春になり、小鳥の声がよく聞こえるようになった。緑の多い静かな住宅街にある我が事務所の周りでは、まず目立つのが鶯であるが、身近なスズメやキジバト、ヒヨドリ、シジュウカラなどがにぎやかである。目の前には公園があって、夕方には学校から帰ってきた子供たちの声が聞こえるのも何とも平和な気がする。
先日、雨の日に青葉区寺家町のふるさと村に行ったら、田んぼの横の用水路にアマガエルがケロケロ大きな声で鳴いていて、久しぶりに聞いたアマガエルの声に嬉しくなった。このふるさと村は、横浜市の中で里山をわずかに残している場所で、気分転換によく行く場所である。
トレヴァー・コックス(Trevor Cox)著の「世界の不思議な音」(英文題は「The Sound Book The Science of the Sonic Wonders of the World 」)を読んだ。
「世界で一番静かな場所」という章で、イングランド田園地帯保護協会(CPRE)の調査では、静穏が得られればストレスが軽減することが証明されているとあり、静穏感をもたらす三大要素は、「自然の風景を眺めること」、「鳥の鳴き声を聞くこと」、「星を見ること」だそうだ。
それに続いて、「都市で大事なのは絶対的な音の大きさではなく、相対的な静けさだと。田舎と同様、人為的な音は抑えるべきであるが、完全に聞こえなくする必要はない。自然の音が大きくなれば街の静穏度が高くなると研究で判明しているので、鳥の鳴き声や葉のざわめき、水の流れる音などを積極的に取り入れるべきである」とある。
交通騒音や工場騒音などの騒音は低減する必要があるが、そういった喧噪のなかでも、自然の音が聞こえてくることが重要な役割があるとわかる。また、都市の人工的な音の中でも、お寺の鐘の音などは一つの文化的なものの象徴として存在していて、心地よい音と感じるものである。上記の本の中でも、都市の象徴的な音「サウンドマーク」(例えばロンドンのビッグベンの鐘の音)が人にもたらす影響について書かれているが、それはまた別の機会に書こうと思う。
2017/05/19
2017/05/17
Restoration of the acoustic characteristics of Tsurukawa Playhouse in Kawagoe: (I) Application of 3D laser scan data to acoustic simulation
------------------
AIJ 2017 Title
RESTORATION OF THE ACOUSTIC CHARACTERISTICS OF TSURUKAWA PLAYHOUSE IN KAWAGOE: (I) APPLICATION OF 3D LASER SCAN DATA TO ACOUSTIC SIMULATION
Authors:
Antonio Sanchez-Parejo (YAB Corporation)
Yu Morishita ( Institute of Industrial Science, The University of Tokyo )
Mitsuru Yabushita (YAB Corporation)
Clemens Büttner (Audio Communication Group, Institute of Technology Berlin)
Tsurukawa playhouse is located in Kawagoe city in the central Kanto region of Japan. The wooden building built in 1907 is presumed to be the only playhouse remaining in the metropolitan area. The wooden wheels embedded in the circular stage still remain, as well as the brick passage under the “hanamichi” (the walkway that extends from the stage to the audience seats) that connects the “naraku” (area under the stage) with the “toyaguchi” (the entrance connected at the back of the audience seats, used for actors). During Taisho era, the playhouse was used to entertain with the screening of photographs after World War I and later, and until 2000, it became a movie theatre.
The necessity of its restoration and reuse, has provided us with the opportunity to apply for the first time measuring methods with 3D laser scanning for the study of the acoustic characteristics of a historical space such as this one.
Exterior view of Tsurukawa playhouse in Taisho era |
3D laser scanner |
The purpose of 3D laser scanning is to create point clouds (three dimensional positions) of geometric spaces. For most situations, a single scan will not produce a complete model of the building. For Tsurukawa playhouse multiple scans, as shown in the picture below, were required to obtain information about all surfaces of the building.
