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2022/05/18

聞きづらい席(つんぼ桟敷)

 

何年か前、豊岡市出石町の芝居小屋の永楽館が復元オープンしたときに伺いましたが、その時にたまたま2階席の奥の席がよく言われている『つんぼ桟敷』だということがわかりました。しかし『つんぼ桟敷』という言葉は差別的で好ましくないし、その席で全く聞こえないということは無いので、『聞きづらい席』と言い換えることにしました。

実験は、舞台近くでどなたかに話をしていただき、1階の桟敷席や2階の桟敷席で聞いてみました。2階席の前から奥の方へ移動していたら、突然声が小さくなってしまいました。ちょうど『大向こう』と言われるところです。原因は直接音、第一次反射音(天井)が合わさって聞こえていたものが、2階席の前側にある垂れ壁の影響で天井の反射音が聴き手に来る前に遮られてしまうためです。残念ながら計測器がなかったためにデータは無いのですが、インパルス応答でも計測していれば反射音の存在がわかる可能性があります。この垂れ壁はすべての芝居小屋にあるわけではないのですが、芝居小屋特有の現象のようにとらえられていました。

今まで天井からの反射音で補強されている例として、東京文化会館の上階の席や、扇型に拡がったNHKホールの天井からの反射音は、オーケストラを聞いても強く聞こえ、よく音響設計されていると感心したものです。

また有名な第一次反射音の設計例は、1962年に竣工したBeranekが設計したニューヨークフィルハーモニックホールがあります。この設計に当たり、世界中のホールを調査して好ましいホールはどのようなものか研究して、『音楽と音響と建築』という本を執筆し、この本はベストセラーになったのですが、本命のホールは、様々な原因はあると思いますが、客席を増やすために、わずかに扇型になってしまい、客席に側方反射音が届かず、音の評判が悪く、何度か改修しています。

また1963年に竣工したベルリンフィルハーモニーホールの音響設計をしたCremerは初めてのヴィニヤード型を検討し、立ち上がりの席の側壁から第一反射音をもたらすことで、好ましい音を作り出しました。

音響設計の技術開発には、この2つのホールが大きく貢献しましたが、この技術開発には芝居小屋の垂れ壁も貢献していればよかったと思います。

2022/05/17

フードコートの騒音対策

 

フードコートにいくと、大勢の親子連れ客で大賑わいである。さらに騒音が非常に大きくうるさい。人が大勢いるから当たり前と思われるかもしれないが、これは、実は海外のショッピングモールであるIKEAやコストコではグラスウール吸音材が天井一面に使われていて、カフェやレストランでは大勢、人がいてもとても話しやすい。

日本でも、30年ほど前は、人が大勢の集まるショッピングセンターなどの天井は、岩綿吸音板が当たり前のように使用されていた。しかし、最近はショッピングモールで吸音材が使われているところをほぼ見かけなくなっている。

試しに、あるフードコートの室内騒音を計測してみると、ガヤガヤと何を言っているか聞き取れない騒音(ノイズ)で満ちており、常に75デシベル(以下図 騒音レベルグラフ)ほどある。

図 あるフードコートの騒音レベル(30秒間)

 ここで天井による騒音対策を考えてみる。

Beranekの拡散音を含む室内の距離減衰式を示す。

   LpLw+10Log101/4πr2+41-α)/(Sα)) dB

ここでLp:室内音、Lw:パワーレベル、ここでは話声のパワーレベル、

    r:音源からの距離、S:室内表面積、α:平均吸音率 

ここでは大勢の人声が音源のために、直接音成分を除き、拡散音成分だけを取り出して検討する。

LpLw+10Log104(1-α)/Sα))dB

Lwは話声のパワーレベルのため一定と考える。吸音率は仕上げ材によって表のように変化する。ここでは天井がプラスターボード、岩綿吸音板厚9mmとグラスウール32k厚50mmを比較する。さらにここでは簡易のため、音声の成分の大きい500Hzで比較する。

