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2010/04/28

第26回四国こんぴら歌舞伎大芝居を見ました

4月17日の早朝、この時期41年ぶりの雪の中、四国の高松に向けて車で横浜を出発しました。午後2時に無事に琴平に到着、目的はこんぴら大芝居を見ることです。
こんぴら大芝居は、天保6年(1835年)に完成した江戸歌舞伎様式の芝居小屋、旧金比羅大芝居金丸座で、鶯のさえずる4月に毎年行われています(今年は4月10日~25日)。実際、劇場の中にいると、鶯の声が聞こえてきます。



午後の部は「通し狂言 敵討天下茶屋聚(かたきうちてんがぢゃやむら)三幕」。敵討の話ですが、一幕も二幕も、裏切りや殺しなど暗い話から始まり、3幕目でようやくドタバタ劇が始まります。小悪人演ずる市川亀次郎が、平土間の客席の中で追いかけっこをしたり、梯子を持ち出して2階桟敷席まで登り、そこから舞台へひらりと飛び降りたり。その間、観客はやんややんやと笑い声がいっぱいになります。最後は無事敵討を果たすことができるという話で、このような形の劇場のよさを十分活かしていると思いました。

翌朝は、こんぴらさんの階段を数百段上り、金比羅宮大門を入った近くにある資生堂の神椿という素晴らしいデザインの喫茶店に入りました。コーヒーを飲み、その後歌舞伎の午前の部を見ました。3部あり、一部は義賢最後(よしかたさいご)、二部は棒しばり、三部は浮世風呂です。

義賢最後の公演の演出には度肝を抜かれました。追われる源氏の片岡愛之助演じる義賢は、妻や子供を逃がした後、平家に切られ血まみれになって舞台の上に仁王立ちした後、階段に向かって顔から棒のようになったまま倒れます。見ている方は、さらに血まみれになっているのではとハラハラします。二部「棒しばり」、主人が出かける留守の間、召使いが蔵のなかの酒を飲まないように両手を棒に縛られていますが、二人で力を合わせてその酒を飲んで踊る話で、非常にこっけいな話です。一人は中村翫雀(かんじゃく)、もう一人は先ほど顔面血だらけになったはずの片岡愛之助です。三部は、三助の話で、風呂を掃除していると大変美人のナメクジが出てきて言い寄ってくるのですがそこに塩をかけて撃退する話です。あり得ない話なのですが、気持ちが悪くおかしな話です。あんなナメクジなら出てきてほしいような妖艶なナメクジで、塩をかけられて消える時には花道のすっぽんからスーッと消えていきます。セリは人力ですからずいぶんスムーズに動いていました。
二日間なんと楽しんだことか。


数日前、ブログで紹介したM邸ピアノ室で試演会がありました。ピアノ、ヴァイオリンやソプラノやチェロの演奏でした。20名ほど観客がいましたが、残響時間が2秒ほどあるために、ソプラノの人は残響をうまく使いながら、それに声を重ねていくように次第に乗って歌っているように感じましたし、ヴァイオリンも艶のある素晴らしい音で響いていました。
金丸座の響きとは全く違う世界で、こちらも大変素晴らしい演奏会でした。

2010/04/07

M邸ピアノ室竣工

葛飾区のM邸に、ピアノ室が完成いたしました。建築設計はACT環境計画、音響設計をYABが担当いたしました。

設計にあたり、お客様からの要望は「大ホールで弾いているような豊かな響き」というものでした。しかし住宅ですからそれほど大きな空間ではないため、空間印象を左右する初期反射音は、直接音が到来してからせいぜい10msで到来してしまいます。そこで天井をできる限り高く(約9m)し、高さ1.8m以下の範囲は、屏風折れなどの形状で拡散性にして、強い初期反射音を拡散させるようにしました。ただし、この初期反射音は、ヴァイオリンの柔らかい音色を作りだすことに関係している可能性があり、拡散性の程度については注意が必要です。残響調整は、2Fの奥の壁にグラスウールを貼ることで調整いたしました。