3D laser scan and acoustic measurement position |
3D point cloud data |
3D scan point cloud sections of Tsurukawa playhouse |
AutoCAD geometry from section slices |
Geometry imported in CATT Acoustic software for acoustic simulation. |
Results obtained from acoustic simulations were compared with current acoustic characteristics. Both impulse response of measurements and CATT Acoustic simulation results had similar waveforms. Showing similar shape, RASTI values between 0.53 to 0.60 (Fair) obtained in CATT simulation were lower than the ones obtained in actual measurements ranging from 0.58 to 0.70 (Fair /Good), background noise settings on the simulation could have affected the achievement of the values for the simulation. The room behaved as a non-mixing geometry/shape in the simulation (standing waves due to parallel walls reflection), so the reverberation time became a bit longer for CATT simulation (1.54s) than Eyring (CATT simulation) and actual measurements results, in both cases, was 0.9s.
Impulse responses. Actual measurement, CATT-Acoustic simulation
|
RASTI |
Time Trace video simulation
Special thanks to Kawagoe Kura No Kai and Wooden Playhouses Study Group.
測定に際し、川越蔵の会および木造劇場研究会の皆様にご協力をいただきました。記して感謝いたします。
2017/05/16
固体伝搬音の音源探査 -主に集合住宅の場合-
前回は工場の機械など大型機械の騒音対策について記述した。今回は、集合住宅等の騒音調査・対策について少しご紹介したい。
【音源が不明な場合】
集合住宅等の騒音対策の場合、音源が不明で、その探査から行うという依頼も多い。音源が目の前にある場合は対策も立てやすい(音源が複数ある場合も同様である)が、音源の位置が不明で、さらに固体伝搬音の場合には、部屋の中で聞こえる騒音は部屋全体の壁から聞こえてくるために、建物の中の何が音源であるのか見つけることが難しくなる。
空気伝搬音であれば、音源が見えない場所にあっても、先行音効果(Cremer)の影響があるために音の方向性があり、また距離によって減衰があるが、固体伝搬音の場合には伝搬速度も固体中では早く、建物全体に伝搬して、しかも距離減衰が小さく、部屋全体から聞こえるために、音の方向感が無くなってしまう。
【騒音が定常音の場合】
さらに固体伝搬音の場合でも、騒音が定常音の場合には、常時その騒音が存在しているため、測定をして周波数分析を行えばかなり音源が特定できる。
例えば、電源トランスなどでは通常50Hzや100Hzが卓越するために、騒音計で計測するだけで音源の推測がつく。また給水音などはポンプの起動する音が変動するためわかりやすい。
【騒音が衝撃音の場合】
