客席の床は畳で、その上に座布団を敷いてある。壁は、襖か障子で、これは吸音性というか、ほとんどの音が透過してしまう。天井は、薄い板か八千代座のように和紙で出来ているものもある。
(写真:嘉穂劇場内観)
したがって床、壁、天井はかなりの吸音性があり、特に低音域の吸音性が大きい。この特徴は、コンクリートで出来た劇場とはまったく逆の特徴となる。
コンクリートで出来た劇場は、やはり強い反射音があり、響きを感じる。発生した声は大きな音で伝搬はするが、場合によっては明瞭性が劣ってくる。木造劇場は、明瞭な声の伝達が可能であるが、大きな音になりにくく、したがって役者は声の出し方に工夫が必要となる。
最近の芝居小屋では、歌舞伎役者以外の大衆演劇の芝居では、ほとんどがマイクを使って公演をしているそうである。マイクを使うと、音はスピーカから出てくるので、音像が役者でなくスピーカの位置に移動してしまうために、舞台に動きがなく平板な感じになるという欠点がある。
このような現象は、BIGバンドのJAZZのコンサートで、電気音響の拡声を行う場合によく感じる。生き生きした情感を表現するためには、やはり生声で公演することが必要であると考える。しかし、音が反射しないため、役者の喉にかかる負担が大きく大変なのもたしかである。
それを改善する方法は、舞台装置を使って、音響反射板の代わりとすることではないかと考える。それにより、直接音を補強し、力強い音で伝搬させることが可能となるのではと。いずれにしても木造芝居小屋の音響データを収集することが重要である。
また嘉穂劇場では、この3年間、12月のベートーベンの第9を演奏しており、九州交響楽団と、地元出身のオペラ歌手と地元の合唱団で構成されている。
このような木造劇場では、クラシックコンサートホールのようには響かず、その点からは好ましくないが、しかしこのような木造劇場の空間が日本の劇場の原点と考えれば、この日本的な空間の中で、ヨーロッパで発展した音楽を演奏することは、それはそれで文化の交流と解釈してもいいのかもしれません。
芝居小屋でこのようにクラシックの演奏会をする場合には、演奏者は客席のスペースで演奏したほうが、音が観客に行きわたるかもしれません。