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2011/01/17

スロバキア国立オペラ ラ・ボエームの杉田劇場での公演

昨日1月16日(日)2:00より、スロバキア国立オペラ「ラ・ボエーム」の公演を杉田劇場で見ました。杉田劇場は300席しかない劇場で、切符代は前売り3500円。切符を買う前に感じたことは、採算度外視の公演という印象です。300席の劇場でのオペラは、ほとんどの日本人にとって経験がないと思います。

歌手は6名、ピアノ演奏者1名、各幕のはじめにスロバキアの人が、日本語でその幕の説明をして幕が開きます。舞台にはグランドピアノと椅子2脚、テーブルとテーブルの上にワインとワイングラス2個、それに舞台後ろ壁の下に上向きのスポットがいくつかあります。イオネスコの舞台のように舞台装置は簡単です。実際に幕は無く、音響反射板が設置されています。したがって一般の舞台照明でなく、音響反射板についている照明がメインです。

ラ・ボエームはプッチーニ(1858~1924)のオペラで、パリの若い芸術家と同じアパートに住むお針子さんミミの悲恋の物語で、中に素晴らしいアリアがたくさんあります。300席ですから、アリアを歌うと、劇場中が歌でいっぱいになります。私の席は真ん中よりちょっと後ろの席でしたが、舞台から10m程度しかなく、俳優の表情もよく見えます。最後ミミがロドルフォのもとで息を引き取るときには涙が滲んできました。隣の席の方もそうでした。素晴らしい舞台でした。観客も盛り上がっていて、歌が終わると拍手がたくさん、ブラボーも何度も聞こえました。

実は最近、つくばの町づくりの活動をされている、つくばの研究所の物理学者の大須賀氏からいただいたメールにチェコの350席のオペラ劇場の話がありました。大須賀氏は今は物理学者ですが、以前チェコのオパヴァ市にあるシレジア劇場というところで、オペラの演出家として雇われていたそうです。写真も送っていただきましたが、非常に美しい劇場で、206年の歴史があるとのこと。大須賀氏によれば「小さい劇場は舞台が視野一杯になり、舞台の中に聴衆が入っていきやすい事も素晴らしいです。1000席規模を越えると、この親近感は一気に消滅する」とおっしゃっていました。206年前ということは1805年ですから、プッチーニの生まれる50年以上前、ベートーベンが活躍していたころのことです。日本は明治時代が1868年からなので、幕末に次第に向かっていった時期です。
杉田劇場で300席のオペラを見て、大須賀氏の話を実感した次第です。

シレジア劇場


このスロバキア国立オペラの日本公演は、長谷川洋行氏がプロデュースをしており、もう日本では13年目だそうで、杉田劇場では3回目だそうです。ポケットマネーで本物のオペラの面白さ、楽しさを感じてもらおうという趣旨で行われている活動で、すべて経費はオペラのチケット代金で賄っているとのこと。今回は1月15日(土)保土ヶ谷公会堂、昨日杉田劇場、明日18日(火)は鎌倉芸術館小ホール、1月24日(月)関内ホール(小)です。

2011/01/07

球形ピアノ室完成

あけましておめでとうございます。いよいよ2011年が始まりました。
昨年の話になりますが、11月にご紹介した球形のピアノ室が無事昨年暮れに竣工し、音響調査を行いました。
残響時間は、コンクリート素面のときには500Hz帯域で2.8秒と長いものでしたが、竣工時の建築空間では1.42秒、吸音用にクッションを8個をベンチに置いた場合で1.07秒となり、気持ちの良い響きが感じられる空間になりました。

クッション(吸音材)を設置して実験する様子


測定の様子

球形の空間は、音響障害である「ブーミング」、「ささやきの回廊」、「フラッターエコー」、「音の焦点」などが起こります。ピアノ室を設計する場合には、一般的には音響障害を排除した空間をはじめから設定して、音響調整をすることが多いのですが、今回はその逆で、球形の無限の空間をイメージして、その空間を大事にしながら音響設計を行ったため、前回のブログでは、音響技術の挑戦と書かせていただきました。具体的には、壁・天井には、様々な形の木毛板をたくさんランダムに配置し、それをアンコにして、断熱材兼拡散材兼多少の吸音材としてパーライトモルタルで凹凸を付けてこて塗りしたものです。パーライトモルタルは中高音域の音を対象としていますが、低音の拡散体のためには、譜面棚を平面的に7角形のうち3辺に配置しました。そのほか3辺をベンチ、1辺を入口としてあります。譜面棚の扉は、さまざまにスリットを入れて、低音を広帯域に吸音するように心がけました。
そのような音響的な対策を行った結果、音響障害はほとんど感じなくなりました。入口付近で多少ブーミングが見られ、ささやきの回廊がいまだに多少残っています。しかしこれらは演奏に直接影響がないと考えられます。
球形のピアノ室の窓は円形のガラスブロックが星のようにランダムに配置されたものです。実際に星のようにも感じ、宇宙の様な印象があります。ピアノの音もおそらく宇宙空間に響き渡るような感じになると思っています。