問題は音源がわからない場合の「ドンドン」とか「コツン」「パキッ」などの衝撃音である。いつ発生するかわかりにくく、発生時間もバラバラであれば場合によって測定も長時間、数日に渡って行う。長時間待機していても鳴らない場合もあり、音源探査が難しい。
【騒音発生時間からの推測】
衝撃音で、音源がわからない場合、まずは発生時刻とその音の様子などを、しばらくメモをとって記録する(または住民の方に記録していただく)ことを行う。
一見バラバラの時間に発生するように思えても、たとえばサッシの熱ひずみによる衝撃音や天井の軽鉄下地から出る衝撃音などは、太陽が当たり始めた頃や、また日が沈む頃に再び発生することが多い。また、夕方から夜にかけて発生する騒音は、お風呂の排水管の熱膨張などのこともある。
天井下地の熱ひずみで発生する音の場合には、上階の床衝撃音と間違えやすいため近隣トラブルなどの問題となりやすい。音源の予測がまず第一である。
【振動を測定する】
騒音計で方向性がわからない場合、方向性の予測に振動を計測することもある。加速度振動ピックアップなどを室内数か所に設置、同時に計測して、加速度の振幅や到達時間などを見て音源探査をする。
【集合住宅等の固体伝搬音の対策】
固体伝搬音の場合も、発生源を見つけられれば、簡単に対策ができる場合もある。高層階の手すりなどの風切り音は、手すりの形状を変更する必要がある場合がある。ファン類、電源トランスなど、設備から発生する固体伝搬音は前回のブログで述べた防振基礎でほとんど解決する。
対策が困難なものもある。上階の床衝撃音(子供の走り回る音やゴルフの練習)などは人為的なため、解決には住民同士の関係性なども大きな要素となる。床衝撃音もなかなか対策が困難な固体伝搬音である。
その他異音の原因であったもの
【音源が不明な場合】
集合住宅等の騒音対策の場合、音源が不明で、その探査から行うという依頼も多い。音源が目の前にある場合は対策も立てやすい(音源が複数ある場合も同様である)が、音源の位置が不明で、さらに固体伝搬音の場合には、部屋の中で聞こえる騒音は部屋全体の壁から聞こえてくるために、建物の中の何が音源であるのか見つけることが難しくなる。
空気伝搬音であれば、音源が見えない場所にあっても、先行音効果(Cremer)の影響があるために音の方向性があり、また距離によって減衰があるが、固体伝搬音の場合には伝搬速度も固体中では早く、建物全体に伝搬して、しかも距離減衰が小さく、部屋全体から聞こえるために、音の方向感が無くなってしまう。
【騒音が定常音の場合】
さらに固体伝搬音の場合でも、騒音が定常音の場合には、常時その騒音が存在しているため、測定をして周波数分析を行えばかなり音源が特定できる。
例えば、電源トランスなどでは通常50Hzや100Hzが卓越するために、騒音計で計測するだけで音源の推測がつく。また給水音などはポンプの起動する音が変動するためわかりやすい。
【騒音が衝撃音の場合】
問題は音源がわからない場合の「ドンドン」とか「コツン」「パキッ」などの衝撃音である。いつ発生するかわかりにくく、発生時間もバラバラであれば場合によって測定も長時間、数日に渡って行う。長時間待機していても鳴らない場合もあり、音源探査が難しい。
【騒音発生時間からの推測】
衝撃音で、音源がわからない場合、まずは発生時刻とその音の様子などを、しばらくメモをとって記録する(または住民の方に記録していただく)ことを行う。
一見バラバラの時間に発生するように思えても、たとえばサッシの熱ひずみによる衝撃音や天井の軽鉄下地から出る衝撃音などは、太陽が当たり始めた頃や、また日が沈む頃に再び発生することが多い。また、夕方から夜にかけて発生する騒音は、お風呂の排水管の熱膨張などのこともある。
天井下地の熱ひずみで発生する音の場合には、上階の床衝撃音と間違えやすいため近隣トラブルなどの問題となりやすい。音源の予測がまず第一である。
【振動を測定する】
騒音計で方向性がわからない場合、方向性の予測に振動を計測することもある。加速度振動ピックアップなどを室内数か所に設置、同時に計測して、加速度の振幅や到達時間などを見て音源探査をする。
【集合住宅等の固体伝搬音の対策】
