昨年に引き続き、今年もこんぴら歌舞伎を見ることができました。公演は4月5日~23日まであり、私が行ったのは4月の22日および23日の千秋楽です。
演目は、22日は午後の部で、夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)、供奴、23日は午前の部で双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき)、太刀盗人、暫(しばらく)。役者は市川海老蔵を座長とする松竹一座です。
22日は升席で、仮花道の脇、舞台と本花道が良く見える場所でした。この劇場は花道が2本あるところが演出上とても有効で、夏祭では役者が両側の花道で会話をし、声は客席の上を飛び交います。
海老蔵演ずる侠客団七のなんと格好のいいこと、動きも早く義理から強欲な舅を殺す場面では、取っ組み合いから泥水が飛び散る激しい場面があり、観客はビニルレインコートを着て見ます。唐十郎率いる状況劇場(赤テント)を思い出すほどです。
翌日の朝は千秋楽で、舞台の前に役者たちにより餅つきが行われ、観客にふるまわれました。千秋楽は歌舞伎十八番暫です。席は本花道の脇で大変迫力がありました。海老蔵演じる鎌倉権五郎が、暫らくといいながら、私の頭の上をあの大きな袖でかすりながら登場し、悪を懲らしめ退場する際も私の耳元で六方を踏み、にらみながら、花道を通っていきました。とにかく迫力がすばらしく、『夏祭』もそうですが、現代に生きている演劇と感じました。
この「暫」は1697年初演だそうです。江戸時代が始まったばかり、歌舞伎も始まったばかりで、勢いも感じられます。
仮花道
餅つきの様子
木戸口
本花道
先日、5/ 5(月)にショスタコービッチ作曲のオペラ『ムチェンスク郡のマクベス夫人』の東京歌劇団による公演を、サンパール荒川で観ました。1932年作曲のもので、筋は『夏祭』と若干似ているところがあり、主人公の女性が、義理の父と夫を殺し、不倫の果てに不倫相手の浮気相手を道連れに自殺してしまうといった激しいものですが、人間の生を感じさせる勢いのある演劇です。ロシア革命直後の雰囲気を感じさせるものですが、ソビエト共産党に批判され終了してしまったものです。オペラと歌舞伎は発生時期がほぼ1600年と同じで、物語の作り方にもまた共通点があるような気がします。
市川団十郎と海老蔵は、昨年パリオペラ座で公演をした際に、客席が遠かったと感想を述べていました。やはりオペラ劇場はオーケストラピットがあるために、客席と舞台を隔ててしまい、距離感が生まれます。歌舞伎のように楽団は舞台両脇に半分隠れて演奏したらいいのではないでしょうか。5日のオペラは、吹奏楽器だけは観客席の両脇で演奏しており、それだけでも臨場感が出てきます。舞台と観客席の一体感という観点から見ると、江戸時代の芝居小屋は相当レベルの高いものだと感じられ、それは現代の劇場にも活かせるのではと思います。
翌日24日は、瀬戸内海の直島に行き、安藤忠雄の地中美術館を見てきました。美術館のチケットセンターでは、「美術館は静けさを表現するため、響くように設計されているので、音を出さないようにしてください」といわれました。たしかに美術館に入ると洞窟のように響き、小さな足音や声を意識させ、自然の中の波の音や木の葉のすれる音などのようにざわざわとしたような感じを受けました。静けさの表現もこのような方法も一理あると思いました。この美術館は安藤忠雄の傑作だと感じました。近くにはベネッセハウスミュージアムがあります。ここは小さく窓が開いていたので、鶯の声が気持ちよく館内に響いていました。