2023年12月3日(日)の朝日新聞のTHE GLOVEの欄の特集は、「音」で、「音から見える現代 世界の街の音を記録」、「作曲家がつくる電気自動車の音 音が企業のブランドに」、「音の調味料がもたらす食の変革」、「音で能がゾクゾク たき火、スライム、かむ音・・・人気のわけ」、「ギュイー!ギュイー!ギュイー!携帯の緊急地震速報」、「こだわりの音空間 300のイヤホンを使いこなす」、そして最後に「除夜の鐘の歴史 変わる音、変わらない音」。音の中でもここで取り上げたいのは最後の項の「除夜の鐘の歴史 変わる音、変わらない音」だ。この項の前半の唸りの部分に注目した。
『街の音は時代とともに変化しているが、時代を問わず変化してきていないのが、年の瀬の風物詩「除夜の鐘」だ。その産地として知られる高岡市に日本のシェアー6割の老子(おいご)製作所があり、その取締役会長に聞くと、「梵鐘は仏教とともに大陸から日本に渡ったが、その音色は日本に来て大きく変化し、時代とともに変わっていった。中国や韓国の梵鐘は「バーン」とドラのように広がる音だが、日本の梵鐘は音が低く、「ゴーン」となった後で、「ウォンウォン」となる「うなり」がある。これが日本の梵鐘の特徴だという。」』 この梵鐘のうなりは日本だけの特徴とある。たしかに日本の梵鐘はうなりがある。ただ私が重慶の飛行場で購入してきたチベットの鐘(写真)もタイの暁の寺のお土産屋さんで購入した鐘(写真)も唸りがある。またトレヴァー・コックス著、田沢恭子訳の「世界の不思議な音」 英文は「The Sound Book The Science of the Sonic Wonders of the World」という本のp.269に巨大な鐘、ビッグベンについて「まず金属がぶつかり合うカーンという音がして、それが次第に弱まるにつれ朗々と響く音になり、20秒ほど続く。最初のハンマーの打撃から生じる音は高周波成分が多いが、それはすぐに消滅し、もっとおだやかな低周波の響きが残ってゆったりと震音を発する。」 p.274には「鐘の場合は、中略 対称性の欠如によって、震音が生じる。完全な円形でない場合には、鐘は唸りを生じる二つの近接した周波数を持つ音を出す。教会の鐘を新たに鋳造するとき、西洋の鋳造所ではそのような唇音を避けたいと考えるのが普通だろう。ところが韓国では、この効果は音の質を決定する大事な要素と見なされている。西暦771年に鋳造された聖徳大王神鐘は、「エミレの鐘」という呼び名の方が良く知られている。この鐘を鳴らすと「エミレ」(お母さん)と子供が泣き叫ぶような音がすると言われているのだ。」 この鐘は日本にある梵鐘と似た大きさである。私は実際に韓国の鐘の音を聞いたことは無いが、この本によれば、韓国でも鐘の唸りは重要なものと考えられているようだ。ということは韓国でも中国でもタイでも、またこの日本でもお寺の鐘は唸りを生じている。このことと朝日新聞の老子製作所の方の、仏教が日本に来て、お寺の鐘の音が「日本に来て大きく変化した」とあるのは本当だろうかと考えている。比較をしているのが中国や韓国の梵鐘は「バーン」とドラのように広がる音だと。何かお寺の鐘と違うものを指しているような気もする。また「世界の不思議な音」の本によればビッグベンの「鐘が設置されて間もなくある面に大きなひびが入ってしまった。」 これが唸りの原因ではないかと書かれている。
私はウイーンのホライン事務所の近くの教会の鐘の音を毎日聞いていたことがあるが、この鐘の音は時間になるとガーンガーンとなっていて唸りはなかった。このヨーロッパの鐘の音を聞きながら、唸りを生じないように考えられたピタゴラス音律のことを思い出す。またわが仏壇の鈴の音を聞いていて、唸りをいつも感じている。この唸りが天国に願いを伝えるような気がする。
※トレバー・コックスは執筆当時マンチェスターのソルフォード大学の音響工学教授、
※お寺の鐘の音が「日本に来て大きく変化した」という文章は、編集部の記者の宮地ゆうさんが老子製作所のかたのおっしゃたことを書いてはいるのですが、まったく引用しているのではなく、「解釈」しているような感じがする。お寺の鐘が唸るのは日本に来て突然唸るようになったのではないということは、本文でも、またそのほかインターネットでも見ることができる。老子製作所の方のおっしゃたのは単に日本の鐘はドラとは違うということではないかと思います。
写真:左 タイの暁の寺のお土産屋さんで購入、
右:重慶の飛行場のお土産屋さんで購入したチベットの鐘