表 仕上げ材の吸音率

材料名

空気層

125

250

500

1000

2000

4000

岩綿吸音板9mmPB捨て張

300

0.26

0.18

0.36

0.55

0.65

0.8

グラスウール32k厚50mm

0

0.2

0.6

0.9

0.9

0.85

0.85

石膏ボード912mm

45

0.26

0.13

0.09

0.05

0.05

0.05

Pタイル張り

0

0.01

0.02

0.02

0.02

0.03

0.04

  
  フードコートの室形状を10m×10m×CH3mと仮定して検討する。

室表面積Sは、S=(10×10)×2+10×3)×4320

床・天井の面積は10×10100

平均吸音率αはα=(100×α+110×0.1+100×0.02/320

石膏ボード厚9-12mmの吸音率0.09のとき、平均吸音率は0.069

室内音圧レベルはLpLw7.7dB

岩綿吸音板9mmの吸音率0.36のとき、平均吸音率は0.1531

室内音圧レベルはLpLw11.6dB

グラスウール32k厚50mmの吸音率0.9のとき、平均吸音率は0.322

室内音圧レベルはLpLw15.8dB 

天井が石膏ボードの時を基準とすると、岩綿吸音材の時は3.9dB、グラスウールの時は8.1dB音圧レベルが低減し、効果があることが見受けられる。 

騒音が小さくなれば、まわりで話す声も小さくなり、相乗効果で静かな空間となり快適性も大きく向上するはずである。また500Hz帯域で検討したが、より騒がしいい1000Hz帯域以上は吸音率からみると、より効果があるはずである。

なぜ天井に吸音材を使わなくなったのか気になるところである。設計をするときに、音に配慮せず、デザイン優先で使用しなくなった可能性もある。

また吸音材を使おうと思っても、メンテナンス性や、不燃材の必要、耐久性、コスト、法律などの点で見合うものが見つからないこともある。

岩綿吸音板を使用した天井が経年変化で、なんどか塗装をして、次第に吸音効果が少なくなってきている場合も見受けられる。塗装後の吸音性能は見るからにも低下しているため、岩綿吸音板を使わなくなってしまっている可能性もある。 

そこで天井面積の30%程度にグラスウールを添付することを考えてみる。たとえば幅900mmのグラスウールを天井の壁際のみに用いた場合の効果を計算する。

平均吸音率α=(32.6×0.9+67.24+30×4)×0.09+100×0.02)/3200.197

音圧レベルLpLw+10×Log4(1-0.197)/320×0.197)=Lw-12.9  dB

天井の周辺にグラスウールを用いた場合には、プラスターボードのみの天井よりも5.2dB程度、騒音の低減効果が出ており、岩綿吸音板のような効果が期待できる。天井はプラスターボードとし、天井周辺のみグラスウール厚50を貼り、改修時にグラスウールのみ取り換えることもできるように思う。

2022/05/14

箏の曲『脆性ノスタルジア』および脆性破壊

にっぽんの芸能の『今かがやく若者たち』で紹介された箏の曲『脆性ノスタルジア』が印象的でした。作曲者は冷水乃栄流(ひやみずのえる)です。曲の意味は壊れやすいノスタルジアというような意味と思われますが、作曲者は現在東京芸術大学の大学院に在籍中で、若い人です。曲はキラキラとした美しい箏の音に、時々壊れそうな音が混ざっているような印象的な曲です。

 

この曲名の中の『脆性』という言葉には37年前の1985年、御巣鷹山日航ジャンボ機の墜落事件を思い出されます。事故の原因は、機体後部の『圧力隔壁の脆性破壊』でした。この言葉は離着陸を繰り返す中で、圧力隔壁がその都度変形し、脆性破壊を起こしたものだというものです。当時の見解で,現在ではどう解釈しているかは気になるところですが、次第に劣化する体のような感じにもとらえました。

 

  脆性ノスタルジアの作曲者がどのような感覚でこの名前を設定したか、よくわかりませんが、毎年来る御巣鷹山日航ジャンボ機墜落事件の追悼式で、この言葉を聞いたことがある可能性もあります。物理的用語が音楽の発想に影響を与えたというのはあらたな出来事ではないかと思います。 

2022/05/11

夜の鶯 ナイチンゲール

 アルテッカしんゆりウクライナ人道支援チャリティーコンサートが5/5に新百合丘の川崎市麻生市民館大ホールでありました。主催は川崎・しんゆり芸術祭2022実行委員会で、川崎市および川崎市教育委員会が後援していました。入場料はくじで当選すれば無料で、ウクライナ支援のため観客に寄付をお願いする形なので、払っても払わなくともよいためかわかりませんが、800名が満席でした。コロナが少し納まってきた時で、一席飛ばしのようなことをせずに、座席なりに座れるようにしていました。体格好から60歳以上の人が最も多いように思いました。ただし寄付は透明のプラスチックの箱で集めていましたが、お金はたくさん集まっていました。

