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2024/08/16

清水寧氏論文「古くて新しい建築音響の問題-室内音響-」

清水氏論文は音響学会誌8月号(VOL.80 NO.8 2024)に掲載されたものである。はじめには、同著者の「室内音響の歴史と変遷-ホールにおける「残響」の歴史-」が紹介されており、その論文も併せて読んでみた。この論文は1年前の音響学会誌に出た論文(VOL.79 NO.4 2023)でよく知っている。私も建築音響の歴史はSabine からではなく、より前にさかのぼらなければならないと感じていた。Sabine以前の室内音響学の変遷という章では「音響学の歴史はピタゴラスの音階で知られるPythagorasによる紀元前5世紀ごろの数学的研究から始まり、17世紀ごろまでは音階の研究を除くと音響に関する研究はなく、、、、、科学的な研究はSabineの登場まで待つ。」とあり、Vitruvius Kircher 等が紹介されている。この時Kircherの存在を知った。この後、さらにクレメンスさんの芝居小屋の論文も紹介されている。この論文はわがブログにクレメンスさんが「The Acoustics of Kabuki Theatresについて書いたものを紹介している。https://yab-onkyo.blogspot.com/2020/11/the-acoustics-of-kabuki-theatres.html

Vitruviusについては劇場の音響について細かく書かれており、Kircherについても残響、エコーについて図入りで書かれている。また近世ヨーロッパでは音響学の科学的発展が始まった時代であったが、当時のホールは過去の設計理論書や当時の成功事例を模範としながら設計が行われていたようだと。上記ブログに登場するStefan Weinzierl 氏(ベルリン工科大学、音響学部教授) がかつて、クレメンスさんと一緒に加子母明治座を音響調査したときに持っていた彼のドクター論文は何というタイトルかはっきり覚えていないが、テーマはベートベンのConcert Venueについてで、残響時間など様々な種類の場所があったと書かれていたように記憶する。清水さんの書かれている近世ヨーロッパの当時の内容そのもののようだ。

Sabine の残響理論についてもCollective Papers on Acoustics中から残響時間について細かく書かれていた。

今回は室内音響の応用という観点から書かれたと。一番興味を持ったのはCoupled Room-吸音と残響-という部分で、我々音響技術者が用いる場面は、劇場の客席のある空間と舞台のある空間の境を仮想空間として音響設計するような場合であるが、ここでは大聖堂の祭壇のある空間やわきの空間を複数の空間が結合していると考えて、仮想壁に吸音率を設定して残響時間を考慮する方法などが書かれている。

これらのことから先日藤沢の遊行寺で行われた横浜ボートシアターの「小栗判官・照手姫」の公演では、遊行寺の本堂の外陣で舞台および観客が座り、内陣には半分幕で覆い、多分内陣に一部脇間に舞台裏を設定していた。この空間を考えてみると、本堂の仏像の安置されている内陣とお客さんがいる外陣とは欄間で仕切られており、音響的にはCoupled Roomと考えることもできそうである。

この論文の中で、残響理論の未解決の問題の項で、残響時間の予測は拡散音場を前提としているために、それを満たしていない場合には残響時間の予測方法は未解決となっている。その後の章ではコンサートホールの音響設計について、側方反射音は見かけの音源の大きさや音に包まれた感じ等のこと、さらに側方反射音が多いほど拡がり感が向上するなどの例としてシュ―ボックス型が好ましいとされ、更にはワインヤード型にもそれぞれに席に側方反射音が生じる壁を配置して、新しい室内音響の例を示したとしている。さらに客席以外の空間を残響付加装置として使われている例や電気音響によって残響を付加した例なども出ている。これらは新たなコンサートホールを設計しようとした場合にはテーマとなることである。

これらはあくまでもクラシックコンサートホールのことだ。様々な民族音楽、トルコのサズやクルグスのコブスやカザフスタンのドンブラ・コムズのような弦楽器やインドネシアのガムランやイタリアのオペラやスペインのフラメンコやケルトの民俗音楽、ウクライナのバンドゥ―ラ、ウズベキスタンのドタール、インドのシタール、中国のバフ(大きな横笛)・二胡、韓国のデグム(大きな横笛)・タンソ(縦笛)、日本の箏や三味線や尺八や和太鼓やお囃子、更に歌舞伎や人形浄瑠璃や能・狂言やお寺の声明など音楽に関係している劇場などの音響空間はまた別の考え方が必要となると思われる。さらに演劇や語りやさらに賛美歌、お経等の空間も音響空間の検討の範囲となる。またさまざまな民族楽器の合奏なども最近はあるようだ。さらにそれらを上演する建築空間との関係も重要な要素だ。建築音響に対して、やることはまだまだたくさんある。