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2025/02/15

建築音響の交流の歴史その12 残響

 建築・環境音響学 前川純一著 のp.13には、『1.7 残響 室内の音源から音を出すと、図110(※省略)のようにある程度の時間成長して定常に達する。その後音源を止めても、音はその瞬間になくならずしだいに減衰していって聞こえなくなる。このように音源が停止した後に室内に音が残る現象を残響(reverberation)という。』『残響を示す言葉に残響時間(reverberation time)を用いる。これは室内の平均エネルギー密度が定常の値から、60B減衰するのに要する時間と規定されている。この現象をW.C.Sabine1900年に発表して以来、室内の音響的性状すなわち音の環境を表すのに、最も重要な指標として常に用いられてた。』 p.14 『Sabineは多くの実験結果から、残響時間Tは室の容積V(m)が大きいほど長くなり、吸音する材料や物体が多くなるほど短くなることを見出し、T=K V/A() ここで比例定数K=0.16、Aは吸音の量を表すもので、空室の場合は室内表面積S(m)、平均吸音率α(m)とすれば A=Sα(m2)、これを吸音力と呼ぶ。』

このp.50には『33残響時間  A.拡散音場の仮定  幾何音響学においては室内の音場は、完全な拡散音場であると仮定する。これは(1)音響エネルギーは室内全体に均一に分布しており、(2)どの点においても音の進行方向はあらゆる方向に一様である、という仮定である。』 p.52 『Eyringの残響式 上記Sabineの残響式は吸音力の小さな残響時間の長い室(liveroom)ではよく実験値に一致するが、吸音力の大きい残響時間の短い室(dead room)では実際より大きな値となる。』『そこでC.F.Eyringはこの欠点のない次に式を導いた。T=KV/-loge(1-A) p.53『c.空気吸収の影響を加えた残響式 、、、、空気の吸音を考慮した残響式は、、、、T=KV/(-loge(1-α)+4mV)となる。これをEyring/Knudsenの残響式という。空気吸音による減衰率mは図310(※省略)のように温度と湿度に関係するが1000Hz以下では非常に小さいので無視してよい。』

と言うことで現在ではこのEring・Knudsenの残響式を使うことが多い。

コンサートホールなどでは、直方体に形状を作ることはほとんど無いので、実際上は拡散音場の状態でもこの計算式は、問題は無いと前川先生は書いているが、多くの教室などは直方体に近い形状となっている。多くの横浜の地区センターの音楽室も矩形である。会議室も多くが反射性の材料でできていて、矩形である。

集合住宅の1室もほぼ矩形である。しかも壁・天井はコンクリートの上にビニルクロス、床はフローリングが多い。部屋周辺はかなり音の反射性の材料でできている。したがって話声とかテレビの音などが聞きにくい。福岡伸一著の『フェルメール 隠れた次元』のp.24に『窓辺でリュートを弾く女』、p.25に『窓辺で水差しを持つ女』がオランダの画家 フェルメールにより描かれている。双方とも1654年とも書かれている。ともに光と作図法に注目しているが、音響技術者としては、石造りの部屋に、吸音材としての絨毯を壁に掛けたり、テーブルに掛けたりしているように思える。絨毯などの吸音材を壁に掛けることは現在でもいい考えかもしれない。


写真:福岡伸一著の『フェルメール 隠れた次元』のp.24に『窓辺でリュートを弾く女』、p.25に『窓辺で水差しを持つ女』の引用

トルコのイスタンブールにブルーモスクがあるが、中に入ると大空間の中に、床は絨毯が敷かれていて、さらにその下をめくると、板が敷かれている。これも多分絨毯は座って礼拝をするためもあると思われるが、聖職者の声がよく通るように絨毯によって吸音しているようにも思う。下地の板は低音域の吸音に役にたっているようにも思う。しかも礼拝堂は大空間であるが、人が居る床に絨毯があり、音声明瞭性に大きく貢献できている。

                写真:イスタンブールのブルーモスクの内部


私が音響設計にかかわった富岡製糸場西置繭所のガラスホールも矩形である。しかもガラスでできており、内部から西置繭所の内壁及び天井が見れるとともに、このフレームで耐震補強もしている。矩形の長辺の端部は、エコーやフラッターエコーの影響が大きく、部屋のレタンガラリを設けるとともに、音を拡散する工夫をしている。その他の辺は距離が小さいために影響が少ない。吸音材は、天井が低く、容積が狭いために、入室している人がある程度の人数(100名程度)になるとクラシック音楽にも十分な吸音がえられる。講演・コンサートの結果はほぼ目標通りの結果が得られている。