天井付近

内部

外観

外観

 このピアノ室で、35年ほど前に旅行で行ったギリシャのエーゲ海に浮かぶサントリーニ島にあるLAUDAという海に面した美しいレストランを思い出しました。そのレストランは、海に向かう急斜面にあけた洞窟にあり、内部は火山岩のでこぼこした表面に真っ白な漆喰を塗りつけた仕上げで、海に向かって開放されています。いつかこのような空間を作ってみたいと思っていましたが、ついにそれが実現したような感じがしています。


施工:株式会社 川島組

2010/12/17

銀座ヤマハホールでの久元祐子ピアノリサイタル

12月1日に久元祐子ピアノリサイタルを聴きに銀座ヤマハホールに行きました。
銀座ヤマハホールは今年の春オープンしたコンサート専用のホールで、シューボックスタイプのコンサートホールです。シューボックスタイプの大きな特徴として、ウイーン楽友協会ホールやボストンシンフォニーホールに代表される音の良さがあります。その理由は残響の長さとともに、強い側方の初期反射音が得られるからとも言われています。
前回のブログでご紹介した清瀬けやきホールもその考え方を使っています。しかし、側方反射音があまり強くなると拡がり感が得られるだけでなく、音の像を大きくしてしまい、ピアノの音が、舞台一杯に拡がって不明瞭に聞こえてしまうこともあります。その欠点をなくすために、ヤマハホールでは、初期の側方反射音を与える壁の部分を拡散壁にしています。おそらくその効果が効いていて、ピアノの音ははっきりとピアノから聞こえてきます。

今回のコンサートは、ベートーベンのピアノソナタ「ワルトシュタイン」を中心に構成されていました。最初の曲は、アンダンテ・フォヴォリという曲で、もともとはこのワルトシュタインの第二楽章だったのが、長すぎたために独立させて、新たに2楽章を書き直したそうです。そのほかベートーベンの影響を受けたシューマンやショパン、シューベルト、R・シュトラウスで、ロマン派の曲です。久元さんのピアノは情感がこもっており、穏やかな気持ちになります。
今までは久元さんのリサイタルは東京文化会館小ホールで行われていました。東京文化会館小ホールは四角の形ですが、舞台がその一つの頂点にあり、観客席側に側方の初期反射音をもたらしにくい形をしています。しかしそのためか音が明瞭で、ピアノの演奏家には好まれているようです。今年は新しくできたヤマハホールでしたが、その雰囲気を残しながらも、響きもあるホールです。このような新しい音響設計法が今後どのように発展していくかも気になります。

2010/12/13

清瀬けやきホールの清瀬管弦楽団によるオープンコンサート

2010年12月12日(日)、清瀬けやきホールにて清瀬管弦楽団のコンサートがあり聴いてきました。従来、清瀬市民ホールという名称で親しまれてきたホールですが、2009年一旦クローズして2年間リファイン改修が行われ12月5日に清瀬けやきホールとしてオープンしました。こけら落とし公演は、日本フィル金管5重奏により行われ、12日は地元で活動している清瀬管弦楽団によるコンサートでした。

清瀬けやきホール


 リファイン改修にあたって、弊社は音響設計を担当させていただきました。音のリファイン改修の一番の目玉は、側方からの初期反射音が得られるように、1階席の舞台両側の客席を2階に持ち上げてバルコニー席とし、1Fの舞台脇に壁を設置したことです。かつて平土間客席であった客席を、1F奥の客席下にトイレを設置することでスペースを確保しつつ客席の勾配を上げ、その分舞台が見やすくなり、また直接音が到達しやすくなりました。その直接音をバルコニー席からの初期反射音が補強します。扇型の多くの多目的ホールの弱点を改修したものです。

バルコニー席の様子

客席の勾配

当日は無料で、さらに先着順のために、1時間半前にロビーに到着しましたが、すでにお客さんは20~30名ベンチに並んでいました。約1時間前にチラシを配り始めたときはもうたくさんの人が並んでおり満席になりました。
コンサートの始まる前に、舞台で2~3名のコントラバス奏者が練習をしていました。その音がやけに近くに聞こえるのです。そしてコンサートが始まると、やはり目の前まで演奏音が迫ってきます。まるで舞台の中で聞いているような臨場感がありました。500席のホールでオーケストラを聴いたことがこれまでにないということもありますが、全く新しい経験でした。


