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2025/10/14

杉山哲雄ピアノリサイタル ベートーベン ソナタ連続演奏会 シリーズⅠソナタからフーガへ(全3回)

日時;2025年10月2日(木)午後6時30分から

場所:銀座王子ホール 座席数約300席、シューボックスタイプ

曲目:ソナタ第一番、ソナタ第4番、ソナタ第7番、ソナタ第14番「月光」 アンコール曲

演奏は杉山哲雄。主催:杉山ムジーク・アカデミー

このコンサートは建築家の濱口オサミさんに紹介された。以前渋谷で、杉山さんのピアノの練習スタジオの設計に音響設計の立場からかかわったことがある。設計は(有)濱口建築・デザイン工房、建物は渋谷にある大きな集合住宅の一階で、この住戸部分は、台所とトイレを残し、あとは1室を浮構造にして、遮音対策をした。この浮構造は、床は木造のヘルムホルツ床を用いている。

杉山さんのプロフィールを見るとわかるが、伊勢市出身で、濱口さんと同郷となる。濱口さんは私と東工大の同期なので、多分杉山さんも似たような年だと思われるが、ものすごく元気だ。プログラムのチラシの後ろ側には2026年、2027年の予定まで書かれている・

しかも演奏は楽譜を見ないで力強く演奏している。杉山さんのプロフィールには、バッハ、モーツァルト、ベートーベンのリサイタルで、古典調律を用いたとある。この古典調律は何を意味しているか正確には解らないが、純正律を中心とした音律のことではないかと思う。モーツアルト、ベートーベンの時代はこの純正律を用いることによってきれいなハーモニーができるようになった。ただ現在は平均律という音律になり、正確には純正率より美しい響きではない。チラシには「ベートーベン没後200年(2027年)に完結するベートーベン全ソナタの連続演奏会は、ベートーベンの創作の本質に光をあてるものである。」 と書いてある。気合が入っている。しかもいずれの曲も力に入った演奏だった。この曲の最後の曲はソナタ第14番“月光”で、月の光が水面に反射してキラキラしている印象があるが、この曲は作曲した当時から人気のあった曲だとある。このような主観的に表現が出来る曲はいいが、コンサートのチラシは、ピアノの演奏の技術的な説明が多く、例えばソナタ第一番では、「全曲を統一する6度の音程や下向音型を含んで、上昇する音の波の引き締まった音楽の表情を見せ、冒頭の動機の反行形よる第二の主題による第二主題も無駄がない。」 とあってなかなか曲の技巧的な説明は分かるが、曲の雰囲気は私には伝わってこない。第4楽章プレスティッショモの説明で、「第一主題の和音は、「闘争」を感じさせ、独創性がある。和声の微妙な変化が美しい経過部をへて、穏やかな第二主題がなだらかな地平線を思わせる。」 やはりベートーベンの曲は言葉で表すことが難しいことがわかる。ただ感情的な動きによって、強い意志を感じさせる美しい曲だった。やはりベートーベン創作の本質に迫るには、最期の2027年6月まで聞く必要がありそうである。

2025.10.20 追加:

ブログに 建築技術2018年12月号に「渋谷スタジオの音響設計」という記事を書きました。実はこの文書の中に、へrムホルツ床のことを書いていて、URとの共同の特許工法と書いてあるが、実は特許になっているのは、床下開口に唾を設けたものだけで、現在はこの工法は使っていません。誰でもがこの工法を用いることができます。

http://yab-onkyo.blogspot.com/2018/11/201812.html

さらに次のブログも書いています。杉山スタジオの内容が見れます。

杉山スタジオ オープン

http://yab-onkyo.blogspot.com/2018/07/blog-post.html

 





 


2024/09/13

建築音響の交流の歴史 その7 Beranek

 建築音響の交流の歴史 その5では、ヘルムホルツ、レーリー、セイビンと20世紀を切り開いた音響技術者を書いたが、今回、その7では20世紀を展開した二人の音響技術者を書く。一人目はBeranekで、ニューヨークフィルハーモニックホール(1962年昭和37年開設)の音響設計者、もう一人はCremerで、ベルリンフィルハーモニー(1963年昭和38年開設)の音響設計者である。両ホールともほぼ同時期に建設された。

Beranekがかかわったニューヨークフィルハーモニックホールは音楽・オペラ・演劇の6つのホールと音楽学院からなるリンカーンセンターの中にある。座席数2836席、設計当初2400席であったが、席数を増したため、ホールの幅を広げ、樽のような形となった。残響時間は2.1秒(満席)で、十分長いが、音響的に評判が悪かった。このホールが出来ると同時期に、Beranek による「Music, Acoustics & Architecture」『音楽と音響と建築』(1962年7月)翻訳は昭和47年第1刷発行)というホールの評価に関する本が出版された。


この本のp.11のギリシャの劇場の項で、「最期に、ギリシャ劇場は、その時代や場所とその目的のみのために大成功であった。今日の音楽の演奏項目、特に19世紀に作曲された音楽の演奏に対してはすぐれているということは、音楽についての神話の一つとされている。」 その後、クラシック音楽について、親密感や残響感や直接音の大きさなどの評価項目が設定されて、様々なホールを評価している。この本は評価が高く、私も当時、購入した。この本の「はじめに」にユージン・オルマンディが、「リンカーンセンター フィルハーモニック ホールの計画がいかに慎重に注意深く進められたかの記述である。」 またまえがき(1962年7月)では、著者レオ エル ベラネク(Beranek)が「音楽用ホールの内情についての私の探求は、オペラや交響楽の指揮者、演奏者、音楽評論家との数百回のインタビューや、約60のホールで音楽に耳を傾けたり、精密な音響測定や正確な建築の図面および写真の収集を行ったことである。」その第1章の音楽の音響で、ボストンのシンフォニーホールについて、「当時すべての人々は、”音楽の音響“の基本法則が公式化されたと信じた。しかし残念ながら何かが間違っていた。以降のホールは、ボストンほどには成功せず、その理由がだれにもわからなかった。」多分ここでベラネクが本書を書く理由が出来たのだろう。

