3月7日夜、神楽坂近くの矢来能楽堂で、雅楽、能、長唄、新内、日本舞踊の公演「神楽坂の至宝が奏でる日本の伝統芸能絵巻」がありました。
この公演には、神楽坂在住の人間国宝が4名も参加されています。長唄の東音宮田哲男、能楽囃子の亀井忠雄、筝曲の山勢松韻、新内の鶴賀若狭掾です。
神楽坂には、そのほか第一線で活躍されている芸能の担い手がたくさんいらっしゃるそうです。神楽坂の奥深い魅力の元です。
今回の企画のように、古代の雅楽から神楽坂花柳界の芸者衆の舞踊までが一同に舞台に乗るのを見る機会は、めったに無いことだと思います。
能や日本舞踊をそれぞれ別々に見るのではなく、横断的ないし歴史的に縦断的に見ることで、日本の伝統芸能の雰囲気が良く伝わってきました。夕方5時から8時半まで、ずっと座って雰囲気を楽しんでいました。
公演のパンフレットでは、先日、著作である「ドレミを選んだ日本人」を読ませていただいた千葉優子さんが、日本の音楽について説明されています。
日本の音楽・芸能文化は、時代を担った社会的階層の中で生み出され、育まれてきて、時代が変わっても、それぞれの価値を認め、大切に受け継いできたとのこと。雅楽は、5世紀中ごろに中国から伝わったものであるが、平安時代に日本流にアレンジされたものであり、能楽は室町時代に武家社会で大成したもの。箏や三味線などの近世邦楽は、江戸時代の庶民が育んだものであること。しかも江戸時代までは、雅楽は宮廷で、能は武士の間以外では、演じられることは無く、庶民が雅楽や能を見ることは無く、お互いに交流することも無かったとのことです。
日本の音楽の特徴は、そのほとんどに歌や語りがあり、したがって歌を邪魔するような音は避けているということ。特に、持続音を出すリード楽器は避けられてきたそうです。日本人が好むのは、箏や三味線のように爪弾く音の系統だそうです。また、箏の弦を爪でこする「すり爪」、息の音を出す尺八の「ムライキ」、三味線の「サワリ」などの噪音を味わうことが好きであり、また高音を好むといった特徴が書かれていました。それが華やいだ感じを出すのだと思います。持続音という意味では、ヴァイオリンや二胡のように弓で弾く弦楽器は日本では流行らず、能管のような管楽器でも衝撃音のような音で演奏されるのも良くわかります。
神楽坂の芸者衆の日本舞踊が終わって、華やいだ気分で神楽坂を坂下まで歩いたところで、タクシーから華やかな着物姿の人が降りてきました。見ると先ほどまで長唄の三味線を弾いていた人でしたので、ちょっと立ち話をさせて頂きました。神楽坂の人になった気分でした。