      写真:富岡製糸場西置繭所のガラスホールでのコンサート時


ノートルダム寺院の残響時間のデータは、清水寧さんから紹介された『Sarabeth S. Mullins  Brian F. G. Katz ソルボンヌ大学の博士論文、The Past Has Ears at Nortre-Dame Cathedral: An Interdisciplinary Project in Digital Archaeoacoustics ノートルダム大聖堂の過去は耳を持っている:デジタル考古音響学の学際的プロジェクト』の中から引用したもの。

この論文によれば、『特に音楽家レオナン(11601200年活動、)とその後継者ペロタン(11801220年活動)と関連が深い。ペロタンはレオナンの音楽を4声のポリフォニック編曲に発展させた。、、、教会のミサや断続的な祈祷ではシンプルな聖歌が毎日演奏されていたが、パリのポリフォニーの演奏は教会暦の重要な祝祭日と関連付けられており、その日にはノートルダムの聖歌隊はベルベットやタペストリー、その他の音響的に重要な織物で豪華に飾られていた(Wright1989b)。ノートルダムは作曲家と建築物の関係が知られている唯一の場所ではありませんが、この場所での急速な建設のペースと音楽様式の急速な発展は示唆に富んでいます。大聖堂の占有とレオナンとペロタンの活動期間の時間的相関を考えると、大聖堂と音楽家の関係がノートルダム楽派の発展に影響を与えたのではないかと考えられます。最近まで、音楽学者や歴史家はそのような関係について推測することしかできませんでした。大聖堂のその後の建設により、12世紀と13世紀の音響特性が完全に変化したためです。』 12世紀のノートルダム寺院は、重要な織物で豪華に飾り立てられていたので、残響が現在より短い。このことによって賛美歌は12世紀後半ポリフォニーの音楽に変化させたという。これは和音を重視するクラシック音楽に大きな影響を与えたように感じる。

 またギリシャ劇場は、どの場所か正確には分からないが、清水寧さんから紹介された吉田さんの卒業論文から引用したものである。Kalliopi Chourmouziadou Jian Kangがギリシャ劇場のシミュレーションと実測をおこなった結果とのこと。この論文の参考文献 [16]によれば、Early Classicから徐々に時代が下るにつれ、劇場の残響時間が長くなっていることがわかる。これは多分スケーネや座る椅子の上部のでっぱりなどが影響しているように思う。またローマ時代の劇場についても空席では1.7秒程度であるが、満席では1.0秒程度になり、人の吸音力が大きく影響しているようだ。

              図:吉田さんの卒業論文(2024.12)から引用

 この参考文献 [16]を読んでみると、Kalliopi Chourmouziadou and Jian Kang.著『Acoustic evolution of ancient Greek and roman theatres. Applied Acoustics, 』の中で、ギリシャ劇場のうち、『Minoan Theatreは、椅子は木製である。Pre-Aeschylean劇場では台形であり、両方ともかなり開放的である。Minoa 劇場は長方形の形状で複数の鏡面反射とフラッターエコーのためばらつきが発生する。Pre-Aeschylean 劇場では台形のため、大幅に残響時間が減少する。』 さらにギリシャ劇場の『ヘレニズム時代の劇場と比較すると、ローマ劇場の舞台の後ろの壁は高くなっており、観客席の高さと同じになっている [36]。これにより、より閉鎖的な空間が生まれ、反対の表面間で多重反射が可能になる一方、境界散乱により比較的均一な残響場が作られる。』『このような残響時間は、屋内空間での同じ値と同等であるとは認識されない可能性がある。』


表 芝居小屋、ウィーン楽友協会ホールを含む残響時間比較(空席)、ただしギリシャ劇場はEarly ClassicRomanを上記表より抜き書きした。

中心周波数(Hz

 

125

250

500

1k

2k

4k

杉田劇場※

 

1.42

1.37

1.42

1.44

1.42

1.30

富岡製糸場ガラスホール※

 

1.66

2.15

2.21

2.06

2.04

1.89

歌舞伎座※

 

1.37

1.15

1.05

1.10

1.03

0.92

ボストンシンフォニー(空席)

 

2.18

2.3

2.32

2.69

2.78

2.42

ガルニエオペラ座(空席)

 

1.84

1.40

1.26

1.18

1.14

1.02

久良岐能舞台※

 

0.66

0.69

0.79

0.79

0.80

0.81

嘉穂劇場※

 

1.12

1.15

1.01

1.01

1.04

0.99

ウィーン楽友協会ホール(空席)

 

2.97

3.03

3.06

3.05

2.67

2.10

金丸座※

 

1.08

1.00

0.91

0.86

0.78

0.72

内子座※

 