第三章の音響学と音楽の中の音の大きさ、騒音、ダイナミックレンジという項には聴衆要素とホールの音響効果の要素の相互関係を示した以下の図がp.43に載っている。音の豊かさ、澄明(ちょうめい)さ、が残響時間や反射音の大きさに対する直接音の大きさ(この大きさはLoudnessのこと)に関係しているなどが書かれている。



第4章音楽の音響の質の主観的特性の章で、コンサートホールの音楽の質に関連した音響的属性について音楽家と音楽評論家の助けを借りて18の明確な、認識しえる属性とその対句の表を作成した。それを以下に示す。

これらの語句は、その後の音響研究者に音響の分析について刺激を与えた。それだけでなく、ニューヨークフィルハーモニックホールの音響的な評判がよくなく、さらに分析が必要になった。

「コンサートホールの科学」(2012年6月28日発行) 日本音響学会 編 第二章 ホール音場の性質と心理評価、執筆担当の羽入敏樹によれば、「1960年代後半から、初期反射音の到来方向が徐々に注目されるようになった。M.R.Schroederらは、当時、音響的に評判の良くなかったニューヨークのフィルハーモニックホールにおいて、、、音響測定を実施、、1966年に、、、“初期反射音の到来方向がホール音響の品質に重要な要素と考えられる”との仮説を提示した。」 ほぼ同時期に、A.H.MarchalとJ.E.Westがそれぞれ側方反射音の重要性を示唆し、天井反射音より側方反射音が客席に早く到来させることが重要だと述べた。

ホールの響きの印象評価要因という章の「受聴者による音場評価プロセスと音の要素感覚」という項で、1)時間的性質:残響感、リズム感、持続感、2)空間的性質:方向感、距離感、広がり感(見かけの音源の幅、音に包まれた感じ)など、3)質的性質:大きさ(音量感)、高さ、音色などを表記した。

これらの項目は、Beranekの音質の評価項目と、2012年の「コンサートホールの科学」による音質とは音の分析のレベルが大きく異なる。Beranekでは音の大きさ(Loudness,や残響音の大きさなどの項目があるが、コンサートホールの科学によれば空間的性質、たとえば拡がり感や見かけの音源の幅が注目されている。最近クラシック音楽のコンサートで、演奏が終わった後に指揮者が、演奏者の評価をする場面がある。クラリネットやホルンなどの演奏者に向かって、拍手したりするが、観客が、これらの演奏者の位置をしっかりと見分けることができるかである。サントリーホールやミューザ川崎のようにワインヤード型のホールは、観客から演奏者がわかりやすく分離して聞こえるが、どちらかというとシューボックスタイプのホールは楽団員の位置が見分けにくい。この音像の位置、見かけの大きさないし方向感も需要な音質と思われる。

また拡がり感や音に包まれた感じは側方反射音が重要な要素であるが、この傾向から横幅の広いNHKホールのクラシック音楽の評判が悪い時があった。NHKホールは1972年竣工、3500名収容のホールであるが、大きく扇型に拡がっており、観客席に対する壁による側方反射音の影響は小さい。しかし天井からの初期反射音が強く、クラシック音楽を聴きに行くと音がとても強く感じられる。Beranekの評価項目を思い出す。もう50年以上経ているが、いまだNHK交響楽団の本拠地となっている。

また第4期、現在より一歩前の歌舞伎座で、音響調査をする機会があった。収容人員は約2000席、横幅が広いが、客席で音響調査を直接音から約50msおくれて側壁から反射音が到達する。これも残響感ギリギリ、エコーになるギリギリの反射音であった。したがって歌舞伎座、独特の声の音となっている。

評価項目は、現在はBeranekの評価項目これから大きく進歩したようだ。ただ見かけの大きさや、広がり感等の物理的な目標値はまだないようである。

またこれらの評価項目はクラシック音楽に対してのものであるが、その他の音楽に対しては技術的にはこれからだ。クラシック音楽は音律がハーモニーを重視した純正律でできていた。今は平均律になっているがここでも考える余地はある。さらに例えば能・狂言については、現在ほぼ室内の能楽堂(観客席も屋根壁で覆われている形状)で行われていることが多い。この室内音響についても実際の能楽堂で聴いてみると、さらにこれから検討が必要な気がしている。

同時代のもう一人の音響技術者Cremerは初めてのワインヤード型ホールに携わった。客性数、2218席、 ブロック状に客席を配置し、その壁から側方反射音が生じるように設計している。客席の形状はステージ周辺に配置して、客席とステージの一体感を視覚音響的に実現した。

またCrenerはベルリン工科大学の所属であったが、当ブログで紹介したWienzierl 氏やCremens 氏もベルリン工科大学の所属だ。ハンス・シャロウンが設計した舞台を観客が取り囲む形はひょっとしてグロピウスのトータルシアター(1927年)計画案に触発された可能性もある。

Sounding Space About the acoustics of the Philharmonie というフィルハーモニーホールの音響についての論文が以下のホームページに出ている。 

https://www.berliner-philharmoniker.de/en/about-us/philharmonie/acoustic/

当初のハンス・シャロウンの計画は、演奏者を全方向に開かれた空間、観客が取り囲む形で、クレマーは、最初に考えたのは演奏者が互いにお互いの音をいかにして聞き取れるかという問題であった。これは両側がまっすぐな壁で囲まれている方が実現しやすい。『フィルハーモニーホールでは、反射を特定の方法で段階的に調整する必要がありました。これらの反射は、ミュージシャンには部屋の反応として知覚されます。音が一方向だけに拡散するのを防ぐために、指揮台の後ろと両側の「ブドウ園のテラス」に反射面、突出したグラデーション、手すりが取り付けられました。クレマーはまた、ホールの天井が高すぎて音を反射して拡散できないため、オーケストラの上に反射板を取り付けるよう要求した。』 また舞台の後ろ側にある観客席用に反射面を用意したり、低音域を吸音する目的で天井にピラミッドの形を設けたりした。『新しいホールに耳を慣らすプロセスが始まると、多くの主観的要因が作用します。フィルハーモニーの場合も意見が変わり、音響は当初よりも後の段階で良くなったと一般的に感じられました。それでも、音響上のリスクは残ります。開会式で弦楽四重奏団の楽章が演奏されることが判明すると、関係者全員がすぐに懸念を表明し、これほど大きくて広いホールが室内楽の親密な響きと両立できるのか疑問に思いました。この問題について相談したところ、専門家は肩をすくめて答えました。わかりません。その四重奏の演奏は素晴らしかったと言われている。』

