昔、天井桟敷の稽古場公演で、テーマは忘れたが、雨音がぽつんぽつんと永遠に奏でるような音がする公演を聞いた。たぶん音源はガムランの金属の打楽器を木製のバチでうつような楽器だと思われる。出演者は5名、観客はたった3名で、平土間の上に寝そべるようにして聞いていた。非常に入場収入の効率が悪い公演だったが、時々思い出している。とても居心地の良い公演で、満足をした覚えがある。
最近NHK交響楽団の桂冠名誉指揮者のブロムシュテットがテレビで小さい頃に鉄板屋根に当たる音が気持ちよくて、わざわざその屋根の下に来て雨音を聞いたと言っていた。雨の音は自然との対応になるのだろう。ブロムシュテットはスエーデンの人だ。また砂漠の人は、雨音を快適に感じるとのことを聞いたことがある。雨は生きるための水をもたらしてくれるものだ。
またこれに反して、日本では雨が多い。最近は線状降水帯などがよくおこり、大水害が発生することも起きてきている。日本では、植物の生育を促し、雨の音は気持ちの良い反面、洪水との関係も深くなってきている。多分茅葺きの屋根に落ちる音は鉄板屋根と違い、おだやかな自然の音に違いない。たぶん風情を感じる音ではないかと思われる。しかし鉄板屋根の場合には、雨音は風情より災害との結びつきが強くなってしまうと思われる。
何年か前に、東聖建設の依頼で、鉄板屋根の雨音を減らす方法について検討をしてほしいとの依頼があった。そこで雨音について、鉄板屋根の模型を作り、雨音の代わりに、タッピングマシンで、打撃することとした。試験体の大きさは450mm×450mmである。
なお実験を行った試験体を表にして示した。試験体は、鉄板0.35t+ラーチ合板24tを基本構造として、内部にいくつかの材料を挿入している。
商品名のシンセファイバーはポリエステル繊維吸音板で、150kg/m3、厚10mmと高密度のものである。またグラスウールでなく、ポリエステル繊維吸音板としたのは、同じ吸音材であるが、もし水に濡れた時にでも、水に強いためである。
表 試験体一覧
1) 鉄板0.35t+ラーチ合板24t
2) 鉄板0.35 t +アスファルト系制振材4t+ラーチ合板24t
3) 鉄板0.35 t +高密度シンセファイバー150kg/m3厚10 mm +ラーチ合板24t
4) 鉄板0.35 t +アスファルト系制振材4t+ラーチ合板24t×2枚
5)
鉄板0.35 t +高密度シンセファイバー150kg/ m3厚10mm+ラーチ合板24 t×2枚
6) 鉄板0.35 t +高密度シンセファイバー150kg/ m3厚10 mm +ラーチ合板24 t +アスファルト系制振材4 t +ラーチ合板24t
7) 鉄板0.35t+ダイケンビルボード9t+ラーチ合板24t
図 試験体および雨音(タッピングマシン)の測定システム
図 振動加速度レベル測定結果比較
加速度レベルLaから音圧レベルLpへの変換式は次式を用いた。
Lp≒La-20×Logf+36 (dB) 式
音圧レベルLpからA特性音圧レベルへの変換は次表を用いた。
表 音圧レベルを1/3オクターブバンドでA特性変換
周波数1(Hz)
|
31.5
|
40
|
50
|
63
|
80
|
100
|
125
|
160
|
補正値1(dB)
|
-39.2
|
-34.5
|
-30.2
|
-26.1
|
-22.3
|
-19.1
|
-16.1
|
-13.2
|
周波数2(Hz)
|
200
|
250
|
315
|
400
|
500
|
630
|
800
|
1000
|
補正値2(dB)
|
-10.8
|
-8.6
|
-6.5
|
-4.8
|
-3.2
|
-1.9
|
-0.8
|
0
|
周波数3(Hz)
|
1250
|
2000
|
2500
|
3150
|
4000
|
5000
|
6300
|
8000
|
補正値3(dB)
|
+0.6
|
+1.2
|
+1.2
|
+1.2
|
+1.0
|
+0.5
|
-0.1
|
-1.1
|
図 タッピングマシン衝撃音のA特性音圧レベル予測値
実験の結果では、東聖建設の案も含めて考えると、No.5の鉄板0.35 t +高密度シンセファイバー150kg/ m3厚10mm+ラーチ合板24 t×2枚が好ましい結果となり、推奨した。さらに東聖建設は天井裏に遮音層も設けて、実施するとのこと。
完成後に屋根からシャワーの水で、音を確認したが、雨どいに落ちる音しか聞こえませんでした。ただ現実には、何年かたっており、その間、豪雨のこともあり、実際の雨も体験していると思われ、快適な雨音であるといいと思っています。