2012/09/18
日本建築学会大会(東海)に参加してきました
建築学会大会が9月12日から14日まで名古屋大学で開催されました。
私が関係している発表は4論文あり、9月14日の9時台の床衝撃音のセッションで、『高性能遮音二重床の開発その2、および連報のその3』、また午後からは、壁式集合住宅の再生技術に関するオーガナイズドセッションで、『EV設置による既存壁式RC集合住宅の剛性変化』、および『壁式構造集合住宅におけるあと施工アンカー穿孔騒音の伝搬性状』です。
高性能遮音二重床の開発では、4~50年ほど前に建設されたスラブ厚さが現在ほど厚くはないストック再生型集合住宅の床衝撃音対策に用いる工法で、主に低音域の音の改善ができます。原理はヘルムホルツの共鳴効果を使っています。この工法で、スラブに衝撃を加えたときと比較して、L数で10以上の改善が得られ、床衝撃音対策に有効な工法として紹介しました。
ヘルムホルツは1862年に共鳴器の原理を『On the sensations of tone』という本で発表しました。目的は楽器の音の調律で、ちょうど世界の名だたるオーケストラが、例えばウイーンフィル(1842)やベルリンフィル(1882)などが結成された時期に当たります。オーケストラの楽器間の音の高さが異なっては困ります。しかもそのときは、純正律から平均律への移行期間でもあります。音楽の基礎をつくった技術のひとつです。その偉大な技術、しかも古い技術を床衝撃音対策に使わさせていただきました。
『EV設置による既存壁式RC集合住宅の剛性変化』の論文は、やはりストック再生型集合住宅(洋光台団地5階建)にエレベータを設置したが、その際に階段室の壁を一部取り除いている。それにより建物の剛性が変化するかどうかを、EV設置前後で振動解析と常時微動による解析行い、そのうち振動解析を行った高光さんが発表しました。YABでは常時微動による振動測定を行い、EV設置前後の固有振動を比較して、ほとんど変化が見られなかったという内容となっています。設置後の測定は、昨年の3.11の大震災の1週間後に行われ、常時微動だけでなく余震のデータもいくつか記録できました。
『壁式構造集合住宅におけるあと施工アンカー穿孔騒音の伝搬性状』の論文では、清瀬旭が丘団地で、あと施工アンカーの穿孔実験を行い、住棟への騒音の伝搬性状を調べたものです。騒音と振動(固体音)の測定を弊社が担当しました。
この実験も古い集合住宅の再生工事を居住しながら行うために開発された静音型湿式コアドリルと、従来からあるハンマードリルを比較したものです。湿式コアドリルでは、穿孔作業の隣接住戸では55~60dBA、2軒目の住戸では45dBA以下となり、隣戸では多少うるさいが、2軒目からはほとんど生活に支障がない程度になります。これに対してハンマードリルでは、隣接住戸では80~85dBA、2軒目でも65~70dBA、3軒目でも50~55dBAあり、居住しながらの作業は難しい状態で、湿式コアドリルの効果が分かります。以上いずれの4編も 集合住宅の再生技術に関係しています。
また9月13日には研究集会(シンポジウム)があり、『東日本大震災における鉄筋コンクリート建物の被害と分析』、『頻発する天井の落下事故防止に向けて』、等震災に関係するもの、また建物の保存や再生に関するもの、『モダニズム建築の評価』、『利用の時代の歴史保全』、『登録文化財の保存と活用』、等がテーマになっていました。そのいくつかをつまみ食いしながら聞きました。いずれも興味深い話でした。
帰宅して翌朝、3日ぶりに庭に水をまいていたら、ふと蝉の声が聞こえないことに気が付きました。やっと長く暑い夏も終わりそうです。