また清瀬管弦楽団の演奏も素晴らしいものでした。清瀬管弦楽団は1958年の創立で、今回は44回目の定期演奏会で歴史があります。曲目はワーグナーのニュルンベルクのマイスタージンガーの前奏曲、ハチャトリアンの仮面舞踏会、後半はシューマンの交響曲第3番『ライン』です。前半は華やかな動きのある曲で、後半はのびのびとした曲でした。演奏者は62名+指揮者(松井 浩)です。楽団員が多いので舞台を客席側に拡張して演奏していました。いよいよ新しい動きが始まった感じです。たくさんの人にこのホールが使われることを願っています。

なおリファイン改修の設計は、青木茂建築工房、舞台技術は空間創造研究所です。

2010/12/01

神奈川芸術劇場の見学

日本建築学会文化施設小委員会の主催で、オープン間際の11月28日午後に神奈川芸術劇場の見学会が行われた。この建物はNHK横浜と神奈川芸術劇場の複合施設で、1~3階部分がNHK、5~8階が劇場および小ホールや練習スタジオとなっている。5階に劇場があるために、吹き抜け空間にらせん状にエスカレーターを配置して、登っていく雰囲気をドラマティックに演出されている。

外観

エスカレーター



ホールと名付けられているこの劇場は1300席であるが、できる限り舞台に近いところに席を設けようと考えられて設計され、オペラ劇場のように3層に客席を配置している。またプロセニアム劇場でもあるが、そこからいかに可変できるかも主要なテーマとなっている。客席は、勾配をほぼ平らの状態から、後方を2階席の先端につなげられるように可変できるようになっている。この勾配は、かつてピーターブルックのセゾン劇場での公演のときにつくられた仮設の観客席の勾配に近いもののようだ。ギリシャの野外劇場エピダブロスの勾配はさらに急勾配との説明が、設計者である香山設計の長谷川さんからあった。華やかなすばらしい劇場空間と感じた。



1階席後方が持ち上がり2階席に続く


見学会の後、設計者の長谷川さん、アプルの大野秀敏先生、館長の眞野純さん、舞台技術の草加さん、舞台美術の堀尾さん、横浜を代表してBankArtの池田さん、司会の東北大学の坂口先生によるパネルディスカッションがあり、それぞれの方の設計意図や意見や抱負が語られた。最後に池田さんより、この劇場に関して少し否定的な意見が述べられた。1階は町に開かれていなく閉鎖的であること、また横浜の一等地といえる場所に、このような重構造の箱モノを作ったことなどであった。パネリストの他の皆さんも、このことに関しては前向きな見解を述べられず、館長からも公共劇場についてあまり自信のない発言が出た。演劇の観客人口は低減しており、演劇が何を目指しているのかは本当に難しいという。しかし、私の見解では、おそらく池田さんのご意見は劇場の表面的な内容を仰っており、これに対して、この劇場は都市に開かれているし、NHKとの複合によって、多彩な人間がこの吹き抜け空間に賑やかにおとずれ、また人々を感動させる公演が計画されていったことを仰ればよかったと思うが、館長はおそらく劇場の本質論を述べる必要があると思われて、口が重くなったのではないだろうか。最後に観客席から名古屋大学の清水先生がご意見を述べられた。この劇場は非常によくできており、このような単なるべニア板でできた舞台床ができたのは、館長がプロだからと述べていた。ベニアであれば、大道具をくぎで固定したり、床に穴を開けることもできる。傷んだら容易に取り替えられる。それは演出表現が自由になることを意味し、確かにプロが使う劇場であり、高い理想を実現するためのものという感じを受けた。「演劇とは何か」を追求して、それが表現できるように設計されているように思う。この劇場に期待したい。

2010/11/30

渋谷区文化総合センター大和田 伝承ホールの杮落し公演

2010年11月27日(土)10時半より、伝承ホールの杮落し公演があり行ってきました。伝承ホールの目的は、区民文化の伝承のためのホールであり、また優れた伝統文化のためのホールのようです。
プロデューサーの鈴木英一さんが御挨拶をされ、このホールは芝居小屋の雰囲気をイメージして作ったと仰っていました。舞台近くの両側客席には横に向いた桟敷席があり、花道もあり、それが客席中央手前で直角に曲がり壁の方に折れて鳥屋口があります。客席と舞台の一体感があり、芝居小屋の雰囲気が出ていました。