0.84

0.86

0.97

0.99

0.95

0.90

サントリーホール(空席)

 

2.40

2.60

2.60

2.60

2.60

2.29

ふね劇場※

 

0.81

0.87

0.77

0.61

0.59

0.56

つくば古民家※

 

0.32

0.40

0.42

0.44

0.48

0.52

ノートルダム寺院

 

9.90

9.60

7.90

6.60

5.10

3.20

ノートルダム寺院ゴシック前

 

5.80

6.00

5.50

4.80

3.90

2.90

ギリシャ劇場(空席ローマ時代)

 

1.4

1.5

2

1.8

1.9

1.8

ギリシャ劇場(空席初期古典時代)

 

0.6

0.5

0.5

0.6

0.6

0.3

法隆寺等

 

 

 

 

 

 

 

 以下 残響時間のグラフにはEarly ClassicRomanを記す。また芝居小屋などの空席の計測結果やそのほかのデータを併せて記している。

この表および以下に示す残響時間のグラフから比較すると、500Hz帯域で考えれば、最も残響時間が長いのはノートルダム寺院で7.9秒、ノートルダム寺院のゴシック以前では5.9秒で、これに追ってゴシック以前に音楽に影響をしたものと思われる。次に長いのはウィーン楽友協会ホールで3.06秒、サントリーホールが2.60秒、ボストンシンフォニーホールが2.32秒、富岡製糸場のガラスのホールが2.21秒、このホールは人間が入場して、はじめて人間が吸音材としても効果が出てくる。この次に現れるのは、ローマ時代にギリシャ劇場で、後壁・側壁を高くしたり、椅子の上部にでっぱりを付けたりして、残響時間を延ばしている。ここまでは残響を長くしたい傾向がある。次に多目的ホールの杉田劇場は、音響反射板を設置した状態で、クラシックコンサートに好ましい状態であるが、1.42秒、ガルニエオペラが1.26秒、歌舞伎座が1.05秒、嘉穂劇場が1.01秒、内子座が0.97秒、金丸座が0.91秒、久良岐能舞台が0.79秒、ふね劇場が0.77秒、初期古典時代のギリシャ劇場は0.5秒、つくば古民家は0.40秒となっている。嘉穂劇場、金丸座、内子座は芝居小屋で、歌舞伎や人形浄瑠璃が主に演じられるが、伴奏で三味線や太鼓や笛などが演奏される。ふね劇場は、横浜ボートシアターが所有する鋼鉄製の艀の劇場である。つくば古民家は、測定データは現状の和室であるが、この部屋を将来、板襖に換え、床を板に換えたりして、クラシック音楽にも好ましいような状態に可変している。だんだん残響時間が短くなるにしたがい、音楽から主に演劇に変化してきている。ただし ふね劇場はこのデータのときには側壁は布で覆われているが、その後、その布を取り除いて、より残響を長くしている。この演劇は、公演の半分は音楽を用いているためとも考えられる。


    ※まだ残念ながら表中にある法隆寺などお寺や神社などの残響時間のデータは

     見つからず、比較できていない。

2025/02/11

ジュニア・フィルハーモニック・オーケストラ 第59回定期演奏会

 日時:202529日(日) 午後2時開演

場所:サントリーホール ほぼ満席

指揮 キンボー・イシイ

演奏:ジュニア・フィルハーモニック・オーケストラ

曲目:第一部 リヒャルト・シュトラウス /13管楽器のためのセレナード、

リスト/ 交響詩「レ・プレリュード」

第二部 フランク/ 交響曲ニ短調

リヒャルト・シュトラウスの13管楽器のためのセレナードで、R・シュトラウスが18歳の時に書き上げたとパンフレットに書いてある。『R・シュトラウスが残した唯一の独立した器楽用セレナードであるこの曲は、それぞれ2本ずつのフルート、オーボエ、クラリネット、ファゴットと1本のコントラ・ファゴット(またはチューバ、コントラバス)、そして4本のホルンのために書かれており「ハーモニームジーク(古典派からロマン派にかけて流行した管楽合奏形態で、ホルンとファゴット、それに加えてオーボエとクラリネットのいずれかあるいは両方を通常2本ずつ使うのを原則とする)」、、、』 今回の演奏では総勢14名程度で少人数、またコントラバスが使われていた。この管楽器を2本ずつ使うことがミソだと思う。このことで豊かな響きが得られていると感じる。2本の管楽器が少しずつ音を違えていると和音が出来て、なおいいように思うが実際にはどうなんだろう。この2管編成は古典派からロマン派にかけて流行したとある。クラッシック音楽の始まりの頃だ。和音をだいじにする純正律が始まったころだと思われる。しかも若々しく、元気な曲で、作曲者の若々しい感じがよく演奏にあらわれていた。