このようにして新しい形のコンサートホールが誕生した。今はワインヤード型と言っている。結果的には評判の良いホールになっていて、この形を採用して、日本にサントリーホールが誕生した。今まではウイーン学友協会ホールのようなシューボックス型が主流であったが、ベルリンフィルハーモニーホールの様な新しい形のホールが誕生したことは、音響技術だけでは生まれないかもしれない。設計者のこうしたいというイメージがあって、それに音響技術者が後をついて行っている感じである。ただコンサートホールについては、正確に言えばデザインは見た目より、音がよいかどうかなので、音が先にあって、建築デザインが後にということがあってもいいかもしれない。

2024/08/07

建築音響の交流の歴史その5 ハーモニー、キルヒャー、ヘルムホルツ

ドイツ出身の音響研究者で、アタナシウス・キルヒャー1601~1680は、イエズス会司祭で、当時の検討結果をまとめて学術的検討を行い、1850年には「普遍音楽」という本を著し、Wikipediaによれば「観察や実験を重視したという点において中世と近代をつないだ学者である」といえる。この本はバッハやヘンデルに多大な影響を与えたとのこと。主要な部分は「ハルモニア」で、これは音楽だけでなく、星も含めて生きている空間での様々な調和を意味しているようだ。当時の音律の研究もクラシック音楽に大きな影響を与えているようで、ハーモニーのある音楽がクラシック音楽の出現に影響を与えつつある。YABブログ「キルヒャーの普遍音楽と純正律」で、http://yab-onkyo.blogspot.com/2023/05/blog-post_31.html にこの内容は示している。ちょうどガリレオやニュートンの時代で、シェークスピアやセルバンテスやオペラや歌舞伎や人形浄瑠璃が始まった時代である。1492年のコロンブスによるアメリカ大陸発見をはじめ、ヨーロッパに人による大航海時代も始まっている。このことによってヨーロッパの音楽はキリスト教とともに世界中に拡がっていった。

1600年代のアタナシウス・キルヒャーの建築音響を含む研究から一挙に19世紀半ばのヘルムホルツまで飛んでみる。残念ながらこの間の室内音響についての研究はあるはずだが、良くは分からない。ただこのヘルムホルツやレーリーの頃から建築音響をふくむ音響の理論が体系だって来た。キルヒャーの普遍音楽のテーマは広い範囲にわたっているが、ヘルムホルツやレーリーも広い範囲を扱っている。キルヒャーの「普遍音楽」には第1巻解剖学音の定義や耳の解剖、声や動物の声、第二部文献学で、音楽の発明、ダビデの音楽、ギリシャ人の音楽とその楽器、第Ⅲ部楽器、リュート・マンドーラ・キタ―ラ、打楽器など、第Ⅳ部比較古代人の楽器、音楽の力、グレゴリオ聖歌、多声音楽、第Ⅴ巻魔術 自然科学、協和音と不協和音、音の共感と反感、劇場の音楽、ハーメルンの子供たち、音響の魔術、建築に含まれた錯覚の道具、反響の魔術、第五部、奇蹟論共感の音楽をどのように作ればよいか、第Ⅵ巻類比天上のシンフォニー、脈のハルモニアと人体の脈の動き、統治界の調和性、統治の世界音楽、神の音楽あるいは神と地上世界との調和、などが書かれていて、司祭としての内容を含む広い範囲の音響的なことが書かれている。

ヘルムホルツの「On the Sensations of Tone 」では目次を追うと、PARTⅠIn General, On the Composition of Vibrations, Analysis of Musical Tones by the Ear, On the Differences in the Quality of Musical Tones, On the Apprehension of Qualities of Tone, PARTⅡ Combinational Tones, On the Beats of Simple Tones, Deep and Deepest Tones, Beats of the Upper Partial Tones, Beats due to Combinational Tones, Chords, PARTⅢ General View of the Different Principles of Musical Style  in the Development of Music, The Tonality of Homophonic Music, The Chords of the Tonal Mords, The system of Keys, On Discords, Laws of Progression of Parts, Esthetical Relations

上記Google 翻訳「PARTⅠ全般、振動の構成について、耳による楽音の分析、楽音の質の違いについて、音色の質の把握について、PARTⅡ 組み合わせ音、単音の拍子について、深い音と最も深い音、高音部分音の拍子、組み合わせ音による拍子、和音、PARTⅢ 音楽のさまざまな原理の一般的見方 音楽の発展におけるスタイル、同音異義語音楽の調性、調性モードの和音、調性の体系、不協和音、部分の進行の法則、美的関係について」

 ヘルムホルツはOn the Sensations of Tone(1863年著)で、音楽と聴覚と楽器音響学につぃて、自然哲学から芸術理論に移行するという試みで、物理的および生理学的音響学の境界、そして音楽科学と美学の境界を結び付けることを目指した。音や音律などの物理的な観点とその人間の感覚について幅広く検討した。この論文に先立ち、1847年「力の保存について」という論文を書いて「エネルギー保存則」を定式化したことでも有名だ。この時彼は医学の研究者であった。これは「もっとも基本的な自然法則となり、19世紀後半の電磁気学の理論に体系化につながり、マクスウェルの理論の形成に大きな役割を果たした。

