フードコートにいくと、大勢の親子連れ客で大賑わいである。さらに騒音が非常に大きくうるさい。人が大勢いるから当たり前と思われるかもしれないが、これは、実は海外のショッピングモールであるIKEAやコストコではグラスウール吸音材が天井一面に使われていて、カフェやレストランでは大勢、人がいてもとても話しやすい。
日本でも、30年ほど前は、人が大勢の集まるショッピングセンターなどの天井は、岩綿吸音板が当たり前のように使用されていた。しかし、最近はショッピングモールで吸音材が使われているところをほぼ見かけなくなっている。
試しに、あるフードコートの室内騒音を計測してみると、ガヤガヤと何を言っているか聞き取れない騒音(ノイズ)で満ちており、常に75デシベル(以下図 騒音レベルグラフ)ほどある。
図 あるフードコートの騒音レベル(30秒間)
Beranekの拡散音を含む室内の距離減衰式を示す。
Lp=Lw+10Log10(1/(4πr2)+4(1-α)/(Sα)) dB
ここでLp:室内音、Lw:パワーレベル、ここでは話声のパワーレベル、
r:音源からの距離、S:室内表面積、α:平均吸音率
ここでは大勢の人声が音源のために、直接音成分を除き、拡散音成分だけを取り出して検討する。
Lp=Lw+10Log10(4(1-α)/(Sα))dB
Lwは話声のパワーレベルのため一定と考える。吸音率は仕上げ材によって表のように変化する。ここでは天井がプラスターボード、岩綿吸音板厚9mmとグラスウール32k厚50mmを比較する。さらにここでは簡易のため、音声の成分の大きい500Hzで比較する。
表 仕上げ材の吸音率
材料名 |
空気層 |
125 |
250 |
500 |
1000 |
2000 |
4000 |
岩綿吸音板9mmPB捨て張 |
300 |
0.26 |
0.18 |
0.36 |
0.55 |
0.65 |
0.8 |
グラスウール32k厚50mm |
0 |
0.2 |
0.6 |
0.9 |
0.9 |
0.85 |
0.85 |
石膏ボード9~12mm |
45 |
0.26 |
0.13 |
0.09 |
0.05 |
0.05 |
0.05 |
床Pタイル張り |
0 |
0.01 |
0.02 |
0.02 |
0.02 |
0.03 |
0.04 |
室表面積Sは、S=(10×10)×2+(10×3)×4=320m2
床・天井の面積は10×10=100m2
平均吸音率αはα=(100×α+110×0.1+100×0.02)/320
石膏ボード厚9-12mmの吸音率0.09のとき、平均吸音率は0.069
室内音圧レベルはLp=Lw-7.7dB
岩綿吸音板9mmの吸音率0.36のとき、平均吸音率は0.1531
室内音圧レベルはLp=Lw-11.6dB
グラスウール32k厚50mmの吸音率0.9のとき、平均吸音率は0.322、
室内音圧レベルはLp=Lw-15.8dB
天井が石膏ボードの時を基準とすると、岩綿吸音材の時は3.9dB、グラスウールの時は8.1dB音圧レベルが低減し、効果があることが見受けられる。
騒音が小さくなれば、まわりで話す声も小さくなり、相乗効果で静かな空間となり快適性も大きく向上するはずである。また500Hz帯域で検討したが、より騒がしいい1000Hz帯域以上は吸音率からみると、より効果があるはずである。
なぜ天井に吸音材を使わなくなったのか気になるところである。設計をするときに、音に配慮せず、デザイン優先で使用しなくなった可能性もある。
また吸音材を使おうと思っても、メンテナンス性や、不燃材の必要、耐久性、コスト、法律などの点で見合うものが見つからないこともある。
岩綿吸音板を使用した天井が経年変化で、なんどか塗装をして、次第に吸音効果が少なくなってきている場合も見受けられる。塗装後の吸音性能は見るからにも低下しているため、岩綿吸音板を使わなくなってしまっている可能性もある。
そこで天井面積の30%程度にグラスウールを添付することを考えてみる。たとえば幅900mmのグラスウールを天井の壁際のみに用いた場合の効果を計算する。
平均吸音率α=(32.6×0.9+(67.24+30×4)×0.09+100×0.02)/320=0.197
音圧レベルLp=Lw+10×Log(4(1-0.197)/320×0.197)=Lw-12.9 dB
天井の周辺にグラスウールを用いた場合には、プラスターボードのみの天井よりも5.2dB程度、騒音の低減効果が出ており、岩綿吸音板のような効果が期待できる。天井はプラスターボードとし、天井周辺のみグラスウール厚50を貼り、改修時にグラスウールのみ取り換えることもできるように思う。