次のリストの交響詩レ・プレリュードは、オーケストラは大編成で舞台一杯に演奏者が並んだ。チラシによれば『人生は死へのプレリュード=前奏曲である。』とリストは語ったようであるが、この言葉とは違い、時折大自然の風や雷のような状態があり、また美しいハーモニーがあり、これも若々しい曲とかんじた。これはホンダの車プレリュードの広告に使えそうなわくわくした感じで、いい曲だった。

後半のフランクの交響曲ニ短調は、フランクの晩年の作品だそうだ。荘重なメロディーが時折り返され、最期に勢いよく終わる。悩んで悩んで、突き抜けていく感じで、この曲も若々しく、勢いのあるものだった。

キンボーさんは、指揮をするときには、指揮台に立って棒を振っているが、お客さんに挨拶するときには、指揮台から降りて挨拶をしていた。このことはジュニアフィルの若々しさと相まって、すがすがしい感じになっていた。

私はR・シュトラウスの曲は管楽器を2本ずつ使ってハーモニーを醸し出す工夫をしているのではないかとメールをしたら、先ほどキンボーさんからメールをいただいた。『どの楽器(とくに管楽器)にもそれぞれ本来の音程傾向のようなツボがあり、それを個々の奏者が正す際に多少の調整のズレは生じるものですが、今回の演奏に限ってい言えば、それがたまたまピタゴラス音律と純正律の狭間を往復した結果となった可能性があります。、、ただ、倍音が長い楽器から合奏の動線を取ってもらうよう努力はさせました。整った音程が、必ずしも美しい音程ではないのですが、そこも個性であるべき箇所。答えのない永遠のテーマでしょうか。。

なるほど!! その結果の演奏は大変良かったですね。またうかがいます。

写真:サントリーホールの横通路の舞台側の自分の席から、コンサートが始まる前に撮影



 


2025/02/03

乙女文楽公演

日時:202521日(土)15001700

場所:川崎市国際交流センター

出演:ひとみ座乙女文楽、大正末期から昭和の初めにかけて乙女文楽ははじまったようだが、今回は、男性も人形遣いに一人参加するようになった。明治時代に女性だと言うことで女性義太夫が人気を博していたようであるが、今後は次第に変化してくるかもしれない。そもそもひとみ座はそれ以外に演目では女性・男性に関わらず演じてきている。もう一つ文楽という名前はあるが、一般の三人使いの文楽ではなく、この乙女文楽は一人遣いが大きな特徴である。人形の動きが活発で、三人使いより自然に見える。ただし人形の頭を動かすのには、人間の首から紐が人形の頭につながっており、この紐で人形の頭を左右に動かしている。私が乙女文楽を知ったのは、横浜ボートシアターの吉岡さんに、三味線の鶴沢寛也さんを紹介されてからだ。残念ながら寛也さんは、おととし亡くなってしまつたけど、その相方の義太夫浄瑠璃の竹本越孝が頑張って出ている。応援したい。乙女文楽と横浜ボートシアターとは、多分人形つながりだと思う。

演目:二人三番叟、邪気を払い、地を鎮めることから、しばしばお祝いや開幕にあたって演じられるとのこと。本番の奥州安達原 袖萩祭文の段、昨年も同じ題名で公演があったが、今回は袖萩祭文の段の後段もあると。したがって出演者も倍ぐらいになっている。主人公の袖萩祭文は、盲目の門付け三味線弾きになっているが、かつては主人がいた。その本当のすがたは奥州の安倍貞任で、帝の幼い弟を誘拐した謀反者だった。袖萩祭文の父は御殿の守護役であったが、その責任をとって切腹を言い渡される。それを知って袖萩祭文は子供をつれて、雪の降る中、父の家に行くが、父は勘当を解かず、母が心配して、袖萩に祭文語りをさせ、雪が降る中、自分の着物を与えたりする。母の情が感じられる情景だ。そこに袖萩の元旦那、安倍貞任とその弟で、安倍貞任が、袖萩に父を殺せといって短刀を渡していくが、父が切腹するときに、自分もその短刀で自害してしまう。本筋は謀反を含んだドラマチックな話だが、裏の本筋は家族の愛が、親や子供の愛が強く感じられる物語である。見ていていい話だと感じた。お芝居が終わった後、劇場の出口で、出演者が並んで挨拶していたが、人形に感情が写ってしまい、人形に握手を求めて帰った。いい芝居だった。





