あけましておめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願いいたします。
年末慌しく、更新することができませんでしたが、12月に京都にて木造劇場研究会に参加いたしました。劇 場演出空間技術協会(JATET)の木造劇場研究会のメンバーの一人が、京都南座で12月に行われる顔見世興行に出演することになりました。その鑑賞を 含めて12月9日、木造劇場研究会が、関西の研究者や学生も含めて京都の円山公園の一角にある歴史ある和風旅館「吉水」にて開かれました。
旅館「吉水」
研 究会では、日本の伝統芸能の特徴について、音と劇場空間についてなどが話されました。例えば、三味線をビビらせながら弾く音のこと、拍子をずらして間を盗 んで弾いたり叩いたりするほうが格好良いこと、最近は俳優が和服を自分で着られなかったり、日本間が少なくなってきたことによって座れないといったことで 作法も基本から指導する必要があることなど。
夕方、京都南座にて「吉例顔見世興行および中村勘三郎襲名披露」を観劇しました。16時から21時まで5時間の長丁場です。
南座は、昔は桟敷席には椅子が無く芝居小屋のように畳に上に座ってみる形だったそうですが、現在はかなり窮屈ではありますが椅子が設置されています。出し物は江戸の風情そのもので、親しみ深く、長時間にもかかわらず案外楽しんで見ることができました。
芝 居小屋もそうですが、南座は客席がコの字型で、何層にわたり、壁に張り付いていて、賑わいの雰囲気を作っています。清水裕之のいう第3の視軸です。国立 劇場もそうですが、近代劇場の設計の考え方は、舞台と客席の2元的な考え方で設計されています。単なる大きな側壁は、桟敷席のある劇場と比較して、舞台と 客席が切り離された感じになります。馬蹄形のオペラ劇場のように、客席が何層にも積み重なって華やいだ雰囲気は、歌舞伎劇場と似た客席構成のような気がし ました。
翌12月10日は、大江能楽堂で大江定期能を1時から5時まで見ました。大江能楽堂は、能舞台を木造の建物で覆ったもので、外光も入ってくる能劇場です。
この能劇場は、昭和20年8月、戦争中に延焼を防ぐ目的で解体を命ぜられ、8月15日までには能舞台を残して解体し、8月15日いよいよ舞台を解体するときになって、終戦を迎え、幸運にも能舞台は残ったものです。
客 席には椅子は無く、芝居小屋と同じように、畳の上の桝の中に座る形になっています。声は明瞭に力強く、客席のほうへはっきりと伝搬してきていました。舞台 の背中には松が描かれている鏡板があり、また舞台を見て右側、脇側には舞台を覆う建物の壁があり、鏡板と脇の壁からの初期反射音が直接音を補強すること で、明瞭な音が伝搬してきているものと思いました。また床は畳、天井は薄い天井板で出来ており、壁も板ふすまなので、残響感がほとんどありません。能で用 いる笛の、にごった強い衝撃音のような音色は、豊かな残響があるところには合わないような気がします。
この大江能楽堂の作りは、一般の劇場の音響にも参考になるのではないかと思いました。
公 演後に、大江能楽堂の大江又三郎さんに、この能楽堂の説明をしていただきました。その中で、「舞台の下には壺が埋まっていて、その効果は舞台下の空間を広 げ、舞台の足音の響きをよくするためのもの」と説明されていました。私は常々、この舞台の下の壺は舞台の床の響きを吸音して抑えるためのものではないかと 思っており、その話をしましたら、大江さんにはなんと賛同していただけまし た。実験で確かめたわけではないので単なる仮説ですが、いつか実験して確認したいと思います。
実験は、2006年9月に建築学会大会で発表した集合住宅の床の振動実験法で可能であると思います。