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2018/09/27

超重量衝撃音・振動対策

今回は、超重量物の防音・防振対策についてご紹介する。

一般的な生産機械、集合住宅の重量床衝撃音や音楽の騒音・振動などの場合、こちらの記事にご紹介したように、主に対策には防振ゴムを使用する。

しかし、それよりも重い超重量物の場合は、衝撃力に低い周波数を多く含んでおり、一般的に固有振動数10Hz以上を対象の防振ゴムでは性能が足りない。

超重量物とは、例えば金属加工を行う鍛造機やプレス機械、ジムのバーベルの衝撃などがあげられ、対策としては金属ばねを使用することが考えられる。

最近、弊社の近くに金属ばねを扱っている三協社というメーカーがあることを知り、その製品はばね定数などが公開されているために、遮音床などの設計を行いやすい。

大きな衝撃を起こす機械の場合、以下の写真のような金属ばねを用いると固有振動数を数Hzに設定ができ、対策が可能となる。
たとえば固有振動数を3Hzに設定できれば、1自由度の振動系と考えれば、4.2Hz以上の振動に対策効果があると言える。

ただし金属ばねは、そのままでは減衰が少ないため、いつまでも低い固有周波数で振動が継続してしまい不快となる。またサージングという高次の固有振動数も存在するために、固体伝搬音も伝搬しやすい。そこで金属ばねにはダンピング(減衰)が必要となる。本製品の場合には写真に見えるように金属メッシュが内蔵されているが、更にゴムなどで対策することも必要な場合があると思われる。また固有振動数を下げることと、変形を少なくするために、衝撃力の大きさに合わせて、鉄板やコンクリートでつくる付加質量も必要となる。

それらを含めて超重量衝撃音および振動対策設計を行うことが可能である。

三協社の金属ばね

2018/09/18

執筆に参加した本が出版されました

執筆に参加した本『遮音・吸音材料の開発、評価と騒音低減技術 次世代自動車・建築物・生活空間』が7月末に出版されました。
私の担当は最後の「第10章の第3節:大型施設の騒音・振動対策」「第4節:ISO3745に基づく無響室の設計法」です。

内容を以下の目次で示します。総勢45名の音響研究者・技術者による執筆で、広い分野の最先端の音響技術が示されています。
出版社は技術情報協会で、定価は80000円(税抜)です。本は建築関係が主な対象ですが、案外自動車の関係が多く割かれています。最近は自動車の制御に超音波を用いているようですが、これは今後の課題です。レーザーだけでなく超音波による空間の計測技術もできてきています。仕事のたびにこの本を脇に置いて参考にしたく思っています。



