12月1日に久元祐子ピアノリサイタルを聴きに銀座ヤマハホールに行きました。
銀座ヤマハホールは今年の春オープンしたコンサート専用のホールで、シューボックスタイプのコンサートホールです。シューボックスタイプの大きな特徴として、ウイーン楽友協会ホールやボストンシンフォニーホールに代表される音の良さがあります。その理由は残響の長さとともに、強い側方の初期反射音が得られるからとも言われています。
前回のブログでご紹介した清瀬けやきホールもその考え方を使っています。しかし、側方反射音があまり強くなると拡がり感が得られるだけでなく、音の像を大きくしてしまい、ピアノの音が、舞台一杯に拡がって不明瞭に聞こえてしまうこともあります。その欠点をなくすために、ヤマハホールでは、初期の側方反射音を与える壁の部分を拡散壁にしています。おそらくその効果が効いていて、ピアノの音ははっきりとピアノから聞こえてきます。
今回のコンサートは、ベートーベンのピアノソナタ「ワルトシュタイン」を中心に構成されていました。最初の曲は、アンダンテ・フォヴォリという曲で、もともとはこのワルトシュタインの第二楽章だったのが、長すぎたために独立させて、新たに2楽章を書き直したそうです。そのほかベートーベンの影響を受けたシューマンやショパン、シューベルト、R・シュトラウスで、ロマン派の曲です。久元さんのピアノは情感がこもっており、穏やかな気持ちになります。
今までは久元さんのリサイタルは東京文化会館小ホールで行われていました。東京文化会館小ホールは四角の形ですが、舞台がその一つの頂点にあり、観客席側に側方の初期反射音をもたらしにくい形をしています。しかしそのためか音が明瞭で、ピアノの演奏家には好まれているようです。今年は新しくできたヤマハホールでしたが、その雰囲気を残しながらも、響きもあるホールです。このような新しい音響設計法が今後どのように発展していくかも気になります。
2010/12/17
2010/12/13
清瀬けやきホールの清瀬管弦楽団によるオープンコンサート
2010年12月12日(日)、清瀬けやきホールにて清瀬管弦楽団のコンサートがあり聴いてきました。従来、清瀬市民ホールという名称で親しまれてきたホールですが、2009年一旦クローズして2年間リファイン改修が行われ12月5日に清瀬けやきホールとしてオープンしました。こけら落とし公演は、日本フィル金管5重奏により行われ、12日は地元で活動している清瀬管弦楽団によるコンサートでした。
リファイン改修にあたって、弊社は音響設計を担当させていただきました。音のリファイン改修の一番の目玉は、側方からの初期反射音が得られるように、1階席の舞台両側の客席を2階に持ち上げてバルコニー席とし、1Fの舞台脇に壁を設置したことです。かつて平土間客席であった客席を、1F奥の客席下にトイレを設置することでスペースを確保しつつ客席の勾配を上げ、その分舞台が見やすくなり、また直接音が到達しやすくなりました。その直接音をバルコニー席からの初期反射音が補強します。扇型の多くの多目的ホールの弱点を改修したものです。
当日は無料で、さらに先着順のために、1時間半前にロビーに到着しましたが、すでにお客さんは20~30名ベンチに並んでいました。約1時間前にチラシを配り始めたときはもうたくさんの人が並んでおり満席になりました。
コンサートの始まる前に、舞台で2~3名のコントラバス奏者が練習をしていました。その音がやけに近くに聞こえるのです。そしてコンサートが始まると、やはり目の前まで演奏音が迫ってきます。まるで舞台の中で聞いているような臨場感がありました。500席のホールでオーケストラを聴いたことがこれまでにないということもありますが、全く新しい経験でした。
また清瀬管弦楽団の演奏も素晴らしいものでした。清瀬管弦楽団は1958年の創立で、今回は44回目の定期演奏会で歴史があります。曲目はワーグナーのニュルンベルクのマイスタージンガーの前奏曲、ハチャトリアンの仮面舞踏会、後半はシューマンの交響曲第3番『ライン』です。前半は華やかな動きのある曲で、後半はのびのびとした曲でした。演奏者は62名+指揮者(松井 浩)です。楽団員が多いので舞台を客席側に拡張して演奏していました。いよいよ新しい動きが始まった感じです。たくさんの人にこのホールが使われることを願っています。
なおリファイン改修の設計は、青木茂建築工房、舞台技術は空間創造研究所です。
清瀬けやきホール
バルコニー席の様子
客席の勾配
当日は無料で、さらに先着順のために、1時間半前にロビーに到着しましたが、すでにお客さんは20~30名ベンチに並んでいました。約1時間前にチラシを配り始めたときはもうたくさんの人が並んでおり満席になりました。
コンサートの始まる前に、舞台で2~3名のコントラバス奏者が練習をしていました。その音がやけに近くに聞こえるのです。そしてコンサートが始まると、やはり目の前まで演奏音が迫ってきます。まるで舞台の中で聞いているような臨場感がありました。500席のホールでオーケストラを聴いたことがこれまでにないということもありますが、全く新しい経験でした。
なおリファイン改修の設計は、青木茂建築工房、舞台技術は空間創造研究所です。
2010/12/01
神奈川芸術劇場の見学