固体伝搬音の場合も、発生源を見つけられれば、簡単に対策ができる場合もある。高層階の手すりなどの風切り音は、手すりの形状を変更する必要がある場合がある。ファン類、電源トランスなど、設備から発生する固体伝搬音は前回のブログで述べた防振基礎でほとんど解決する。
対策が困難なものもある。上階の床衝撃音(子供の走り回る音やゴルフの練習)などは人為的なため、解決には住民同士の関係性なども大きな要素となる。床衝撃音もなかなか対策が困難な固体伝搬音である。
その他異音の原因であったもの
- 高層住宅のサッシは風圧力に耐えるためにアルミと鋼材を組み合わせたフレームを使うことが多いが、熱膨張率の違いで、温度ひずみが生じて異音を出すことがある。
- 特にカーテンウオールでは、スラブに固定するファスナーの形状で、ひずみを生じて異音が発生する場合もある。
- 屋上の携帯電話のアンテナの冷却ファンの振動が、防振の不良で下階の部屋に伝搬していたことがある。
2017/05/10
防振板ゴムによる固体伝搬音対策の設計
弊社では、工場や音楽スタジオの騒音対策などにおいて、防振ゴムでの固体伝搬音対策を得意としています。施工の際の注意点、施工事例も含め、まとめてみました。
【大型のファンやエンジンなどの騒音対策について】
工場などにある大型のファンやエンジンなどの騒音対策と言えば、一般的には騒音源を壁などで囲って騒音を遮断することを考えるが、それだけでは駄目な場合がある。なぜなら、騒音の伝搬には主に2つの方法があり、空気伝搬音と固体伝搬音であるが、その固体伝搬音の寄与が大きい場合には壁を作ってもほとんど効果がないためである。
【空気伝搬音と固体伝搬音】
空気伝搬音とは、文字通り空気を振動させて伝搬する音である。空気の振動が壁などを振動させ減衰しながら通過し、さらに空気を振動させて音として聞こえるものも含める。この空気伝搬音に対する対策は、主に壁などを設置することである。高速道路の様に防音塀等もこれである。
固体伝搬音は、機械の振動などが床スラブなどの躯体を直接加振し、その振動が躯体を通って建物中に伝搬し、それぞれの場所で、建築部位が空気を振動させ放射するものである。固体伝搬音の特徴は、振動が建物中をグルグルと回り、地盤以外にはエネルギーが逃げて減衰するところが少ないことである。
騒音の伝搬経路として他には、液体を伝搬する経路もある。これは海や川の生物が体感する音である。また宇宙へは音は伝搬しない。媒質が存在しないからである。
【固体伝搬音の騒音対策】
集合住宅での飛び跳ね(床衝撃音)などの固体伝搬音対策の場合は、コンクリートスラブを厚くして振動をしにくくする方法をとることが多い。40~50年前の集合住宅はスラブ厚が薄く、120mm程度であったが、現在は床衝撃音対策のために、スラブ厚が厚くなり、ボイドスラブなど300mm近いものがある。この、「スラブを厚くする方法(インピーダンスを向上させる方法)」で、効果はスラブが倍の厚みになると約10dB小さくなる。集合住宅では、この方法が一般的になっている。ただしその上に設置する二重床はその性能を低減してしまうことが多く、まだ開発途上のテーマでもある。
対策が難しいものと言えば、例えば工場の機械室の外壁が振動してスピーカーのように騒音が放射され、近隣住民などから騒音クレームが発生するような場合である。この場合、外壁の内側にさらに壁を設けてもほとんど効果は見られないことがある。それは機械の振動が直に建物の躯体を振動させ(固体伝搬音)、外壁から騒音が放射しているためであり、内壁の設置では伝搬経路が遮断できていないためである。
【大型機械の防振基礎】
工場の大型機械の固体伝搬音対策として一般的に行われているのが、防振基礎を作り、上に機械を設置して、機械の振動を躯体に伝搬することを遮断する方法である。防振基礎のばね材は、防振ゴムが一般的であるが、その他に金属ばねや空気ばねなどがある。
【防振基礎の固有振動数の設定】
防振ゴムで機械等を支持した防振基礎は、防振ゴムの動的ばね定数と、その上の機械等の荷重により決まる固有振動数を持つ。ただし、ある周波数(固有振動数の√2倍)以上では振動が低減するが、固有振動数の周波数では振動は増幅し、加振力も増幅してしまう。そのため、その固有振動数を、防振ゴムがばねとして機能する限界まで低い周波数に設定することが課題となる。