1888明治21音響物理学者の田中正平が、このヘルムホルツのもとに留学して、純正調オルガンを完成させ、指揮者のハンス・フォン・ビューローが「エンハルモニウム」と命名し、ドイツ皇帝の前で、御前演奏された。明治時代の中期に音楽の最先端での交流が日本とドイツの間であった。さらに音響技術者にとってはこの本の中で、ヘルムホルツの共鳴器の発明は周波数分析器(楽器のチューニング)として用いられただけでなく、有孔吸音板として録音スタジオなど多くの建物に利用されるようになっている。

実は、研究分野は異なるが、マルクスは1867~1897年で資本論を書き、資本主義経済の分析を行った。この資本をテーマにした経済学全般の分析の方法は同時代のヘルムホルツの1863年のOn the Sensations of Toneの音などに対する分析方法が物理学、音律やさらに感覚にまで広い範囲まで及んでいるところから、分析の方法が似ているような気がする。次ぎに述べるレーリーの論文も物理学の範囲が広く、しかも奥が深い。我々にとってはTheory of Soundが一番印象的であるが。

1878明治11 Lord Rayleigh Theory of Sound(Rayleigh) 今日の音響学の理論体系が完成した。レーリー卿(Lord Rayleigh)寺田寅彦(昭和五年十二月、岩波講座『物理学及び化学』)

https://www.aozora.gr.jp/cards/000042/files/43083_23775.html 以下はその抄録である。

 1842年の11月12日John William Struttが生まれた。レーリー卿の本名である。Cambridge大学で、1865年研究を始めた。読書はマクスウェルの電磁気論(1865)や、マクスウェル及びヘルムホルツの色の研究、それからストークスやウィリアム・タムソンの主要な論文を読み、またミルの論理学や経済論を読んだ。彼が音響の問題に触れるようになった動機は、ドイツ語の練習のためにヘルムホルツの Tonemspfindungen を読んだのが始まりだそうだ。1873年にレーリー卿になり、1877年に彼の Theory of Sound の初版がされた。足掛け5年が必要だった。1876年頃から音の方向知覚の問題に興味を感じていたが、1906年に到って、両耳に来る波の位相の差がこの知覚に重要な因子であることをたしかめた。彼は自分でもしばしば言明したように、全く自分の楽しみのために学問をし、研究をした。興味の向くままに六かしい数学的理論もやれば、甲虫の色を調べたり、コーヒー茶碗をガラス板の上に滑らせたりした。彼にはいわゆる専門はなかった。しかし何でも、手を着ければ端的に問題の要点に肉迫した。1904年にはノーベル賞を、1905年には王立協会の会長に選ばれた。1908年ケンブリッジで名誉総長デヴォンシャヤー公が死んで、その椅子レーリーに廻って来た。除幕式は1921年11月30日、ジェー・ジェー・タムソンの司会の下に行われた。その時のタムソンの演説は「レーリーの仕事はほとんど物理学全般にわたっていて、何が専門であったかと聞かれると返答に困る。また理論家か実験家かと聞かれれば、そのおのおのであり、またすべてであったと答える外はない。」

以下はTheory of Sound の各項目の題目を示した。

Theory of Sound Contents:Volume one  Historical Introduction By Robert Bruce Lindsay, Preface, Introduction, Harmonic Motions, Systems having one degree of freedom, Vibrating systems in general, Vibrating systems in general, Transverse vibrations of strings, Longitudinal and torsional vibrations of bars, Lateral vibrations of bars, Vibrations of membranes, Vibrations of plates, Curved plates or shells, Electrical vibrations, Volume two, Aerial vibrations, Vibrations in tubes, Special problems, reflection and refraction of plane waves, General equations, Further application of the general , Theory of resonators, Applications of Laplace’s functions, Sherical sheets of air, motion in two dimensions,  Friction and heat conduction, Capillarity, Vortex motion and sensitive jets, Vibrations of solid bodies, Facts and theories of audition,

上記をGeogle翻訳した。

音の理論 内容:第 1 巻歴史的序論ロバート・ブルース・リンゼー著、序文、序文、調和運動、1 自由度を持つシステム、振動システム一般、振動システム一般、弦の横振動、棒の縦振動とねじり振動、棒の横方向の振動、膜の振動、プレートの振動、湾曲したプレートまたはシェル、電気振動、第 2 巻、空気振動、管内の振動、特別な問題、平面波の反射と屈折、一般方程式、一般方程式のさらなる応用、共振器の理論、ラプラス関数の応用、二次元の空気および運動の平面的な動き、摩擦と熱伝導、毛細管現象、渦運動と敏感な噴流、固体の振動、聴覚の事実と理論、

Theory of Soundでは音の。伝搬、音の損失は距離減衰のほかに、粘性損失や熱損失や酸素や窒素の分子吸収などがあるまた安定した平衡位置の周りで制約された型で振動するモード形状を仮定し、運動周期における位置エネルギーと運動エネルギーの最大値を等しく設定することにより、連続体系の自由振動の基本固有振動数を評価する、この計算手順はレーリー法として知られるようになった。 しかし、リッツは 1908 年に、周波数とモード形状を決定し、複数の許容変位関数を選択し、位置エネルギーと運動エネルギーの両方を含む関数を最小化するための有名な方法を確立しこの手法はレーリー・リッツ法と呼ばれた。


1895(明治28)  W.C.Sabine残響理論の発表。このことによって、室内音響学が誕生。

「残響時間は幾何音響学において、室内音場を評価する上で最も基本的な概念である。云々、定常状態でE0=4W/CA 定常状態で音源を止めると、t­=0でW=0, E=E0とおけばE=E0e-cA/4V/t 減衰式で、減衰率D(dB/s)はD=10log10ecA/4V (dB/s)で、残響時間Tは60dB減衰する時間であるからT=60/D=6*4V/cAlog10eとなってSabineの残響式を得る。」※建築・環境音響学、前川純一著、ただしこのSabineの残響式では一般の吸音力がある部屋では使えなく、少なくともEyringの残響式を用いる必要がある。または空気の吸音を考慮したEyring-Knudsenの残響式を一般には用いている。