2025/01/27

須川展也 サクソフォン・リサイタルwithフィリア・サックス・バンド

 日時:2025125日(土)2時から4時ぐらいまで。

場所:青葉区区民ホール フィリアホール、満席であった。

出演:1部は須川展也+ピアノ 小柳美奈子、2部は須川展也ほかフィリア・サックス・バンドで、多分メンバー編成は即席のものかもしれないが、加藤里志、木村有紗、今野龍篤、塩塚 純、諏訪直風、高橋龍之介、放生幹也、堤 華奈で、ソプラノからアルト、テナー、バリトンを2台ずつで編成している。 とくに木村有紗さんは私の飛島建設時代の同窓生の娘さんで、時々気になってコンサートに行っています。

曲目は、1部はロンドンデリーの歌、J.S.バッハのシャコンヌ、イベールの間奏曲、レガシー・オブ・グレンミラーで、中でも無伴奏のシャコンヌは、本来は無伴奏ヴァイオリンの曲ではあるが、それをサックス用に編曲して、素晴らしいサックの技術で、難解な曲をこなしていた。素晴らしかった。

2部は須川展也とフィリア・サックス・バンドで、吹奏楽の曲を編曲したブラボー・サックス、ラヴェルの亡き王女のためのパヴァーヌ、ドビュッシーの小組曲よりⅣ.バレエ、ラテンメドレー で ラヴェルの曲は特に素晴らしく感じた。さらにアンコールはTake the A trainで、これは楽し気でいい曲だった。クラッシクの曲からラテンやジャズまで、幅広く、奥深く、心がサックスの甘く・柔らかな音で充満した。

     写真 幕間に撮影 椅子が後半に備えて配置されている。






2025/01/24

建築音響の交流の歴史 その11 うなり

 うなりとは  「唸り(beat)はわずかに異なる2つの音波の干渉によって、観測点に生じる時間的な振幅変化であり、1秒間の唸りの回数は2つの音波の振動数の差になる。この現象は、楽器の調律のように一方を振動数のわかっている標準音波とし、他方の振動数を正確に測定・制御するのに利用される。」 p.12前川純一著建築・環境音響学から引用。唸りはこのように建築音響技術の一つで、音響技術者としては物理的な現象の一つとして理解されている。

ただお寺の鐘は唸りを生じて減衰する。多分この唸りを伴う音は人々の願いを天に届ける役割があるように思う。そういえば地鎮祭の時に神主が天から龍が下りてくるとき、また天に龍が戻るときに神主が唸りを発する。この神主は具体的に唸りの効能を述べているようだ。さらに仏壇のリンも唸る。日常的に唸りの音は聞いている。

このお寺の鐘の唸りは、チベットのお寺の鐘も唸るように作られているのではないか。以下の写真は左からタイ、バンコクの暁の寺の屋根にたれ下がっている鐘と同じもののお土産品、中央は重慶の飛行場でのチベットのお寺のお土産、右はサンフランシスコのケーブルカーの中にある鐘をお土産品として売っているもの。左二つは唸りを生じているが、右側のサンフランシスコのケーブルカーの鐘は唸らない。たまたま唸りを生じないのか唸るべきものなのかは正確には分からない。

                           写真:左から暁の寺の鐘のお土産品、中央はチベットの鐘のお土産品、                                         右はサンフランシスコのケーブルカーの鐘のお土産品

イギリスのトレヴァー・コックスの著 「世界の不思議な音」(The Sound book, The Science of the Sonic  Wonders of the World)の「8.音のある風景」p.267で、ランドマークとして、「イギリスを代表する音といえば、ロンドンにある国会議事堂の時計台に納められた巨大な鐘、ビッグ・ベンの音だ。イギリスでは、ビッグ・ベンは新年を迎えるときにならされ、何十年間もニュース番組の冒頭で流れ続け、休戦記念日には二分間の黙祷の開始を告げるのにもつかわれる。」「まず金属がぶつかり合うカーンという音がして、それが次第に弱まるにつれて朗々と響く音になり、20秒ほど続く。最初のハンマーの打撃から生じる音は高周波成分が多いが、それはすぐ消失し、もっとおだやかな低周波の響きが残ってゆったりと震音を発する。」「鐘の場合は対称性によって、というか対称性の欠如によって、震音を生じる。完璧な円形でない場合、鐘は唸を生じる二つの近接した周波数を持つ音を出す。教会の鐘を新たに鋳造するとき、西洋の鋳造所ではそのような震音を避けたいと考えるのはふつうだろう。ところが韓国では、この効果は音の質を決定する大事な要素と見なされている。西暦771年鋳造された聖徳大王神鐘(ツンドクテワンシンジョン)は「エミレの鐘」という呼び名の方がよく知られている。この鐘を鳴らすと「エミレ」(お母さん)と子供が泣き叫ぶような音がすると言われているのだ。この言い伝えによると、鐘の音をよく響かせるために鋳造氏が自らの娘を人身供養としてささげられたという。」この鐘の音は良く響かせるために子供を犠牲にしたからこの唸りが出来てしまったという唸りに対する否定的な解釈だ。「ビッグ・ベンが明瞭な唸りを発するのは、いくつかの傷のせいで二つの周波数が生じるからであり、その傷ははっきり見て取れる。」 このビッグ・ベンについても傷のせいで唸ってしまっているということだ。しかし私の周辺の鐘の音は、子供が犠牲になったから唸っているのではなく、わざわざ唸るように作られているように思う。