人間の音の可聴周波数は20Hz程度が最低周波数と言われており、固有振動数を、それを下回る15Hz以下に設定できれば、20Hz程度以上の騒音を低減できるため、そこを目標とする。
【振動伝達率の予測】
防振ゴムで支持した防振基礎を単純化して考えると、ばねの上に錘のある1自由度系の振動の場合には、以下の(1式)の様に振動伝達率を表すことができる。この式に固有振動数f0=15Hzを代入し、振動伝達率を求めるとf=√2f0=21Hzのとき、τ=1となり、それ以上の周波数で振動が低減し始める。例えば50Hzではτ=0.1となり、対数で表すと20dBの低減が予測でき、さらにそれ以上の周波数では0.1を下回っていく。インピーダンスの向上(スラブ厚を厚くすること)で得られる効果は10dB程度であるが、防振基礎ではそれ以上の20dB程度の効果が期待できる。
ただし周波数が大きくなればなるほど、防振ゴムによる振動伝達率のグラフの様に振動伝達率の値は小さくなるが、基礎のモードの影響やロッキングなどの、また支持しているスラブなどの固有振動数のために、効果は20dB前後が限度と考えていた方が安全である。
注意点1: 防振基礎の固有振動数と機械の回転数が重なる場合
機械の回転数(加振周波数)が、防振基礎の固有振動数前後にある場合などは、振動が増幅してしまい、機械にもスラブにも影響が大いという問題が起こる。この場合、周波数をずらす必要がある。できれば、機械の加振力周波数は、固有振動数の√2以上である必要がある。
注意点2: 加振力の大きな機械の場合
防振基礎には、防振架台による方法と、さらに架台に付加質量を設定して、機械の振動を低減する方法もある。加振力の大きな機械の、防振基礎を低い固有振動数に設定しても、防振ゴムが柔らかいために機械自体が大きく振動をしてしまう場合がある。この場合には架台にコンクリートなどで質量を付加して、その分支持する防振ゴムの数を増やし、機械側の振動を抑えることも行われる。
【音楽スタジオなどへの応用】
機械の基礎等に使われる以外に、音楽スタジオなどでも防振基礎は必要とされ、部屋全体を防振ゴムに支持して構築する。この場合には、防振構造と一般の構造では、同様の仕様でも10dBほど遮音性能が向上する。
【防振ゴムの選択】
弊社では四角い防振ゴムをよく使っている。これはコストが安価であり施工がしやすいためであるが、ホームセンターで入手できるようなものではなく、専門のメーカーにより防振ゴムとして製造されたもので、しかも動的ばね定数がはっきりしていることが条件である。
【施工事例写真】
【大型のファンやエンジンなどの騒音対策について】
工場などにある大型のファンやエンジンなどの騒音対策と言えば、一般的には騒音源を壁などで囲って騒音を遮断することを考えるが、それだけでは駄目な場合がある。なぜなら、騒音の伝搬には主に2つの方法があり、空気伝搬音と固体伝搬音であるが、その固体伝搬音の寄与が大きい場合には壁を作ってもほとんど効果がないためである。
【空気伝搬音と固体伝搬音】
空気伝搬音とは、文字通り空気を振動させて伝搬する音である。空気の振動が壁などを振動させ減衰しながら通過し、さらに空気を振動させて音として聞こえるものも含める。この空気伝搬音に対する対策は、主に壁などを設置することである。高速道路の様に防音塀等もこれである。
固体伝搬音は、機械の振動などが床スラブなどの躯体を直接加振し、その振動が躯体を通って建物中に伝搬し、それぞれの場所で、建築部位が空気を振動させ放射するものである。固体伝搬音の特徴は、振動が建物中をグルグルと回り、地盤以外にはエネルギーが逃げて減衰するところが少ないことである。
騒音の伝搬経路として他には、液体を伝搬する経路もある。これは海や川の生物が体感する音である。また宇宙へは音は伝搬しない。媒質が存在しないからである。
【固体伝搬音の騒音対策】
集合住宅での飛び跳ね(床衝撃音)などの固体伝搬音対策の場合は、コンクリートスラブを厚くして振動をしにくくする方法をとることが多い。40~50年前の集合住宅はスラブ厚が薄く、120mm程度であったが、現在は床衝撃音対策のために、スラブ厚が厚くなり、ボイドスラブなど300mm近いものがある。この、「スラブを厚くする方法(インピーダンスを向上させる方法)」で、効果はスラブが倍の厚みになると約10dB小さくなる。集合住宅では、この方法が一般的になっている。ただしその上に設置する二重床はその性能を低減してしまうことが多く、まだ開発途上のテーマでもある。