Sabineについては、この残響理論だけが紹介されているが、Harvard University PressからSabine のCollective papers on acousticsという論文集(11論文)が出ている。特に後半の記述は、Boston Music Hall(のちボストンシンフォニーホール)の建設時に用いた音響設計の例が含まれている。20世紀の室内音響の理論的展開の嚆矢となる1900年の画期的な論文である。

https://archive.org/details/collectedpaperso00sabiuoft/page/12/mode/2up?ref=ol&view=theater

CONTENTS

1.    Reverberation (The American Architect,1900) Page3

2.    The Accuracy of Musical Taste in Regard to Architectural Acoustics. The Variation in Reverberation with Variation in Pitch (Proceedings of the American Academy of Arts and Sciences, Vol.XLⅡ, No.2. June, 1906) page69

3.    Melody and the Origine of the Musical Scale (Vice-Presidential Address, Section B, American Association for the Advancement of Science, Chicago, 1907) page107

4.    Effect of Air Currents and of Temperature (Engineering Record, June, 1910) page117

5.    Sense of Loudness (Contributions from the Jefferson Physical Laboratory, Vol. vⅢ、1910)  page 120

6.    The Correction of Acoustical Difficulties (The Architectural Quarterly of Harvard University, March,1912 page131

7.    Theatre Acoustics (The American Architect, Vol.CⅣ, p.257) page163

8.    Building Materia and Musical Pitch  page199

9.    Architectural Acoustics (Journal of the Franklin Institute, January, 1915) page219

10.  Insulation Sound (The Brickbuilder, Vol. xxiv, No. 2, February, 1915) page237

11.  Whispering Galleries    page255

Appendix On the Measurement of the Intensity of Sound and on the Reaction of the Room upon the Sound  page277


この項目のうち、最初のReverberationの項について取り上げる。

1. 残響 (The American Architect、1900)  page3

音響上の問題で、現実の講義室の改善をいくつも指示された。最大限の有効性を得るためには、聞こえるためには、音が十分大きいこと、同時の存在する複合音が適切な音の大きさであること、会話や音楽による連続音が明瞭で、互いの音や外部の騒音がないことが重要だ。音の干渉や共鳴現象、双方とも悪影響を及ぼす。「共鳴」という言葉は、「残響」や「エコー」と同義語として漠然と使われており、科学文献では、この用語は、弾性体の振動運動が、その自然な振動速度に合わせて周期的な力を受けると増大するという現象をさす。音はエネルギーであり、限られた空間で生成されると、境界壁によって伝達されるか、他の種類のエネルギー (通常は熱) に変換されるまで継続する。音が吸収される速度に比例する。最初の作業は、さまざまな物質の相対的な吸収力を決定すること。クッションやカーテン、ラグ、布、キャンバス、フェルトなど、また男女の人も吸音力を持つ。さらに吸音力はオルガンパイプの音が止まった電流は、クロノグラフの最初の記録にもなり、観測者の唯一の義務は、音が聞こえなくなったときに記録を取ること。可聴時間は、音源の位置とはほとんど無関係である。また吸収材が通常の状態で残留音の持続時間を短縮する効果は、その位置にほとんど関係がない。クッションを使用して作業する必要があるが、結果は開いた窓の単位で表す必要がある。窓の吸音力はクッションと同様に面積に正確に比例している。

オルガンパイプの音とあるが、ドレミファのでるオルガンの1部の音ではなく、多分ノイズと思われる。以下の本文にあるオルガンパイプの図を示す。

今実際に行われている残響に対する考え方と大きく異なる。まず音源はオルガンパイプによる多分全帯域のノイズであるが、周波数特性は表されていない。また空気吸収については吸音力は残響については無視できると書かれている。ただ残響について何もないところから実験によって汲み上げていくところが大変興味深い。

オルガンパイプの標準の音源は最小可聴音の60dB大きなものであるが、これが基準になっている。窓開口部の解放された面積の吸音力は基準1m2で、任意の部屋の残響曲線は直角双曲線の式(α+x)×t=kと表される。αは室の吸音力、xは家具や観客の吸音力、tは音源が減衰するまでの任意の時間、k=任意の部屋の双曲線の形状を決定するパラメータ。ただし、αT=k=KVの関係からKの値を実験的に求めていく。Vは室容積である。

この数字を決定するために様々な実験を繰り返し求めていく。室の吸音力には壁や床や閉じられた窓ガラスなど、観客の吸音力や家具の吸音力なども実験によって確認する。最後の項では実際のホール、この論文ではボストンミュージックホール(現在はボストンシンフォニーホール)をライプチッヒゲヴァントハウスと比較しながら検討をする。このゲヴァントハウスはボストンミュージックホールとは収容人員や室容積が大きく異なり、単に仕上げを同一にしたところで残響は同じようにはならないことが書かれている。これらの努力でボストンシンフォニーホールが音響的には、世界で最も重要なホールとされている。

大正7年1918年に早稲田大学の建築学科の内藤多仲がHarvard大学のW.C.Sabineを訪れ、日本で最初の建築音響学の資料を持ち帰ったことが歴史に残されている。多分この技術が、昭和2年 1927年、早稲田大学の佐藤武夫による大隈講堂につながっていくことになる。

さらに常磐津の鈴木英一さんの紹介で、早稲田大学文学部の児玉隆一教授の案内で、2015年5月にクレメンスさん、アントニオさん 東大の森下先生、藪下晶子、私と早稲田大学の大隈講堂の音響測定をすることができ、この結果はクレメンスさんのドクター論文「Symphonic Concert Life and Concert Venues in Tokyo 1868-1945」につながったと感じている。