杮落し公演は、渋谷区の伝説的ヒーローである渋谷金王丸(こんのうまる)にちなんだ内容で、渋谷金王丸伝説と出して、祝言「寿金王桜三番叟」、新作カブキ踊り「KONNOMARU伝説」、「渋谷カブキ音頭」、最後に「かぶき体操」でした。出演は、渋谷金王丸に市川染五郎、渋谷川の川神に尾上青楓、桜の精に尾上京、常磐津は和英太夫(鈴木英一)、三味線は菊与志郎。カブキ音頭以降は、公募で選ばれたワークショップの皆さんでした。御隣に座っていた方が、染五郎は金王丸に似ていると仰っていました。どこのどなたにですかと聞きなおすと、金王八幡にある像だか絵にある金王丸だそうで、金王丸が身近になりました。今回の出し物で圧巻だったのは新作カブキ踊りです。ラップのケーダブシャインや菊与志郎のエレキ三味線やドラムなどのロック系の音楽で、新しいリズムで踊りまくるものです。カブキ踊りとは染五郎が歌舞伎の原点を見つめ直すために始めた究極の娯楽スタイルとのこと。非常に面白かったです。劇場も芝居小屋をイメージして、ある意味演劇空間の原点を見つめ直したものであり、公演の内容も原点に戻ってのものでした。



最近読んだ本の「シェイクスピアとエリザベス朝演劇」に、1596年ロンドンにある劇場スワン座に訪れたオランダ人がその雰囲気を表現した文章がありました。少々長くなりますが引用いたします。
「中に入ると、木造三階建ての桟敷にとりかこまれた平らながらんとした露天のたたきに出る。これが平土間であった。人間の高さの舞台には、超自然的人物たちを地中から登場させる上げ蓋が仕切ってあった。囲いを背にして、舞台は平土間の中央に四角に突き出ており、その両側にはまだ空間が残っていて、他の平土間席と同じく、立見客を入れることができた。舞台奥の貴賓席と呼ばれる一種の桟敷は、俳優の共同部屋(楽屋)の階上にしつらえていて、そこに陣取った観客は、役者を背後から眺めることになった。それでもここは名誉ある席であった。というのは椅子席でもあったし、またここにいればまわりの不愉快な連中から隔離されていたからである。こうしたわけで、俳優たちは周りじゅう、観客にとりかこまれていたのであった。」(引用)
これは、ほとんど江戸時代の芝居小屋と同じ風景であり、舞台と観客の一体感のある空間が演劇空間の原点といえるものだと思います。

2010/11/29

平河町ミュージックスのコンサートを聴きに行きました

平河町ミュージックスは、安井平河町ビルの1階のロゴバという家具屋さんのショールームで行われているコンサートです。2010年11月26日は「漆原啓子 瀬木理央のヴァイオリンひとつとふたつ~点と線」でした。
このショールームは2層吹き抜けの空間で、一部2階がその空間の中に宙に浮いた半島のように張りだしており、客席空間がその2階のために分断されています。舞台空間は設定されているのですが、お客さんが、どちらが正面ですかと聞いている場面もありました。
最初の曲はバッハの「パルティータ第3番」で、その半島の様な2F部分から突然演奏が始まりました。演奏者は見えない状態で上から音が聞こえてくるという演出です。
最初の曲の演奏が終わると1Fに降りてこられ、バッハの曲が天国から聞こえるようにと考えてそうしたとのこと。なるほど面白い空間だと思いました。
次はイザイの「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ第2番」、バッハの先のパルティータの引用から始まる音がちりばめられたような曲です。つぎの2曲はプロコフィエフの「二つのヴァイオリンのためのソナタ」と武満徹の「揺れる鏡の夜明け」で、珍しいヴァイオリンデュオの作品でした。こちらがコンサートのタイトルである点と線の線にあたるもので、急に音楽空間をイメージできるようになります。最後の曲は高橋悠治の「七つのばらがやぶにさく」でした。
この空間はショールームですから2面は大きなガラス張りで外からよく見えます。周辺の人には大変便利で、音楽を身近に感じられるコンサートです。曲目も刺激的な選択で、演奏者も演奏も素晴らしかったです。その場で販売されていた小沼純一著「無伴奏」を購入して帰りましたが、そのほぼ真ん中のページにイザイの写真が載っています。なんだか町の大工職人のような風貌で、繊細な曲を作曲した人のようでなく、親近感を覚えました。

コンサート会場の様子

話は変わりますが、わが事務所の近くにトヨタカローラ神奈川荏田店のショールームがあります。車のことでよく伺うのですが、そのショールームもコンサートには大変良い空間といつも勝手に思っており、今回のコンサートでそれをさらにイメージすることができました。このあたりを活性化させるために何かできないかといつも考えています。トヨタ荏田店の場所は、かつての大山街道の荏田宿の起点の様な所で、荏田商店街の端にあたり、道路の向かいにはデイケアセンターもあり、人が集まる理由もありそうです。