対策が難しいものと言えば、例えば工場の機械室の外壁が振動してスピーカーのように騒音が放射され、近隣住民などから騒音クレームが発生するような場合である。この場合、外壁の内側にさらに壁を設けてもほとんど効果は見られないことがある。それは機械の振動が直に建物の躯体を振動させ(固体伝搬音)、外壁から騒音が放射しているためであり、内壁の設置では伝搬経路が遮断できていないためである。
【大型機械の防振基礎】
工場の大型機械の固体伝搬音対策として一般的に行われているのが、防振基礎を作り、上に機械を設置して、機械の振動を躯体に伝搬することを遮断する方法である。防振基礎のばね材は、防振ゴムが一般的であるが、その他に金属ばねや空気ばねなどがある。
【防振基礎の固有振動数の設定】
防振ゴムで機械等を支持した防振基礎は、防振ゴムの動的ばね定数と、その上の機械等の荷重により決まる固有振動数を持つ。ただし、ある周波数(固有振動数の√2倍)以上では振動が低減するが、固有振動数の周波数では振動は増幅し、加振力も増幅してしまう。そのため、その固有振動数を、防振ゴムがばねとして機能する限界まで低い周波数に設定することが課題となる。
人間の音の可聴周波数は20Hz程度が最低周波数と言われており、固有振動数を、それを下回る15Hz以下に設定できれば、20Hz程度以上の騒音を低減できるため、そこを目標とする。
【振動伝達率の予測】
防振ゴムで支持した防振基礎を単純化して考えると、ばねの上に錘のある1自由度系の振動の場合には、以下の(1式)の様に振動伝達率を表すことができる。この式に固有振動数f0=15Hzを代入し、振動伝達率を求めるとf=√2f0=21Hzのとき、τ=1となり、それ以上の周波数で振動が低減し始める。例えば50Hzではτ=0.1となり、対数で表すと20dBの低減が予測でき、さらにそれ以上の周波数では0.1を下回っていく。インピーダンスの向上(スラブ厚を厚くすること)で得られる効果は10dB程度であるが、防振基礎ではそれ以上の20dB程度の効果が期待できる。
ただし周波数が大きくなればなるほど、防振ゴムによる振動伝達率のグラフの様に振動伝達率の値は小さくなるが、基礎のモードの影響やロッキングなどの、また支持しているスラブなどの固有振動数のために、効果は20dB前後が限度と考えていた方が安全である。
注意点1: 防振基礎の固有振動数と機械の回転数が重なる場合
機械の回転数(加振周波数)が、防振基礎の固有振動数前後にある場合などは、振動が増幅してしまい、機械にもスラブにも影響が大いという問題が起こる。この場合、周波数をずらす必要がある。できれば、機械の加振力周波数は、固有振動数の√2以上である必要がある。
注意点2: 加振力の大きな機械の場合
防振基礎には、防振架台による方法と、さらに架台に付加質量を設定して、機械の振動を低減する方法もある。加振力の大きな機械の、防振基礎を低い固有振動数に設定しても、防振ゴムが柔らかいために機械自体が大きく振動をしてしまう場合がある。この場合には架台にコンクリートなどで質量を付加して、その分支持する防振ゴムの数を増やし、機械側の振動を抑えることも行われる。
【音楽スタジオなどへの応用】
機械の基礎等に使われる以外に、音楽スタジオなどでも防振基礎は必要とされ、部屋全体を防振ゴムに支持して構築する。この場合には、防振構造と一般の構造では、同様の仕様でも10dBほど遮音性能が向上する。
【防振ゴムの選択】
弊社では四角い防振ゴムをよく使っている。これはコストが安価であり施工がしやすいためであるが、ホームセンターで入手できるようなものではなく、専門のメーカーにより防振ゴムとして製造されたもので、しかも動的ばね定数がはっきりしていることが条件である。
【施工事例写真】
F楽器スタジオ
↓
F楽器スタジオ竣工後
映画館
↓
映画館竣工後
T録音スタジオ
↓
T録音スタジオ施工後
公共ホール
↓
公共ホール竣工後
太鼓スタジオ
↓
太鼓スタジオ竣工後