ページ

2023/04/27

室内音響の歴史と変遷 -ホールにおける「残響」の歴史-清水寧 著 日本音響学会誌 について

 日本音響学会誌のVol.79 NO.4 2023の「解説」の項に「室内音響の歴史と変遷 ―ホールにおける「残響」の歴史―」というテーマで、清水 寧 氏が書いている。その項目の3Sabine以前の室内音響の変遷という項目がある。音響技術者にとっては、室内音響はSabineの残響理論から始まっていると教えられている。したがってそれ以前の建築音響の研究などはほぼ残念ながら書籍を読むことがなかった。ただギリシャ時代のピタゴラス音律やヴィトルビウスの建築論があることは知っていた。また中世には純正律などができ、おそらくこのことでバッハやモーツアルト、ベートベンなどのクラシック音楽が華栄えたのであろうと予想ができた。しかしなんでピタゴラス音律に替わって純正律が生まれたのかは気になって、以前、純正律が生まれた理由は、大きな空間のある教会があったことによるのではないかとブログに書いたことがある。

その時代、中世の音響の歴史についての論文がこの音響学会誌に紹介されていた。この論文を書いたのはTrochinというイタリアの研究者で、本文の最後の参考文献の欄に以下の文献が出ている。

L.Trochin: Athanasius Kirchers Phonurgia Nova: The marvelous world of sound during 17th century.” Acoust.Today, Jan.2009, pp.9-15 (2009)

この参考文献をインターネットで検索すると以下のものが出てくる。

 https://www.researchgate.net/publication/233959830_Athanasius_Kircher's_Phonurgia_nova_The_Marvelous_World_of_Sound_During_the_17th_Century

 Trochinの論文は、中世における伝承の歴史はバロック美術と音響を結び付けたことで知られているKircher16021680)の書である“Phonurgia NovaNewModality of Sound※)において、音響の考え方を発展させ、劇場以外の公共空間や教会・寺院などの建築空間にも浸透するきっかけを作っているとあると清水さんは述べている。

このTrochinの英文の文章を読むと、Kircherは同時代のボイルやニュートンのように、錬金術が信頼されているように信頼されていたが、科学の歴史の中ではボイルやニュートンの様には祝福されていない。ただし、彼の仕事はあまりに多くのことが考えられており、基礎的な、また科学的な世界が多くに人にパッチワークのように検討されている。Kircher の書いたPhonurgia novaには音楽理論の分析もある。音楽は音によって驚異を誘発する能力がある。これはイタリア語で「meraviglia」または英語で「wonder」と呼ばれる、バロックの美学と音の探求の独自の混合物だが、この魅力的な作品の研究はわずかしかない。光の散乱に関して、Kircher は、論理的、合理的なアプローチが音楽現象の発生を促進することを明らかにした。Kircherの音の概念は、後に定式化されたガリレイとニュートンの近代の振動理論の影響を受けていなかったが、振動周波数の数と音のピッチとの深い関係はすでに考慮されてた。

彼が発明したすべての機械は、科学と魔法の強い絆を明らかにしる。 彼は人々を驚かせ、ありそうもないことを納得させ、最後に、密閉主義と正確な科学の間にある難解さを説明したいと考えた。

彼は、エジプトの話ができる彫刻(Talking statue)に対して、多くの人はそれを否定したが、明瞭な音を発音するだけでなく、歌ったり、動物の鳴き声を再現したりすることさえできると、同様の彫像の代替構築方法を提供した。部屋の中にこの彫像を入れて、その前の壁の中にらせん状の大きな巻貝のような形のものを設置して、大きな開口部を外部に、その端部をこの彫像の口の中に正確に接続する。彫像の目や口は動くようにする。そのことで彫像はあらゆる音を発することができ、人間や動物の声で鳴いたり呻いたりすることができる。

またエコーの科学に関する実験も示している。エコーは壁や建物だけでなく、木や川や金属の表面でも反射する。また空気の動きも音の伝搬の影響をし、風の動きも、エコーの効果に影響をする。

ハイデルブルグのある宮殿では、円形の部屋があって、エコーのために、円形のある位置から発した音は、ある場所2か所でよく聞こえる。

楕円形の断面の天井は二つの焦点を持っている。その2点に、二人をそれぞれ立てて、話すと容易にコミュニケーションができる。

Villa Simonetaの中庭のある場所では声が2430回もピッチに従って反射してくる。Kircherはこの原因は、中庭の二つの平行な面の間の距離に比例して、反射が生じると確認した。

論文の結論として、Phonurgia novaは、宗教的、神秘的、秘教的、科学的などのいくつかに作用する豊かで一貫した遊び心を示す。すべての定理は、仮説、当然の帰結、解決策など、幾何学的な実証の厳密さで記述されているが、Kircherはデータを抽出するだけでなく、特定の現象が実験的に繰り返される可能性があるという数学的および幾何学的な確実性を備えた法則を定式化するために、特定の要素に焦点を当てている。Kicher 装置によって引き起こされる錯覚は、自然の謎に比べて人間の精神が不十分であることの証拠を提供しているが、17 世紀の科学的懸念の興味深い方向を私たちに与えてくれている。

  しかしこのTrochinの論文からでは、Kircherは音の物理的な現象については書いているが、残響の長い教会で歌う讃美歌などの音楽で和音が素晴らしいというような話は出てこなかった。そこでKircherの著作で、日本語訳の本が見つかったので、今後読んでみることにする。その本は「普遍音楽 調和と不調和の大いなる術」で、著者は「アタナシウス・キルヒャー」である。アタナシウス・キルヒャーは16011680 ドイツ出身の学者、イエズス会司祭、その好奇心の対象は多岐にわたり、古代エジプトとその言語と象形文字、工学や磁気学をめぐる自然学、音楽、天上界と地上界、地質学、光と影、医学、暗号論、中国学などの幅広い分野の著作を残したと裏表紙に記されている。

 考えてみればその当時、オルガンの製作で有名なアルプ・シュニットガー(北ドイツ1648年生誕)やバッハの前の時代にオルガンの作曲で有名なデートリヒ・ブクステフーデ(デンマーク、1637年ごろ生まれる)も何らかの室内音響に関する著作があるかもしれない。