計いたしました。
またピアノの演奏音が隣戸にできるだけ影響が無いように、浮構造による遮音対策を行っています。ピアノの音は室内で100dBAと想定。浮構造にすることで隣接の部屋では、おおよそ65dBA低減できると考えています。場合によってはグランドピアノの音は100dBAよりさらに大きい場合があるので、注意が必要です。
ピアノ室などの音楽室は防音のため浮構造を用い、しかも床の浮構造は一般的にはコンクリート浮床とします。しかし今回はコンクリートが使えないために木製としています。その場合には、床下空間の空気層の共振周波数が可聴域にあるため遮音性能を低下させてしまうため、ヘルムホルツ共鳴器を内蔵する床を採用しています。この工法はUR都市機構と7~8年間共同で開発してきたものですが、まだ実験室での施工しかなく、今回は初めての実施物件です。基本的には床に空洞部を設け、床下空気層の共振周波数に合わせて動吸振的に、ヘルムホルツ共鳴器を構成して床下空気層の共振を低下させ、振動伝達率を低減する手法です。
天井の浮構造はスラブから吊らず、天井の荷重は壁に持たせる構造となっています。吊り防振ゴムを用いるより遮音性能は向上し、工事時、あと施工アンカーの穿孔騒音の問題もなくなります。またあと施工アンカーの施工不良による天井落下の不安もなくなります。
また音響性能に直接関係ありませんが、外壁に設置されている150φの換気口から外気が直接室内に取り込まれた場合、とくに夏の暑い雨の時などに室内が冷房で冷やされていると、湿度100%の空気が室内に取り込まれ湿度が上がってしまうため、多少熱交換ができる換気システムを窓際に設置しました。径30mmのパイプ10本を換気口から分岐して、細い管を通すことで、温度調整と湿度調整を行うこととしました。パイプオルガンのような設計および施工は設計者ご自身です。
換気システム
吸音材の効果は、500Hzの残響時間が天井の吸音材無しで1.30秒、吸音材を設置すると0.97秒と変化して、はっきりと効果がみられています。また音声明瞭性や音楽の明瞭性からも吸音材が効果的なことが分析されています。さらに、もう少し吸音材を追加した方がよいということになり、0.5m角の吸音材をあと更に10枚追加してほぼ天井全面に設置することになったようです。また、カーテンも吸音効果のあるビロードのカーテンを設置するなどの検討をするとのこと。
今後の杉山スタジオのご発展を祈念しております。