ページ

2022/03/26

音楽と科学

 2022322日の朝日新聞の科学の欄に指揮者の西本智美さんが出ていて、表題は「心癒す音楽の力 科学で探りたい」とあり、「科学と音楽を結び付けたいという思いを、20年ほど前から抱いていました。」と。最後に「感性脳科学に取り込む広島大の山脇特任教授と出会い、共に目標案を作りました。」とあります。 正確にはどのような内容かはかかれていませんが、現在音楽には科学が必要な状態があるようです。

 約150年前の話ですが、明治政府がヨーロパの音楽を輸入するときに、最初に対応したのが文部省音楽取調掛(東京芸大の前進)で、日本国歌を作曲したフェントンやエッケルトが活躍したころです。音楽取調掛の分析結果をもとに、東京帝国大学理科大学物理学科が音響研究を始めています。最初は田中正平、中村清二、寺田寅彦です。田中正平はベルリン大学のヘルムホルツの下で純正調のパイプオルガンを作ったことで有名です。またその後、このブログでも紹介した鈴木聖子著「〈雅楽〉の誕生」にある田辺尚雄です。田中尚雄はヨーロッパ音楽と比較して、日本の雅楽を引き合いに出して、日本音楽の進化論を述べたようです。なかなか無理がありそうですが、音律の点から研究をしたようです。日本の音響の研究が東京帝国大学理科大学物理学科から始まったのは面白いですね。

 音律に関しては、BC500年ほどに、ピタゴラスがピタゴラス音律を発表しましたが、その内容は二つの音が重なった時に唸らない音の組み合わせでドレミを作ったことです。純正律ができたころは、ケプラーやオイラーも純正律の一種の音律を発表していましたが、そのころバッハも「平均律クラヴィーア曲集」(英訳では The Well-Tempered Clavierで平均律ではない )を作曲しています。その後平均律が転調のしやすさから利用され始めて、このブログでもよく出てくるヘリムホルツも音律の研究をしています。歴史の中ではこの音律は紀元前からアラブや中央アジア、中国や日本も含め世界中で続いている研究で、今ではきっとヨーロッパのクラシック音楽とそれぞれの地域の音楽の合奏が試み始めています。例えばピアノと尺八、または尺八とシタールなどです。新しい音楽が音律の研究から出てくる予感がします。

 第二次世界大戦の時に、ナチスがサンクトペテルブルグに攻め込んだときに、ショスタコーヴィッチが交響曲第7番を作曲して、サンクトペテルブルグの交響楽団がそれを演奏して、戦争を支援したとのこと。これを科学と結びつけるのはなかなかむつかしいですが、この中にも音楽と科学の関係する要素もあるように思います。

 最近の話題では、ホールなどで音楽を聴くときに、床の振動も伝わってくることがあります。多くの場合に、この振動が耳から来る音楽を補強することが多いです。ただこの振動の原因は何かという話もあります。まだクラシック音楽用のホールは多くの場合に、残響は長い方がいいとされています。たしかにヴァイオリンの音は残響の少ない部屋ではさみしい音になります。それではコントラバスの響きのある音はどうなのかという問題も生じます。また和太鼓のように自ら持っている自己残響の影響はどうなのか、邦楽器については好ましい音響状態はどうなのかなど、わからないこともたくさんあります。

 今後の西本智美さんの研究結果を期待しています。

2022/03/13

ウクライナの音楽

 今注目のウクライナにはキエフ※やオデッサ※という有名な都市があるが、キエフにある聖ソフィア大聖堂やウクライナ国立歌劇場が有名である。またコサック民族としても有名なところである。

ウクライナを調べてみると民族楽器のバンドゥーラという弦楽器がある。残念ながら見たこともなく、歴史の本にも出ていないし、日本の民族学博物館にもなさそうである。弦が60弦前後あり、また5オクターブあり、音はギターやハープシコードのような感じではあるが、形はハープのような感じのものである。重さは8kgあり、ちょっと持ち運びは楽ではない。もともとは12世紀ごろ盲人が用いていたようで、日本の琵琶や三味線のような役割でもあったようだ。5オクターブもあるのでピアノのように歌の伴奏やいくつかの楽器の伴奏も可能である。

弾いているのを見ると低音部の弦をつま弾きながら、右手で主に旋律を弾いているようだ。

日本ではナターシャ・グジーとカテリーナ・グジーという音楽家がいて、活躍している。兄弟である。以下のCDはナターシャ・グジーの「旅歌人」で、曲によって日本語でも歌っている。ほとんどが作詞作曲である。

※3月末にキエフはキーウ、オデッサはオデーサとロシア語読みからウクライナ語読みに修正された。

 


 

 

 

 

 

 


 

2022/03/02

ブルーモスクの絨毯

 

 2007年、トルコのイスタンブールで開催されたINTER-NOISE 2007に参加し、コンクリートスラブを床衝撃音用のゴムボールで加振することでスラブの1次固有振動数を求める方法について発表しました。この内容は下記のブログに書いています。(http://yab-onkyo.blogspot.com/2007/09/2007.html)。