トレヴァー・コックスの本では、鐘はイギリスの国会議事堂の鐘であるが、私はウイーンのホラインの事務所に総計半年ぐらい居たことがあり、そのすぐそばの鐘の音を12時になると毎日聞くことが出来た。その音は唸りを生じていない音で、ここに神がいるという感じだ。この鐘の唸りを設けないというという歴史はどこから来たのか!!

BC6世紀ごろ、ギリシャでピタゴラスが音律を作った。この音律は二つの音を同時にならしても唸りを生じないように、ドの1.5倍(3/2)のソを設定し、更にその1.5倍(3/2)を設定し、2を超えたところで、2で割り、更に同じことを繰りかすえす。

倍率

1

3/2

9/8

27/16

81/64

243/128

729/512

2184/1024

音名

ファ

ピタゴラス音律の問題として、オクターブ上のドを2倍にするために729/512のファになる音を人為的に4/3としてドを2倍とすることで、以下のようにドレミファソラシドの音程ができる。

音名

C

D

E

F

G

A

B

C

 

ファ

比率

1

9/8

81/64

4/3

3/2

27/16

243/128

2

窮理社(https://kyuurisha.com/)の「聴き比べ:古典音律(ピタゴラス音律、純正律、中全音律、ウェル・テンペラメント)と平均律」を参考にした。

ピタゴラス音律の問題は基準音に3/2倍を繰り返しただけでなく、オクターブに対応するためにファの729/5124/3に強制的にしてしまったことで、唸りを生じてしまうことだ。このことをウルフ音という。狼の遠吠えの声だ。したがってフラットのない弦楽器は意図的にわずかにずらして、唸りを生じないようにしているようだ。

ピタゴラスと時間的な違いはあるが、歌舞伎でも人形浄瑠璃でもお囃子の笛は1本だけのような気がする。これは唸りを回避する目的があるような気がする。近所の都築太鼓の公演のときに、数台の太鼓と2台の篠笛で演奏していたのを聞いたことがあるが、篠笛はフルートのように筒の長さを微妙に調整が出来ないために、2台を同時に鳴らすと唸りを生じてしまう。

さらにインドネシアのガムランは、楽器そのものが唸るために、ゆっくりと演奏しているような気がする。

日大の塩川教授のグループが以下の論文を提出している。『音響解析を用いた金属製打楽器の変遷-「うなり」の文化としての東洋音楽史-』 last update 2024.12.14 (since 2021.9.20)

ガムランについては、『これら金属製打楽器は厚さを均一に製作することは難しく、その厚さの差によって、周期が異なるさまざまな「うなり」が生じてしまう。そのため、逆にこの「うなり」を楽器の音色として特徴づけ、「うなり」の音楽としてインドネシア・バリ島のガムラン音楽が生まれた。』『バリ島のガムランには、儀礼や舞踊の種類などによりさまざまな楽器あるいは楽器編成が存在する。基本的に、いずれも屋外で演奏され、大きな特徴として、鍵盤楽器は2台が一組を成しており、それらの対の鍵盤が音の高さをお互いに少しずらして「うなり」が生じるように調律されている。』 ただこの論文の中にはお椀を伏せたような楽器群 ボナン・ブサール、ボナン・ブヌルス等のことについては言及がない。ただこれらも一対で存在しているような気がする。

ジャワガムラン奏者である大田 美郁さんに追加していただいた。

「ガムランについては」という段落にある、ボナン・ブッサール(大きい)とボナン・プヌルス(小さい)ですが、これはジャワの呼び名で、バリでは小型置きゴングはレヨンやトロンポンといって1列に並んだ形です。そして、鍵盤楽器、太鼓についてはうなりを伴う2台一組ですが、レヨン系は1台なので、うなりに関してはちょっと他と違うかもです。そして、ジャワのガムランの楽器は、2台一組でうなりを生じる、ではなくて、全体として少しずつずれていて(ずらしていて)うなっている、の感覚かなと思います。

