これは、自動車の制御で距離を計測するため超音波(100kHz程度以下)を用いているようになってきたということを紹介するものでした。超音波は、様々な場面で活用されています。
昨年、私は自分の心臓の断面を、超音波検査の動画で見る機会がありましたが、医療の世界でも広範囲に超高周波音(3MHz~10MHzまたはそれ以上)が使われるようになってきています。心臓だけでなく、様々な臓器をこの超音波検査で見ることができますが、現在新型コロナウイルスで問題となる肺の場合、空洞部があることで現在の試験装置では難しいようです。
自動車の制御では超音波を空間に放射して反射音を得ますが、体の中の場合には、精度よく、より高い周波数で反射音を得る必要があります。
肺には空洞部があるため、おそらく、一般的な医療用の超音波検査機械より低い周波数を使用する必要があると思われます。新型コロナウイルスに感染した肺のCT検査には、雲のような白い影が生じるようです。もしこれを超音波検査によって診断ができるようになればCTよりも安価に多くの検査ができるのではないかと専門外ですが思っています。
騒音制御工学会の機関紙『騒音制御』のVol.44 No.2 2020.4号には、超音波音と環境との関係ですが、「超高周波音の計測評価とその応用」という特集が掲載されていました。超音波の様々な分野への応用の研究が進められているようです。
以下、特集のタイトルです。
1) 解説 可聴域を超える超高周波の生理・心理・行動的効果―ハイパーソニック.エフェクトを中心に― 仁科 エミ 著
2) 解説 可聴域を超えた周波数帯域での音響標準 高橋弘宜 他 著
3) 技術資料 超高周波を豊富に含む自然環境音を用いた情報環境医療 本田 学 著
4) 技術資料 高周波非可聴音を含む音楽が認知症高齢者への受動的音楽療法に及ぼす影響の実地研究 川勝 真喜 他 著
5) 技術資料 高周波ピップ音に対する聴性脳幹反応と心理音響測定 桐生 昭吾 著
※ピップ音とは「一般的なABR測定では、クリック音と呼ばれる広帯域なパルス性の音刺激を用いるので周波数選択性に乏しい。筆者らはある程度周波数選択性のある刺激音(以後ピップ音と呼ぶ)を用いて高周波音に対するABRの測定を行っている。」
6) 技術資料 パラメトリックスピーカの放射音場の特性 土屋健伸 著
7) 技術資料 野外におけるコウモリの超高周波音とその利用戦略 藤岡 慧明 他著
8) 書評 生き物と音の辞典 生物音響学会編
今回の機関紙『騒音制御』の特集は超高周波音(超音波)が耳では聞こえないけれど、脳血流を増大させる効果があり、それらの発見から認知症にも効果がありそうなことが報告されています。
また、音と環境というテーマも最近多く目につくようになりました。
朝日新聞2020年3月2日(月)の朝刊には、『「音」で害虫をだまし討ち』というタイトルで、『科学の扉』の特集記事がありました。要約すると以下のような記事です。
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1) ブドウの害虫ヨコバイの求愛を目的に出す振動(300Hz程度)出して、繁殖を妨害する。イタリアの北部トレンティーノで行われている方法
2) 森林総合研究所の高梨氏の松枯れにかかわるマツノマダラカミキリを天敵のキツツキなどが歩く時の振動をまねて、松の幹を揺らすと産卵が経る。その研究の応用で、トマトにつく害虫オンシツコナジラミの防除にも利用。これも300Hzの振動。
3) 東北学院大学の松尾教授らのグループはイチゴの害虫であるハスモンヨトウと呼ばれるガを超音波で防除する。ガはこうもりの出す超音波が苦手とのこと。
4) 超音波スピーカを作るJRCSは様々な作物向けにスピーカを出荷する予定。
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このJRCSは海洋事業に係る業務を行っている会社で、運搬してくる穀物などに害虫(たとえばアジア型マイマイ蛾)がいる場合にどう防除するかという観点からこの超音波によるシステムを考えたようです。
音や振動の害虫への応用は、騒音・振動問題が発生する可能性はありますが、農薬のように残留しないのはメリットであり、期待したいと思います。
超音波スピーカや発信システムを探すと様々なもの(例えばAVISOFT BIOACOUSTIC)があり、主として、野生動物の防御を目的としたものも多かったと思います。
林の中で笛を吹くと、鳥たちが応答し始めます。音を介して環境とコミュニケーションをとる方法もこれからの新しい技術と思われます。