第28回こんぴら歌舞伎大芝居を今年もなんとか見ることができました。公演は4月5日から22日まであり、我々の一行は、21日(土)の午後の部、千穐楽22日(日)午前の部を見ました。
公演の場所は、江戸時代の芝居小屋(天保6年1835年)、旧金比羅大芝居金丸座です。いつもここに来ると、舞台―客席空間が一体で、役者と観客が一緒に楽しめる素晴らしい空間だと感じます。舞台から観客席まで一体の竹のすのこの天井、花道、仮花道、そして舞台に直角に向いた桟敷席、すっぽんや回り舞台、空井戸、花道の上部にある宙吊用の懸け筋など、今の劇場にはあまり見られない工夫がされています。観客席は、枡席で畳の上に胡坐などをかいて座ります。私の席は、花道のすぐ脇だったので、役者の足元がすぐ近くで見られます。もっとも今年はあまり花道を使っていませんでしたが。
今年は中村吉右衛門の一門の公演です。出し物は、21日の午後は、1)戻駕色相肩(もどりかたいろにあいかた)、2)三代目中村又五郎・四代目中村歌昇襲名披露口上、3)義経千本桜 川連法眼館の間、22日午前の部は、1)正札附根元草摺(しょうふだつきこんげんくさずり)、2)一本刀土俵入りです。
物語として興味をもったのは、戻駕色相肩です。駕籠かきが舞台中央で一服。駕籠のなかは島原の遊女。駕籠かきがそれぞれ廓体験の自慢話をしながら踊る。踊っているうちに一人の懐から連判状が、もう一人からは香炉が落ちる。互いの所持品から、一人は久吉の命を狙う天下の大盗賊 石川五右衛門で、もう一人は命を狙われている相手 真柴久吉であることが分かる。そこで刃を交えることになるが、そこへ駕籠の中の島原の遊女が割って入る。そこで幕。なんで駕籠かきが石川五右衛門で、遊女が素手で刀を止めて、その後はどうなったかは関係なく、幕が引かれる。ひどく飛躍しているが腑に落ちる感じが良い。
義経千本桜もまた子狐の親が鼓の皮に使われてしまい、その鼓を追って、子狐が義経の家来の忠信に化けて、近づく話で、これもかなり飛躍がありますが、この子狐が山に帰るシーンが何と舞台の上手奥の木の脇で、上から吊られてそろりそろりと1mほど上昇して消えるのです。以前何年か前に観た「葛の葉」の時の狐は、懸け筋を使って、宙乗りで、観客席の後ろへ飛んでいたことを覚えています。そのときは涙が出るほど感動しましたが、今回は狐のファンタジーとしてはちょっと残念な演出でした。
22日の午前の部、一本刀土俵入は物語も感動ものですが、回り舞台や花道、脇花道、それに雨戸を使った暗転もあり、芝居小屋ならではの演出がありました。
この回り舞台の下は、木でできたロールベアリングが仕込まれていて回転するようになっていますが、それが数日前にひとつ外れてしまったようです。それを知っていたため、千穐楽まで、無事に回り舞台が回ってホッとしました。今考えてもよく出来たロールベアリングだと感心しました。芝居小屋から学ぶことはたくさんありますね。