 イスタンブールはトルコの西側で、ボスポラス海峡を挟んであり、かつてのオスマントルコの首都になります。ボスポラス海峡の南側はエーゲ海、北側には黒海があり、その周辺にはルーマニア・今注目のウクライナ・ロシア・ジョージアもあります。イスタンブールはヨーロッパとアジアの境界にも位置し、トプカプ宮殿やいくつかの有名なモスクがある観光地にもなっています。宿泊したホテルはボスポラス海峡のヨーロッパ側の旧市街にあり、ホテルのすぐ近くに立派なモスクがありました。それは一般名称がブルーモスク、正式名称はスルタン・アフメット・ジャーミーです。イスラム教のモスクは半球状の屋根がたくさん集まった特徴のある外観で、内部もその半球状の内側空間を形作っています(写真1,2)。インターノイズの会議が終わってから行ってみたところ、お祈りの時間に近いようで次第に人が集まってきました。モスクの内部にはブルーのタイルがはめ込まれていて、ブルーモスクの由来がここにあると思いました。床には絨毯が貼られていました。絨毯の継ぎ目をめくってみると、絨毯の下は板が張られていました。その時には単に仕上げの一部と思っていましたが、この床の仕上げによって残響を抑える役割があると最近気が付きました(図1に示す)。絨毯の下の板張りは、その下に多少の空間があることで低音域が吸音しやすいようになり、これによりモスクではお祈りが聞き取りやすくなります。隣接しているスイレマン大帝の奥さんヒュレットの霊廟を見に行きましたが、床仕上げは大理石で残響がかなりあります。ブルーモスクが竣工したのが1616年。竣工時に床がカーペットというのは確証が取れませんが、音響学的に言えば1900年のSabineの残響時間の理論を初めて用いたボストンシンフォニーの設計が室内音響の最初といわれていますので、それより300年も前にできたブルーモスクの床の絨毯が残響時間のためでもあれば、音響学の歴史をだいぶ遡ることになります。

 

                   図1 各種材料の吸音率の比較

  

        写真1 ブルーモスクの外観

         写真2 ブルーモスクの内観

 

 

 

 

 

 

 

2022/03/01

芝居小屋のにぎわい

昨年2021年1月1日のウイーンフィルニューイヤーコンサートはコロナ感染対策のため無観客で行われた。無観客でコンサートを行ったのはウイーンフィル歴史上初めてのことだったとのこと。

正確に言えば数千の観客がオンラインで参加し、拍手を観客席にあるスピーカから返すことをしていた。しかし観客がいない状態は、テレビを見ている我々も異様な雰囲気を感じる。コンサートの中で指揮者のリッカルド・ムーティは、音楽家は文化を伝える使命があると決意を述べていた。

2020年、2021年および2022年にかけて、舞台芸術や映画はかなり試行錯誤して、まともに公演ができていない。クレメンスさんが筆頭で書いた「The Acoustics of Kabuki Theatres」というテーマの論文(2020年11月のブログ、http://yab-onkyo.blogspot.com/2020/11/)の中に江戸時代の中村座の浮世絵がある。




この図を見ると「暫」の公演で、舞台の上の侍が自分の意に従わないものに対し、家来に命じて殺そうとするが、主人公が暫く、暫くと低い声で言いながら、花道から入場するところを描いている。このあと主人公が舞台で長い刀を振り回し、役目を終えた後は六法(ろっぽう)を踏んで花道から帰るという、簡単な筋書きであり、江戸時代からの人気の物語である。観客は枡席も桟敷席もいっぱいで、舞台の周辺さらに舞台の後ろも観客で埋め尽くされている。その結果、観客の中に舞台があるような、舞台を観客が取り囲むような形で臨場感が得られている。

下図に示すようにイタリアのテアトル・ファルネーゼも観客席がU字型で、舞台を観客が取り囲む方になっていて、観客の熱狂が聞こえるようだ。

S.ティドワース著 白川宣力・石川敏男 訳 「劇場●建築・文化史」 

P.94 第57図 テアトル・ファルネーゼ 18世紀の平面図 「ネプチューンの結婚」の馬によるバレエの一場面 (1616年開場)

しかしコロナの感染は人から人へ感染する形なので、劇場や音楽の人気があればあるほど、人が密集すればするほど、コロナに感染しやすい状態となってしまう。人間側もいろいろ改良を加えているが、コロナも少しずつ変異し、状況に応じて適応する形となっているため、終りが見えない。そこで何らかの対策、例えば紫外線などによりコロナ菌を殺菌するなどの方法(弊社ブログ:劇場や音楽練習室等の紫外線によるコロナ対策の検討 http://yab-onkyo.blogspot.com/2021/05/)が必要ではないかと思われる。劇場やコンサートホールでは天井から新鮮空気を吹き出し、床下で吸い取る方法が多い。したがって床下で紫外線によりコロナを殺菌する方法は人間の吐く息を最初の段階で対策をすることになる。