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2023/10/10

富岡製糸場 行啓150周年記念講演会・ピアノコンサート

 2023108日(日)1315分~1630分に富岡製糸場西置繭所多目的ホール(ガラスホール)で行われました。私はこのガラスホールの音響設計にかかわることができて、音響測定の結果を建築学会に発表することができました。

http://yab-onkyo.blogspot.com/2020/09/blog-post.html

音響設計の趣旨は、壁・天井のほぼすべてがガラス、床はフローリングでできているので、ほぼ音の反射性の材料でできている。しかも羊羹のような形の直方体となっており、いろいろ音響的な問題があるので、どのようにしてコンサートや講演や演劇に好ましい状態とするかというのがテーマでした。この音場を拡散音場として残響時間の計算をすると、幸いなことに天井が低いために、人間の吸音力が十分大きく、人が50名在席すれば、コンサートに好ましい状態となり、100名在席すれば講演にも好ましい状態になることがわかりました。問題は、長手方向は壁同士で、音が反射を繰り返すとエコーとなり、音声明瞭度を害することです。そこでこの妻壁の一部を上向きの反射性として、長距離の往復反射をほぼなくすように計画しました。

       写真:ガラスホール、下手側奥に音の反射板の入っているガラリが見える。

        写真:上向きの反射材の入っているガラリ、一部吸気口がある。


     写真:ガラリの部分の奥には、音を上に向けて反射させるための反射板がある。

            写真:中央には演台がある(ちょっと柱にかかっている部分)

写真:コンサート時、ピアノ2台、左奥には下手側のスピーカがある。ただしコンサート時は使用せず。

             写真:上手側のスピーカ(赤で囲む)

最初は富岡市の方が、本公演の富岡製糸場の明治6年(1873に行われた皇后・皇太后の行啓の意図についてお話をされ、次に塚原康子さん(東京藝術大学教授)によって、お二人のピアノ演奏や音楽との関わりについて、講演会がおこなわれました。内容はほぼ2時間にわたり、かなり具体的で、多岐にわたりました。明治天皇が京都から東幸したことからが始まって、ブリュナ夫妻が、西洋料理を供進したこと、奥様がピアノを弾じたことなど、昭憲皇太后が雅楽や箏を習ったこと、フェントンが作曲した君が代を聞いたこと(音として聞くことができた)、さらに能楽も習っています。芝能楽堂が明治14年に開かれたこと、さらにこの芝能楽堂は経営難から明治35年に靖国神社に移築されたことも講演されました。

講演のとき聴衆はほぼ100名、それなりに吸音材?は十分と思われましたが、実はスピーカが二台、部屋の端にそれぞれ置かれ、その間はほぼ25mもあり、そこから拡声された音は一方のスピーカに近いところで聞いた場合には、約25/340m=0.073秒で、別の方のスピーカからは73ms遅れて到達してしまうことになります。直接音から50ms以上遅れて聴こえる音はエコーになりやすいと言われているので、座る場所によっては、かなり遅れて到達してしまうことになり、実際にも音声明瞭度を害していたように感じました。




後半はピアノのコンサートです。演奏者は下山静香さん(桐生市出身)で、写真にあるようにアップライトピアノとプレイエルのグランドピアノの2台で演奏していました。曲の1音目からとてもきれいな澄んだ音で聞こえ人間のみが吸音材ですが、在席数が約100名とほぼ満席で、吸音材として十分なため、ガラス張りのホールとは感じられませんでした。音響設計をした立場からは正直言ってほっとましました。