音の不思議をさぐる 音楽と楽器の科学 チャールズ・テイラーの5.3平均律の音階p.252で、平均律と純正律とを比較している。

音名

C4

D4

E4

F4

G4

A4

B4

C5

平均律

261.6

293.7

329.6

349.3

392

440

493.9

523.2

純正律

264

297

330

352

396

440

495

528

平均律の場合には、純正率やピタゴラス音律の場合と違い、唸りを生じる。ミ(B4)とファ(F4)の間には、19.7Hzしかないため、唸りを聴きやすい。現代のフランスの作曲家メシアンのピアノ曲などはわざわざこの唸りを生じるように作曲をしているとピアニストの青柳いづみこさんに聞いたことがある。

『メシアン音楽の神秘』という文書の中に、ピアニストの深貝理紗子が『これによって2種類の倍音が生じ、低音側からの周波数、ノイズが多くなります。ここにさらに違った組合せの音程がペダルのなかに重なり合わさる―その終着点、つまりペダルの響きのみとなった部分にようやく、メシアンの聴いていたであろう鳥の声の残像が現れます。』 このことは唸りと書かれていないけれど何となく想像できる。この唸りは多分自然の鳥の声を表現しているように思う。

ピアニストの久元さんのベートーベンのピアノ・ソナタ全曲演奏会Vol.1のブログ(2023.11.10)を書いたが、ヴェーゼンドルファーのピアノを、純正律を中心に調律したとのことで、濁りがないきれいな音で演奏していた。 

http://yab-onkyo.blogspot.com/2023/11/vol1.html


2025/01/23

東京科学大学 環境・社会理工学院 建築学系の吉田綾乃さんの卒業論文202412の感想

 テーマ:Knowledge and Practices of Architectural Acoustics of Ancient Theatre Design,

Focusing on The Ten Books on Architecture by Vitruvius

この論文は元東工大の特任教授の清水さんから頂いたものです。本文は全て英語で書かれているのでびっくりです。それを、Google翻訳を交えて読んでみました。

主題はVitruviusの劇場設計についてで、意義の項目で、『建築は、技術的な側面と美的・文化的な側面を別の学問として研究されることが多い。、、、建築音響設計には、1) 波などの物理的現象としての音、2) 建築設計における音の応用、3) 音の心理的印象という3つの主要な研究分野がある。しかし、これらの分野が単一の学問分野として扱われることはまれである。しかし、ヴィトルヴィウスが生きた古代ローマでは、そのような区別は極めて稀であった。』とあった。

吉田さんの問題意識の中に、建築は技術的な要素と文化的な要素を別々に研究することが多く、音響設計でも物理的な面と心理的な面を別々に研究していることが多いと。たしかに大学の研究室ではそのような分野ごとに分かれているように思う。また音響学会でも分野ごとに分かれて発表している。しかし数年前に私も参加した東大建築学科の建築環境の森下先生の研究では、森の効果を医学的な立場から、心理学的な立場や音楽的な立場や音響的な立場から合同でかかわることも行っている。 また以前当社にいたアントニオさんは、グラナダ大学の4年生の時には、四川大地震の時に崩壊する建物から発生した超音波の研究をしていて、大学院を卒業してから、東工大の研究者として、飛行機の破壊するときに発生する超音波の研究をしていた。現在は、わが社を経て5年ほどになっているが、イギリスの音響事務所のRSKで、タンザニアの山の変形時(多分地震時または地滑り時)に発生する超音波の研究をしているようだ。いずれも音響技術だけでは解決できない分野になっている。建築音響の分野では、Sabine以降、残響時間の求め方や反射音の構造の研究が盛んで、ヨーロッパのクラシック音楽を対象に好ましいコンサートホールについて研究してきた。ただ最近では電気音響を用いて、ギリシャ劇場のタイプでクラシック音楽を演奏する例や、教会の中でクラシック音楽などを演奏する例もみられるようになった。さらに和太鼓やオペラや合唱やガムランや歌舞伎や人形浄瑠璃などのために室内音響もテーマになるのではないか。多くが学際的なテーマだ。

さらにピタゴラスがつくった音律、いかに唸らないかで出来た音律が最初で、一般的にはさらに、この後ヨーロッパの中世に純正律が出来て、その後クラシック音楽が作曲されるようになったが、現在では移調の容易さから平均律に変化している。ただこれらのことについては吉田さんの論文には出てこなかったが、ピタゴラスの後にAristoxenusBC375300)がElements of Harmonyという本を書いたとのこと。このHarmony はクラシック音楽ができる前のドミソの和音のことではなく、ギリシャ音楽の基本構造はテトラコルド(tetrachord)から成り立っているとのこと。以下テトラコルでについて、論文内のグラフを引用した。ファから高い方のファまでで、1オクターブの中を、赤い4つの音を示している。