藪下晶子は、現在YABRugs(RugLife)という会社の代表で、先日ブログに書いたクルグズのコムズコンサート、 クルグズの壁掛けの刺繡布トゥキッシュ・キーズ展に合わせて、企画されたが、この展覧会の主催者の一人である。 https://yab-onkyo.blogspot.com/2024/07/blog-post_29.html

2023/09/25

ヴィトルヴィウスの建築論(VITRUVIUS TEN BOOKS ON ARCHITECTURE)

今年5月に「キルヒャーの普遍音楽と純正律」というブログを書いたが、キルヒャーがギリシャ時代は素晴らしかったというので、ヴィトルヴィウスの建築論を読んでみた。

以下は「キルヒャーの普遍音楽と純正律」というブログを示す。

http://yab-onkyo.blogspot.com/2023/05/blog-post_31.html

 ヴィトルヴィウスは紀元前80~70年ころから紀元前15年以降、共和政ローマ末期から帝政ローマ初期に活躍した建築家で、『建築について、建築十書』を著した。文章の中では、ギリシャ時代のこともローマ時代のことも書かれている部分がある。その文章のBookⅤの建築音響の部分を要約した。この建築音響のことでは、円形劇場の立地やドレミファのHarmonicsや音符を示す五線譜も書かれている。観客の階段を使っての安全のための避難の方法や、響く壺の設計方法(たぶん劇場の各場所で音を補強し、明瞭度を上げるために開発したと思われる。残響の補強のためではない。)やエコーが音響障害になることや、ギリシャの劇場やローマの劇場の違いなどが書かれている。現代のような数式はないが、音響の分野でも科学的な根拠がわかる考え方である。 

以下はVITRUVIUS TEN BOOKS ON ARCHITECTUREの英訳本の目次

Table of Contents

Ten Books on Architecture

Table on Contents

Preface to “Ten Books On Architecture

Book Ⅰ

Preface

Chapter Ⅰ:The Education of the Architect

Chapter Ⅱ:The Fundamental Principles of Architecture

Chapter Ⅲ:The Departments of Architecture

Chapter Ⅳ: The Site of a City

Chapter Ⅴ: The City Walls

ChapterⅥ:The Directions of the Streets: With Remarks On the Wings

Chapter Ⅶ: The Sites For Public Building

BookⅡ

Introduction

ChapterⅠ:The Origin of the Dwelling House

ChapterⅡ: On the Primordial Substance According to the Physicists

ChapterⅢ: Brick

ChapterⅣ:Sand

ChapterⅤ:Lime

ChapterⅥ:Pozzolana

ChapterⅦ:Stone

ChapterⅧ:Methods of Building Walls

ChapterⅨ:Timber

ChapterⅩ:Highland And Lowland Fir

BookⅢ

Introduction

ChapterⅠ:On Symmetry: In Temples And In the Human Body

ChapterⅡ:Classification of Temples

ChapterⅢ:The Proportions of Intercolumniations And of Columns

ChapterⅣ:The Foundations And Substructures of Temples

ChapterⅤ:Proportions of the Base, Capitals And Entablature In the Ionic Order

BookⅣ

Introduction

ChapterⅠ:The Origins of the Three Orders, Proportions of the Corinbian Capital

ChapterⅡ:The Ornaments of the Orders

ChapterⅢ:Proportions of Doric Temples

ChapterⅣ:The Cella And Pronaos

ChapterⅤ:How the Temples Should Face

ChapterⅥ:The Doorways of Temples

ChapterⅦ:Tuscan Temples

ChapterⅧ:Circular Temples And Other Varieties

ChapterⅨ:Altar

BookⅤ

Introduction

ChapterⅠ:The Forum And Basilica

ChapterⅡ:The Treasury, Prison, And Senate House

ChapterⅢ:The Theatre: Its Rite, Foundation And Acoustics

ChapterⅣ:Harmonics

ChapterⅤ:Sounding Vessels In the Theatre

ChapterⅥ:Plan of the Theatre

ChapterⅦ:Greek Theatre

ChapterⅧ:Acoustics of the Site of a Theatre

ChapterⅨ:Colonnades And Walks

ChapterⅩ: Baths

ChapterⅪ:The Palaestra

ChapterⅫ:Harbours, Breakwaters, And Shipyards

BookⅥ

Introduction

ChapterⅠ:On Climate As Determining the Style of the House

ChapterⅡ:Symmetry, And Modification In It to Suit the Site

ChapterⅢ:Proportions of the Principal Rooms

ChapterⅣ:The Proper Exposures of the Different Rooms

ChapterⅤ:How the Rooms Should Be Suited to the Station of the Owner

ChapterⅥ:The Farmhouse

ChapterⅦ:The Greek House

ChapterⅧ:On the Foundations And Substructures

BookⅦ

Introduction

ChapterⅠ:Floors

Chapter2:The Slaking of Lime For Stucco

ChapterⅢ:Vaultings And Stucco Work

ChapterⅣ:On Stucco Work In Damp Places, Decoration of Dining Rooms

ChapterⅤ:The Decadence of Fresco Painting

ChapterⅥ:Marble For Use In Stucco

ChapterⅦ:Natural Colours

ChapterⅧ:Cinnabar And Quicksilver

ChapterⅨ:Cinnabar(Continued)