目次
第1章:音の伝搬メカニズムとヒトが音を感じるメカニズム
 第1節:音の種類、分類と定義
 第2節:吸音・遮音のメカニズムと構造の分類
 第3節:共鳴現象のメカニズム
 第4節:騒音・振動低減のための技術・材料とその適用法
第2章:人が音を近くするメカニズムと健康への影響
 第1節:聴覚のメカニズムと快・不快の感じ方
 第2節:騒音・低周波音の健康への影響
第3章:吸音材料の開発と材料特性
 第1節:均質化法による多孔質吸音材料の設計
 第2節:マイクロポーラス金属の製造とその吸音特性
 第3節:ナノファイバー系吸音材料の特性
 第4節:バイオマスを利用した吸音材料に関する研究
 第5節:かんな屑とバークによる断熱・吸音材料の開発
 第6節:3Dプリンタで作製された微細穿孔板の吸音特性評価
第4章:遮音材料の開発と材料の特性
 第1節:エッジ効果抑制による遮音壁の開発
 第2節:薄膜を利用した軽量でコンパクトな遮音技術
 第3節:木質構成パネルの遮音および曲げ性能
 第4節:建築用アスファルト系遮音材料の開発とその特性
第5章:制振・防振材料の開発と材料の特性
 第1節:制振工学の考え方とその応用技術へのアプローチ
 第2節:ポリマーを内包するクローズドセル構造金属材料の作製とその制振効果
 第3節:圧電素子を用いた振動制御、騒音制御技術
 第4節:制振LCPの開発とその制振特性
 第5節:制振材「Polaris」の開発とその特性
第6章:車両における振動・騒音の低減化技術と遮音・吸音材料、構造の適用
 第1節:自動車室内の振動不快音発生メカニズムとその制御
 第2節:高速輸送機関や流体機器から発生する空力騒音
 第3節:自動車用吸音材料の内部構造と吸音特性への影響
 第4節:自動車用防振材料、制振材料の開発と利用技術
 第5節:自動車の構造音響連成系の最適設計
 第6節:自動車用制振・吸音材への要求特性と車内音・車外音対策
 第7節:自動車の風騒音の発生メカニズムと低減技術
 第8節:自動車用遮音・防音材料の開発、その軽量化
 第9節:車両における吸音・遮音の設計と振動・騒音低減化
 第10節:気柱共鳴音レゾネータの開発と世代進化
 第11節:電気自動車走行音における「EVらしさ」「受容性」評価
 第12節:電気自動車におけるサウンドデザイン
 第13節:車内騒音伝達機構のモデル化
 第14節:吸音材が配置された自動車車室を模擬した空間の減衰音響解析
 第15節:プラズマアクチュエータを用いた翼後縁騒音の制御
第7章:建築・建造物における吸音・遮音・制振の設計
 第1節:音楽施設の音響設計
 第2節:集合住宅における騒音とその対策
 第3節:学校施設の音環境評価・音響設計法
 第4節:オフィスの音響設計
 第5節:公共空間の音響設計コンセプト
 第6節:格子状メッシュを用いた雨滴による膜衝撃音の低減
 第7節:アクティブ騒音制御技術の住宅換気口への適用
 第8節:建築設備機器の騒音・振動対策
 第9節:能動騒音制御と聴覚マスキングに基づく工場騒音の緩和
第8章:機械・産業機器における騒音対策
 第1節:モータの電磁騒音の発生メカニズム
 第2節:消音器による騒音対策
第9章:音響・音環境、遮音・吸音材料の測定、シミュレーション、評価手法
 第1節:環境騒音における騒音計測と音響環境を配慮する計測手法について
 第2節:音響管計測装置の利用方法とその測定応用技術
 第3節:吸音・遮音性能の測定方法および予測技術
 第4節:騒音、振動の予測計算と測定・分析手法
 第5節:振動レベル計の操作、振動レベルの測定・データ処理の方法
 第6節:材料開発におけるアンサンブル平均による材料の吸音特性のin-situ測定法の適用
 第7節:時間領域差分法による床振動解析
 第8節:光を用いた音場可視化装置
 第9節:室内音響特性の測定法
 第10節:音波伝搬シミュレーションの計算結果可視化手法
 第11節:音空間レンダリング技術の開発 
 第12節:面内面外変位連成系有限要素法による床衝撃音の数値解析手法の開発
第10章:騒音規制、騒音公害とその対策
 第1節:騒音公害の概要―苦情の経年変化と音源別対応策
 第2節:低周波音苦情の実例とその対応
 第3節:大型施設の騒音・振動対策
 第4節:ISO3745に基づく無響室の設計法

2018/09/11

2018年度日本建築学会(東北)大会に参加しました

2018年度の建築学会大会が東北大学(川内北キャンパス)で開催され、9月6日に発表しました。

4日から5日にかけて台風21号が大阪に大きな被害をもたらした後、北海道方面へ抜け、さらに6日の早朝には北海道では胆振地方で震度7の地震が起こり、大きな山崩れが発生、また発電所がブラックアウトし全道で停電が発生するという事態になり、落ち着かない中で仙台に向かいました。自然の脅威を改めて感じています。

発表内容は『川越市鶴川座の音響的復原その2 音響シミュレーションによる音響的復原の試み』と題して行いました。昨年は『川越市鶴川座の音響的復原―その1 3Dレーザースキャンデータの音響シミュレーションの応用』と題して発表いたしましたが、その続編となります。

本報告は、ベルリン工科大学のクレメンス・ビュトナー氏、東京大学生産技術研究所の助教 森下有氏、および弊社の共同研究になりますが、音響シミュレーション技術を補強するために、元東工大特任教授の清水寧氏にも加わっていただきました。
研究の目的は、前回計測した現状の空間の3Dレーザースキャンのデータや『伝統技法研究会著 旧鶴川座保存活用計画調査 報告書 平成21年(2009)3月』などを参考にして、芝居小屋当時の空間を推測して、音響的な空間を復原することが目的です。

音響的復原は音響分野では新しい技術で、ベルリン工科大学のクレメンスさんのいらっしゃる研究室(ヴァインジール教授)の主要なテーマになっています。

また発表原稿の表紙にはRAMSAの西さんが大正時代の鶴川座の雰囲気を描いた建築パースを、承諾を得て使っています。鶴川座は明治26年に川越大火があり、その後仮設で作った川越座を立て直し、明治31年に建設されました。明治32年、川上音二郎一座が演劇史上はじめての海外公演し、初めて女優の貞奴が誕生した時代です。鶴川座からも当時の新しい時代の息吹を感じます。



以下、発表原稿です。