「第30回記念四国こんぴら歌舞伎大芝居」という案内本(発行 松竹株式会社)に 三代目澤村宗之助さんの紹介文がありました。その最後に「歌舞伎座はしゃべった声が舞台に返ってきますけど金丸座は返ってこない。雨戸から抜けるのか。昔の小屋はこうだったんだと体験できるんです。」とあります。
音響技術で言えば、音の返りは一般的には反射音ととらえます。舞台から出した声が、客席後壁に反射して帰ってくる、あるいは返ってこないと考えます。しかし金丸座の後壁は板か土壁ですから音は反射します。先日、粟津演舞場の杮落し公演に行きましたが、舞台から声を「あっ」出したときに、客席に座布団の無い時には、「もあっ」と後に残りますが、座布団を敷いてお客様を迎える準備をしたととたんに、声に返りが無くなったように思いました。粟津演舞場も後の壁は板です。
どうも返りというものは、このことから考えると単純な反射音ではなく、拡散音のことの様な気がします。おそらく、それも声を出してから50msほどの経たときの一連の反射音で構成された拡散音ではないかと想像します。このことに関しては、いつか実験ができればと思います。この「返り」は言葉の出しやすさや演奏のしやすさに関係しており、音響技術の重要な要素です。上述の澤村宗之助さんの「昔の小屋は、、」にも意味のある重要な内容が含まれています。