ChapterⅩ:Artificial Colours, Black

ChapterⅪ:Blue, Burnt Ocbre

ChapterⅫ:White Lead, Verdigris, And Artificial Sandaracb

ChapterⅩⅢ:Purple

ChapterⅩⅣ:Substitutes For Purple, Yellow Ocbre, Malachite Green, Indigo

BookⅧ

Introduction

ChapterⅠ:How to Find Water

ChapterⅡ:Rainwater

ChapterⅢ:Varius Properties of Different Waters

ChapterⅣ:Test of Good Waters

ChapterⅤ:Levelling And Levelling Instruments

ChapterⅥ:Aqueducts, Wells, And Cisters

BookⅨ

Introduction

ChapterⅠ:The Zodiac And the Planets

ChapterⅡ:The Phases of the Moon

ChapterⅢ:The Course of the Sun Through the Twelve Signs

ChapterⅣ:The Northern Constellations

ChapterⅤ:The Southern Constellations

ChapterⅥ:Astrology And Weather Prognostics

ChapterⅦ:The Analemma And Its Applications

ChapterⅧ:Sundials And Water Clocks

BookⅩ

Introduction

ChapterⅠ:Macines And Implements

ChapterⅡ:Hoisting Machines

ChapterⅢ:The Elements of Motion

ChapterⅣ:Engine For Raising Water

ChapterⅤ:Water Wheels And Water Mills

ChapterⅥ:The Water Screw

ChapterⅦ:The Pump of Ctesibius

ChapterⅧ:The Water Organ

ChapterⅨ:The Hodometer

ChapterⅩ:Catapults Or Scorpiones

ChapterⅪ:Ballistae

ChapterⅫ:The Stringing And Tuning of Catapults

ChapterⅩⅢ:Siege Machines

ChapterⅩⅣ: The Tortoise

ChapterⅩⅤ: Hegetor’s Tortoise

ChapterⅩⅥ: Measures of Defence

 上記目次にあるように、本の内容は、都市の敷地、城壁、公共建築、住宅、建築用の材料、寺院、ドーリア式、イオニア式、コリント式などの3つの様式、そしてBookVで、劇場、音響、ハーモニー、劇場に置いた響く壺、劇場の計画、劇場敷地の音響、風呂、造船所、BookⅥ以降は住居、漆喰などの建材、水について、水道橋や井戸、月の満ち欠け、占い術、天気予報、惑星や月、機械、巻き上げ機、水を汲み上げるエンジン、などをかなり具体的に書いている。

BookⅤのChapterⅢ The Theater: Its Site, Foundation and Acousticsでは、劇場の立地について、観客は上演中、劇を楽しんで動かないことが多く、もし劇場が不健全な風を受けたり、不健全な地域から風が吹いてくると健康を害することになる。劇場が南向きの場合には、劇場が熱せられて、体に良くない。劇場の横に横断する中通路によって、舞台から音声が遮られないように、上段の座席と舞台に直線を引いて、座席の角度を調節する必要がある。劇場の客席からの出入口は数多く、幅広く作る必要がある。それぞれを接続する必要はないが、直線的にして、避難の時には混雑しないようにしなければならない。

声は舞台から円盤状に伝搬をし、伝搬に際し、障害物が無いようにしなければならない。障害物があるとそこで反射して伝搬を妨げてしまう。また音声は水平だけでなく、斜め上方向も伝搬する。したがって障害物がない場合には、下段の人も上段の人も万遍なく声は伝搬する。また古代の建築家は、正規の数学理論や音楽理論によって、舞台上で発せられるすべての声について、倍音(Harmonics)を応用することで、聴衆の耳に明瞭に、かつ甘美に届けられるようになった。

ChapterⅣ:Harmonicsは音楽科学のあいまいで難しい分野で、アリストクセノスの著作からできる限り明確にそれを説明している。声は高くしたり、低くしてピッチを変えるときに、二種類の動きがある、一つは連続的に、もう一方はは間がおかれる。連続的な声は、ある境界で、またはある特定の場所で静止しない場合は、正確には明確でないが、ピッチが違うことは明らかです。一定の間隔でピッチを変える場合は、変える境界では変化がわかるが、中間点では不明瞭である。テトラコードなどの音符について、精密な説明がある。音程の譜面が載っていて、それぞれに全音と半音に分けて記名されている。いまの音符の読み方ではファ、ソ、ラ、シ、ド、レ、ミ、ファ、ソ(♭)、ラ、シ、オクターブ変えてシ、ド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、の譜面がある。またそれぞれにはギリシャ語の名前がついているが、これが何を意味するかはよく分からない。Proslambanomemos, lichanos hypaton、parthypate meson, lichanos meson, trite synthemmenon, paranete synhemmenon, trite diezeugmenon, paranete diezeugmenon, trite hyperbolaeon, paranete hyperbolaeon

                                                  図 楽譜 p.146から引用

(※以下は「音律を含む音に関する歴史年表」のブログで、1020年に楽譜の発明とある。

http://yab-onkyo.blogspot.com/2022/12/blog-post_15.html●1020 多分この楽譜は英訳時に付け加えたものか?それともギリシャ時代から楽譜はあったのか?) 

ChapterⅤ: Sounding Vessels In the Theatre(劇場で響く壺)について書かれている。(19世紀のヘルムホルツの考え方はここからきているのではないかと思ってしまう。)数学的原理に対応して、劇場の大きさに比例して青銅の壺を作る。音に触れると互いに、4度や5度、やさらに2オクターブ上の音を奏でる。さらに劇場のこの壺を座席の間に隙間を作り、音楽の法則に従って、壁のどこにも触らずに設置し、さらに壺の周囲はどこにも触れず、上部には余裕が必要。さらにそれらの壺をさかさまに設置し、ステージに面する側で、0.5feet以上の高さの楔で支える。

(They should be set upside down, and be supported on the side facing the stage by wedges not less than half a foot high. Opposite each niche, apertures should be left in the surface of the seat next below, two feet long and half a foot deep.)

