葛飾区のM邸に、ピアノ室が完成いたしました。建築設計はACT環境計画、音響設計をYABが担当いたしました。
設計にあたり、お客様からの要望は「大ホールで弾いているような豊かな響き」というものでした。しかし住宅ですからそれほど大きな空間ではないため、空間印象を左右する初期反射音は、直接音が到来してからせいぜい10msで到来してしまいます。そこで天井をできる限り高く(約9m)し、高さ1.8m以下の範囲は、屏風折れなどの形状で拡散性にして、強い初期反射音を拡散させるようにしました。ただし、この初期反射音は、ヴァイオリンの柔らかい音色を作りだすことに関係している可能性があり、拡散性の程度については注意が必要です。残響調整は、2Fの奥の壁にグラスウールを貼ることで調整いたしました。
残響時間は、空席でグラスウールがない状態の場合2.41秒/500Hz、グラスウールを貼った場合には2.28秒/500Hzと非常に長く、平均吸音率も0.08程度と非常に小さな値です。
竣工したピアノ室で、アルトサックスで音を出して確認を行った際には、グラスウールのない状態では、早いパッセージの音は若干濁った感じになりましたが、グラスウールを設けると濁りが無くなりました。音は教会のように上から降ってくるような印象があり、とても気持ちのよいものになっています。今後、壁面の本箱に楽譜などが入り、また観客が在席すると残響時間が多少短くなりますが、それでもとびきり残響の長いすばらしいピアノ室ができたと思います。近いうちに試演会が行われるようで、楽しみにしています。
先日新しくできた銀座のヤマハホールは、側壁を拡散形状として、初期の側方反射音を弱めています。似たような考え方ですが、おそらく目的は違います。シューボックス型の特徴は強い初期の側方反射音が得られ、音に包まれた感じが得られますが、そのためか音像の大きさが大きくなりぼやけてしまいます。確かにヤマハホールでは、音を聞いてみると音像がはっきりとしていてクリアのように思います。