別の本、Henry S. MacranによるThe Harmonics of Aristoxenusの本によると、テトラコルドの4度音程は、ギリシャ人の耳が境界音の関係を即座に把握できる最小の音程であり、音楽的概念を間接的に知覚するには未熟のためとあった。どんな曲であったのか気になるところである。

またギリシャ劇場の椅子の下に置かれているSound Vesselは『劇場が木で作られている場合は、木材が共鳴するため、Sound Vesselは不要であると主張している。彼が木材の吸音特性とSound Vesselのどちらを認識していたかは定かではありませんが、両方が音の明瞭性に与える影響を認識しており、その結果としてこの指示を出した可能性があります。』 確かにギリシャ劇場は円弧上に拡がる椅子による客席空間やスケーネなどによって、残響感がある。その影響を減らすためとも考えられるが、正確には目的はよくわかっていないようだ。このことは日本の能舞台の下に置かれている大きな甕も似たようなことがある。

音楽のエトス理論は、アリストテレス、プラトン、その他の哲学に組み込まれた。この理論は、音楽には特定の「気質」に影響を与え、人間の精神の最も深いところまで浸透する力がある、さらに古代ギリシャとローマでは、音楽は個人に大きな影響を与えると信じられ、この概念は教育と政治に適用されたようだ。ヴィトルヴィウスは、音は空気を球形上に伝搬していることや客席の段には上段にでっぱりを付けて、反射音が得やすい状態にしていることや、途中の横通路より上の段も客席の勾配を直線で結べるように考えたり、残響時間をスケーネ部分の空間の残響時間音の長さを利用して、ヴィトルヴィウスによれば劇場のオーケストラの部分で役者が演技をおこなったり、合唱やダンスを行ったりしていたようだ。のちにEringがスケーネの前の空間と客席の空間との連結空間を実験して、影響を受けていることが確認できたようだ。

ヴィトルヴィウスはギリシャ時代から音についての理解はかなりあって、公共建築としての劇場を設計していたようだ。吉田さんはこのヴィトルヴィウスの世界のなかで、広く深い世界にいられたようだが、現在の建築設計では、深く広い建築設計の分野に、さらに耐震設計を含む構造技術的なこと、設備技術的なこと、環境・音響技術的なことなどがそれぞれ奥深く存在している。最近、ベルリン工科大学にいたクレメンスさんは、日本の芝居小屋や明治時代のホールの音響の研究をしてドクターを取得したが、昨年の暮れの手紙では、世界の海洋音響の仕事で、世界を回っていると言っていた。吉田さんにとって、改めて次はどんなことがテーマになるのかじっくり考えて決めていく必要があるようです。

テトラコルドに関して追加20252018

テトラコルドという言葉で思い出した。小泉文夫著の『日本の音』平凡社刊 の中の最初の章の『世界の中の日本の音楽』で、『日本で主に用いられている音階は五音音階です。中略、、、伝統的なものに限って申しますと四種類のテトラコルドから成り立っています。五音音階というのは1オクターブの中に五つの音があるという意味ですが、しかしその成り立ちを考えてみますと、二つのテトラコルド、すなわち四度のワクというものでできあがっていることが多いわけです。』  『このテトラコルドには半音を単位として考えた場合に、四種類のものがあると考えられます。第一種は、四度のワクの中に、下から数えて短三度音程のところに中間音がくるもので、これは日本のわらべうたや民謡の中でもっとも大切なものです(譜1)。しおかしこれは日本の一番基本的な音階であるばかりでなく、朝鮮においても、また中央アジアにおいても、さらに遠くはトルコ、そしてヨーロッパの中ではハンガリーの民族音楽の一番基本的な、最も古いタイプとされています。』 この文は第四種まであるが、いずれも古代ギリシャの話はなかった。ただこのテトラコルドの話はギリシャをこえてヨーロッパまでつながっている。また語源のテトラはギリシャ文字だ。とおく古代ギリシャ時代のアリストクセノスまでつながっているかもしれない。


2025/01/15

新たに尺八を購入

 今までの尺八は割れてきてしまっていて、音が出にくくなって来ていたので、中古の尺八をあらたに今日(2025.01.12)購入した。ただし大きさは、19寸。購入先は和楽器ネット。新しく購入した尺八は、以前と比べ全然、音は出やすくなっている。