                       図 座席の下に入れる音声強調用の響く壺および配置(※文章から推定)

響く壺の配置は、劇場のサイズがそれほど大きくない場合は、中腹に水平範囲をマークし、その中に 12 個の等しい間隔をあけて 13 個のアーチ型のニッチを構築し、それぞれの壺の共鳴周波数を決めて配置する(この部分は意訳)。声はステージの中心から発せられ、さまざまな器の空洞に接触するにつれて広がり、それらに衝突し、音の明瞭度が増していきます。

半音階の音程では、自然な音の調和を形成する他の音がないために、円弧上の中央に響く壺を配置してはいけない。 これらの原則を実行したい人は、アリストクラテスによる音楽の法則にのっとって実行すれば済む。ローマでは毎年、たくさんの劇場ができてきているが、そのほとんどが公立劇場は木造で、それらは共鳴周波数(※現在では木が吸音する)があるに違いない。竪琴に向かって歌を歌うとき、更に高い音で歌いたいときには、舞台の折り戸に向かって向きを変えて歌うのを見ることができる。劇場が共鳴しない(?)硬いレンガ(mesonry),石や大理石で作られているときには、“echea”の原則を適用する必要がある。

(※石などで作られた劇場は野外の円形劇場を指すと思われるが、ローマにある劇場は木造だそうであるが、雨のことを考えると屋根があるのか気になる。屋根があると日本の芝居小屋と似たかたちとなる。またはシェークスピアの劇場のように、舞台と客席の上には屋根があるが、平土間の上には屋根がない形もあるかもしれない。)

この青銅の壺は、ローマだけでなく、イタリアの地域およびギリシャにもたくさん使われている。Lucius Mummiusがコリントスの劇場を破壊したときに、その青銅の壺をローマに持ち込んで、それを売ったお金でLuna神殿に奉納した。また多くの熟練した建築家が小さな町で劇場を作るときには、資金力が無かったので、粘土でできた同様に共鳴する壺を、原則に基づいて配置し、有益な結果を生み出した。

ChapterⅥ:劇場の計画、劇場の主の中心を固定して、底部の外周の線を引き、この円に内接する正三角形を4つ描く。この中の一辺がスケーネ(scaena,舞台背後の壁)の位置とし、それと平行な中心を通る線で、プラットフォーム(舞台)とオーケストラを分離する。

 

                                      図はTen Books on Architectureのp.152から引用

 この舞台はギリシャのものよりも低く作る必要がある。オーケストラには議員も座り、舞台で演奏するから、オーケストラに座った人が舞台にいるすべての人を見る必要がある。そのためにはこの舞台の高さは5feetを超えてはいけない。観客席の断面の勾配は、少なくとも最初の横断通路で分割されるべきである。 円周に沿ってある三角形のその角度を、二つの階段の間で、階段の方向で決める。この上に、上部の断面が下部の断面の中間に配置され、通路が交互に配置される。 階段の方向を示す下部の角度は(C, E, F, G, H, I, D)の7つある。中央の角度の反対側には、Royal Door(K)があるべきである。観客席の段差は、高さが1feetに手に平一つ分以下、または1feetに6本の指を超えてはならない。階段の幅は2.5feet以下または2feet以下とすべきである。

座席の最上部に立つコロナ―ド(列柱)の屋根は、スケーネの最上部と同じ高さにする必要がある。それは声が最上部の列および屋根まで、同じ大きさ(power)で到達するべきであるからである。スケーネの長さはオーケストラの直径の倍でなければならない。柱の台座の高さはステージの高さから始まって、円環などを含めてオーケストラの直径の1/12、その台座の上の柱の高さはオーケストラの直径の1/4、台輪と装飾品は柱の高さの1/5にすべきである。

劇場ではほぼ対称性とするが、現実には段、湾曲した横通路、欄干、通路、階段、舞台、法廷その他は実用性を重要視して考慮すべきである。小さな劇場でも大きな劇場でも同じサイズで作る必要があるものもある。建築家に実務経験があり、賢く、また技術があれば材料の不足などでも応用が利く。 スケーネの中央には王宮のような装飾された両開きのドアがある。その左右には客間のドアがある。その先には、ギリシャ人が「лεqiάиτot」と呼ぶ回転する3つの装飾面がある装飾装置がある。劇が変更されるとき、または突然の雷鳴とともに神々が登場するとき、これらは回転し、異なる顔を見せる。背景図には一つ目は悲劇、二つ目は喜劇、三つ目は風刺と呼ばれる3つの種類がある。悲劇の背景には柱や3角形の切妻壁(pediments)や彫刻や王にふさわしい物で施される。喜劇の背景はバルコニーや景色の良い一連の窓がある普通の住居、風刺は木や洞窟や山や素朴な物体を風景として装飾されている。(多分これらはかなり大きなものと思われる。)

ChapterⅦ:ギリシャ劇場は、建設規則をあらゆる点で従う必要がある。またギリシャ劇場は三つの中心がある。一つは広々としたオーケストラと、より後方に設置されたスケーネ、奥行きの浅い舞台がある。

Chapter Ⅷ: 劇場の音響学では、劇場に対する音響学は多大な労力と技術で作られたもので、最新の注意をもって対処する必要がある。劇場では声が穏やかに下降し、不明朗な意味を伝えないように、また音を跳ね返さないように注意する必要がある。最初に発せられた声が反射してエコーとなり、最後には二重になって聞こえ、後続の声を阻害するような場所を作らないようにしなければならない。子音ははっきりとした明瞭な音色で耳に届けることができる。このように劇場に注意深く設計が行われていれば、声は完全に劇場の目的に適うものとなる。ギリシャでは劇場の平面は四角で設計されているのに対し、ローマの劇場は正三角形でデザインされている。これらの指示に従う人は、完全に正しい劇場を施工することができる。

※坂本龍一著 「ぼくはあと何回、満月を見るだろう」のp.209に「以前にも話題にしたギリシャの円形劇場は、今から2000年近く前につくられた建物なのに、音の響き方がとても良かった。結局、使い勝手の良し悪しは、技術というよりも設計者がどれだけ深く利用者の立場で考えているかによると思います。」とあった。多分これは設計者がどれだけ深く利用者の立場を考えただけでなく、VITRUVIUSの著作なども影響していると思う。坂本龍一がこの円形劇場の音の響きがよかったとあるのは、どう良かったのかもう少し知りたかった。