現代の伝統芸能の殿堂である歌舞伎座の音響を測定することで、これまでの全国の木造芝居小屋の音響データとの比較を行うことができます。そのため、歌舞伎座に調査の依頼を行い、深夜の空き時間を利用して測定させていただくことができました。ご協力いただき、大変感謝いたします。
当日は、神奈川大学寺尾研究室および木造劇場研究会のメンバーとともに測定いたしました。
調査場所は平土間席のみ、ダミーヘッドによるインパルス応答の測定を中心に、残響時間や音圧分布などを測定いたしました。
500Hz帯域の残響時間は1秒強、客席空間の室容積はおおよそ10000m3ですので、室容積と最適残響時間のグラフにプロットすると、木造芝居小屋と同様に、Knudsen and Harrisの講堂に好ましい曲線の近くにあります。
客席空間が大きいにもかかわらず、残響時間がこのように短いのは、歌舞伎座復興記念『歌舞伎座(非売品)』の中に、建築家の吉田五十八が、壁面のかなりの部分を『最新の吸音材料によって音響的効果が考えられており、』としたと書かれており、その結果と思われます。歌舞伎座に内部は、壁に菱形の文様のある壁材が使用されていますが、それが戦後の最新の吸音材料のようです。
現在、歌舞伎座のデータに関しては、インパルス応答と無響室録音の音を畳み込んで音響シミュレーションも行っており、座席の違いで聞こえ方が異なっていることもよく分かってきました。今後、木造芝居小屋の音響特性と比較しながら、邦楽にとって好ましい音響空間を研究していく予定です。
話は逸れますが、吸音材といえば、先日港北にある家具店IKEAに行く機会がありました。売り場の天井のかなりの部分にはグラスウールが貼られ、また内 部の大きなレストランの天井は、格子状の視覚天井の上に、ロックウール吸音材が張られていました。最近各地に続々と作られている大型ショッピングセンター では、ほとんど吸音材が使われていないため、ざわざわと非常に騒々しく疲れますが、IKEAのレストランでは、落ち着いて会話をしながら食事をすることが でき、吸音材の大きな効果が表れていました。