ページ

2009/09/11

響く馬頭琴

8月5日の朝日新聞夕刊に、「自由な時代 響く馬頭琴」という見出しの記事がありました。
モンゴル最大のお祭りのナーダムが、建国記念日である7月11日に始まり、ウランバートルの中央競技場で行われた開幕式で、国立馬頭琴交響楽団の演奏があったそうです。
馬頭琴とは、弓で2本の弦をこすって音を出す楽器で、チェロのような、またはチェロより濁った音を出します。楽器の棹の先に、馬の顔の彫り物があるので、馬頭琴といいます。

モンゴルの歴史を振り返ると、1921年にソ連赤軍の支援を受けて中華民国から独立し、1924年から社会主義国としてモンゴル人民共和国となる。1946年中華民国からも独立を承認され1961年に国連加盟された。しかし1930年から独裁体制であったが、1980年以降、ソ連のペレストロイカの動きがあり、1990年一党独裁が崩壊してモンゴル国となっています。

記事では、その3年後の1993年、国立馬頭琴交響楽団ができて、馬頭琴が民族のシンボルとして民主化の歩みとともに息を吹き返したそうで、この15年間は、毎年、建国記念日に、国立馬頭琴交響楽団の演奏があるそうです。さらに記事には「馬を愛する遊牧民が儀式の時に狭いゲルで弾いていたころは、胴体に馬の皮を用い、音も響かなかった。」とあり、それが「徐々に胴と弦は木材とナイロンにかわり、響きを良くするために胴にも切れ目がはいり、チェロのようになった。楽器の『現代化』は社会主義時代に拍車がかかる一方、伝統的な民謡はさびれ、弾き手も減った。」「しかし国立楽団の発足で歯止めがかかり」、「楽器の形や演奏形態は変わったが、大切な馬の生きた毛を使って民族の歌を奏でる精神は受け継がれた。」とあります。

そのような複雑な歴史を経てきた馬頭琴ですが、その発祥は相当古いもののようです。13世紀に書かれたマルコポーロの「東方見聞録」の中にも、馬頭琴らしい楽器のことが書かれているようですが、その頃はまだヨーロッパには擦弦楽器はあまり知られていなかったようです。ヴァイオリンは、16世紀後半に完成し、その後現在の形になるには19世紀になってからのようです。

弓で弾く二弦の擦弦楽器には、中国の二胡、カザフスタンのコブスなどがあります。二胡は蛇皮が張られていますが、カザフのコブスは、ハート型のひょうたん?を半分に割ったような形で、何も表面に張られていません。それでもかなり大きな音が出ます。二胡はヴァイオリン、カザフのコブスはビオラ、馬頭琴はチェロに音域が近いような気がします。日本では、弓で弾く弦楽器は胡弓だけですが、三味線と形が似ていて三弦で、ふさふさした多量の馬の尻尾の毛でできた弓で弾きます。ルーツは中国ではなく、東南アジアではないかという説があります。しかし、現在日本ではあまり流行っていません。

おそらく世界中で生まれた様々な楽器や音楽が、シルクロードや南の海を経由して日本に入り、日本人の好みで選択されたものが現代に残っているのだと思います。

昨年馬頭琴のコンサートに行き、演奏者にどのようか空間が演奏に好ましいですかと聞きましたら、もともと草原で弾いていましたから、とおっしゃいました。したがって馬頭琴の「響き」は、風が吹き渡るような感じのところで演奏することが理想のようです。馬のいななきのような曲もあります。馬が疾走している様子が目に浮かびます。