 

公演内容はオペラ協会と藤原歌劇団で、それぞれの歌劇団の歌手の歌う間で藤原歌劇団に所属するウクライナのオクサーナ・ステパニュックのバンドウーラの演奏と歌がありました。歌はプッチーニ作曲のラ・ボエームの中のムゼッタのワルツで、バンドウーラの演奏は3曲で、一曲は多分民謡で、更に司会者によるとナイチンゲール(夜の鶯)、さらによく聞くカッチーニのアベマリアでした。

 

中でも歌が印象的だったのはナイチンゲール(夜の鶯)で、鶯のとてもかわいい鳴き声で歌います。日本のホ・ホケキョではなく、コ、コ、と聞こえます。ウクライナではこう聞こえるのだとびっくりしました。

 

ナイチンゲールという曲には、ストラビンスキーのオペラ『ナイチンゲールの歌』というのがあります。オクサーナのナイチンゲールがストラビンスキーのナイチンゲールと元は同じ曲かどうかはよくわかりませんでしたが、似ている感じもします。ストラビンスキーはロシアで生まれていますが、その事実とは関係がなく、音楽はその時の感情とあった曲を選べば良いと思っています。



2022/05/04

白拍子と乱拍子

 

2022422日の弊社ブログ(http://yab-onkyo.blogspot.com/2022/04/blog-post_14.html)でお囃子の乱拍子を紹介している。

邦楽百科事典 音楽之友社発行 p.1037には「乱拍子:能の用語。白拍子が舞う特殊な舞事。小鼓のみで奏し、笛がときどきアシラう。《道成寺》のみに用いる。」とあり、能の道成寺のみに用いると書いてあるが、お囃子にも用いていると感じていた。共通の内容は、能は足の踏み方、お囃子は笛の音の止め方かと感じていた。このときに能の道成寺には白拍子と乱拍子という言葉があり、対になることばで、興味深いと持って調べた。

 沖本幸子著の「乱舞の中世 白拍子・乱拍子・猿楽」が見つかり、その中に「乱舞の芸能として一世を風靡した白拍子と乱拍子」とあり、「白拍子の方は、静御前や祇王など女性芸能者の芸能として完成されていき」「一方の乱拍子は乱舞の代名詞ともなり、その即興性と勇壮な足拍子を持ち味としながら、僧兵のような下級僧侶たちの延年※の芸能として花開いていく。」

白拍子とは「実は、女性芸能者ばかりが白拍子ではない。なぜなら白拍子とは、もともとはリズムの名称だったと考えられるからだ。そして、そのリズムで歌う歌謡や、その歌謡にあわせて即興的に舞う乱舞のことも白拍子といった。さらに、それが一つの見せる芸能として形を整え芸能者の舞として確立されて、その舞や舞手のことも白拍子と呼ぶようになったのだ。」

「そもそも乱拍子とは、白拍子と同じく太鼓のリズムの名称であり、そのリズムにのって歌う歌や舞う舞のことをいった。歌としては和歌くらいの短い文章に「やれことうとう」という囃子詞がつく点に特徴があり、舞としては足拍子を踏む点に特徴があった。」

Wikipedia延年(えんねん)とは、寺院において大法会の後に僧侶や稚児によって演じられた日本の芸能。

本のp.24には「中世初期、平安末期から鎌倉時代にかけては特に、社会全体が乱舞の熱狂に包まれていたといっても過言ではない。後白河院の頃から後鳥羽院の時代にかけて、12世紀後半から13世紀前半頃が白拍子・乱拍子の最盛期だ。」とある。南北朝時代、室町時代に能を集大成した観阿弥・世阿弥の100200年も前の時代だ。

 世の中は源平の戦いや鎌倉幕府が成立したころで、戦乱が多かったと思える。後白河天皇の『梁塵秘抄』や鴨長明の『方丈記』のできたころだ。

いまの舞台で狂言の表現に足踏みがあるが、乱拍子の影響か?

ちょっと飛躍しているが、ベートベンの交響曲No.5の三楽章のタタタターン、タタターターンはどうなのだろう。ピアソラのバンドネオンのような感じだったのか?和太鼓の鬼太鼓座の太鼓は?

乱拍子とは、なんだか心をわくわくさせるような言葉だ。