日本建築学会文化施設小委員会の主催で、オープン間際の11月28日午後に神奈川芸術劇場の見学会が行われた。この建物はNHK横浜と神奈川芸術劇場の複合施設で、1~3階部分がNHK、5~8階が劇場および小ホールや練習スタジオとなっている。5階に劇場があるために、吹き抜け空間にらせん状にエスカレーターを配置して、登っていく雰囲気をドラマティックに演出されている。
ホールと名付けられているこの劇場は1300席であるが、できる限り舞台に近いところに席を設けようと考えられて設計され、オペラ劇場のように3層に客席を配置している。またプロセニアム劇場でもあるが、そこからいかに可変できるかも主要なテーマとなっている。客席は、勾配をほぼ平らの状態から、後方を2階席の先端につなげられるように可変できるようになっている。この勾配は、かつてピーターブルックのセゾン劇場での公演のときにつくられた仮設の観客席の勾配に近いもののようだ。ギリシャの野外劇場エピダブロスの勾配はさらに急勾配との説明が、設計者である香山設計の長谷川さんからあった。華やかなすばらしい劇場空間と感じた。
見学会の後、設計者の長谷川さん、アプルの大野秀敏先生、館長の眞野純さん、舞台技術の草加さん、舞台美術の堀尾さん、横浜を代表してBankArtの池田さん、司会の東北大学の坂口先生によるパネルディスカッションがあり、それぞれの方の設計意図や意見や抱負が語られた。最後に池田さんより、この劇場に関して少し否定的な意見が述べられた。1階は町に開かれていなく閉鎖的であること、また横浜の一等地といえる場所に、このような重構造の箱モノを作ったことなどであった。パネリストの他の皆さんも、このことに関しては前向きな見解を述べられず、館長からも公共劇場についてあまり自信のない発言が出た。演劇の観客人口は低減しており、演劇が何を目指しているのかは本当に難しいという。しかし、私の見解では、おそらく池田さんのご意見は劇場の表面的な内容を仰っており、これに対して、この劇場は都市に開かれているし、NHKとの複合によって、多彩な人間がこの吹き抜け空間に賑やかにおとずれ、また人々を感動させる公演が計画されていったことを仰ればよかったと思うが、館長はおそらく劇場の本質論を述べる必要があると思われて、口が重くなったのではないだろうか。最後に観客席から名古屋大学の清水先生がご意見を述べられた。この劇場は非常によくできており、このような単なるべニア板でできた舞台床ができたのは、館長がプロだからと述べていた。ベニアであれば、大道具をくぎで固定したり、床に穴を開けることもできる。傷んだら容易に取り替えられる。それは演出表現が自由になることを意味し、確かにプロが使う劇場であり、高い理想を実現するためのものという感じを受けた。「演劇とは何か」を追求して、それが表現できるように設計されているように思う。この劇場に期待したい。
外観
エスカレーター
ホールと名付けられているこの劇場は1300席であるが、できる限り舞台に近いところに席を設けようと考えられて設計され、オペラ劇場のように3層に客席を配置している。またプロセニアム劇場でもあるが、そこからいかに可変できるかも主要なテーマとなっている。客席は、勾配をほぼ平らの状態から、後方を2階席の先端につなげられるように可変できるようになっている。この勾配は、かつてピーターブルックのセゾン劇場での公演のときにつくられた仮設の観客席の勾配に近いもののようだ。ギリシャの野外劇場エピダブロスの勾配はさらに急勾配との説明が、設計者である香山設計の長谷川さんからあった。華やかなすばらしい劇場空間と感じた。
1階席後方が持ち上がり2階席に続く
見学会の後、設計者の長谷川さん、アプルの大野秀敏先生、館長の眞野純さん、舞台技術の草加さん、舞台美術の堀尾さん、横浜を代表してBankArtの池田さん、司会の東北大学の坂口先生によるパネルディスカッションがあり、それぞれの方の設計意図や意見や抱負が語られた。最後に池田さんより、この劇場に関して少し否定的な意見が述べられた。1階は町に開かれていなく閉鎖的であること、また横浜の一等地といえる場所に、このような重構造の箱モノを作ったことなどであった。パネリストの他の皆さんも、このことに関しては前向きな見解を述べられず、館長からも公共劇場についてあまり自信のない発言が出た。演劇の観客人口は低減しており、演劇が何を目指しているのかは本当に難しいという。しかし、私の見解では、おそらく池田さんのご意見は劇場の表面的な内容を仰っており、これに対して、この劇場は都市に開かれているし、NHKとの複合によって、多彩な人間がこの吹き抜け空間に賑やかにおとずれ、また人々を感動させる公演が計画されていったことを仰ればよかったと思うが、館長はおそらく劇場の本質論を述べる必要があると思われて、口が重くなったのではないだろうか。最後に観客席から名古屋大学の清水先生がご意見を述べられた。この劇場は非常によくできており、このような単なるべニア板でできた舞台床ができたのは、館長がプロだからと述べていた。ベニアであれば、大道具をくぎで固定したり、床に穴を開けることもできる。傷んだら容易に取り替えられる。それは演出表現が自由になることを意味し、確かにプロが使う劇場であり、高い理想を実現するためのものという感じを受けた。「演劇とは何か」を追求して、それが表現できるように設計されているように思う。この劇場に期待したい。