残響時間は、空席でグラスウールがない状態の場合2.41秒/500Hz、グラスウールを貼った場合には2.28秒/500Hzと非常に長く、平均吸音率も0.08程度と非常に小さな値です。
竣工したピアノ室で、アルトサックスで音を出して確認を行った際には、グラスウールのない状態では、早いパッセージの音は若干濁った感じになりましたが、グラスウールを設けると濁りが無くなりました。音は教会のように上から降ってくるような印象があり、とても気持ちのよいものになっています。今後、壁面の本箱に楽譜などが入り、また観客が在席すると残響時間が多少短くなりますが、それでもとびきり残響の長いすばらしいピアノ室ができたと思います。近いうちに試演会が行われるようで、楽しみにしています。

先日新しくできた銀座のヤマハホールは、側壁を拡散形状として、初期の側方反射音を弱めています。似たような考え方ですが、おそらく目的は違います。シューボックス型の特徴は強い初期の側方反射音が得られ、音に包まれた感じが得られますが、そのためか音像の大きさが大きくなりぼやけてしまいます。確かにヤマハホールでは、音を聞いてみると音像がはっきりとしていてクリアのように思います。


2010/04/06

JATET 機関紙No69に木造芝居小屋の音響調査報告の記事が掲載されました

 JATET(公益社団法人劇場演出空間技術協会)の機関紙No.69に、「木造芝居小屋の音響調査報告」と題して、記事を書きました。
芝居小屋調査のきっかけから、調査結果報告、音響シミュレーションの聴感アンケート結果など。

本研究が「日本の伝統芸能・文化にふさわしい音響空間」を示すことができればと思っております。また、世界の様々な音楽に対して、研究の方法を示すことができ、そして今後の劇場ホールの設計にお役に立てれば幸いです。

この記事の続きは、先日の「JATETフォーラム2009/2010」にて発表いたしましたので、こちらの記事を合わせてご覧ください。

2010/02/17

JATETフォーラム 残響可変の変遷の発表

JATETフォーラム2009/2010にて、残響可変の変遷について発表を行いました。内容は下記になります。

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残響可変の変遷
藪下 満  有限会社YAB建築・音響設計


ここでは、残響可変の変遷について、舞台空間の可変、客席空間の可変、吸音可変、その他(残響室、電気的システムなど)に分類して述べる。参考文献は主に雑誌「音響技術」によっている。

1.音響反射板等による舞台空間可変

ここでは主に舞台空間にある可動音響反射板による残響可変について述べる。昭和56年発行の新建築学体系33 劇場の設計のP.265には、音響反射板は、「わが国に多く見られる多目的劇場、特に公共ホールの舞台に欠かすことのできない設備となっているものである。電気的拡声方法を用いないでクラシック音楽の演奏などの音声を客席方向へ集中指向させるための仮設壁面である。」。可動音響反射板は、いつ頃から、ホールに設備されたのかは、はっきりしないが、建築資料集成2(昭和35年)には、杉並公会堂の断面に可動の音響反射板が書かれている。この杉並公会堂は、昭和32年(1957)開館である。また日比谷公会堂は、昭和4年(1929)の開館であるが、主に公会堂として設計されているために、可動音響反射板は設置されていない。しかしフライズが小さく、舞台の壁も台形をしており、東京文化会館などが出来るまでは、東京のオーケストラコンサートの主会場であったようだ。その後、NHKホール(昭和46年(1973))では、オーケストラコンサートとオペラに対応するために、音響反射板を、残響時間の可変装置とし、満席時1.6秒から1.3秒に可変させた。その後、静岡市民文化会館、新宿文化センター(いずれも昭和53年(1978)開館)では、

舞台を完全吸音して、音響反射板を残響可変装置として、さらに意識して設計されるようになった。たとえば新宿文化センターでは、空席時で、設置時2.0秒幕設備時1.6秒と可変幅が0.4秒と大きくなった。それまでは、舞台空間がコンクリート素面のままということが多かったために、音響反射板の有無では、大きく残響時間が変化してはいない。その後、岩国市民会館(昭和54年(1979)などで、音響反射板有無で残響時間は、変化はするが、125Hzなど低音域では、残響時間が、設置時1.8秒が、幕設備時で、2.0秒と逆転する現象が多く見られるようになった。これはフライズの大空間が、吸音材が張られても、低音域の吸音に対しては十分でなく、残響時間を長くすることに影響し、また音響反射板は、低音域に対しては、吸音の役割をしてしまうためである。
また昭和54年開館の和歌山市民会館では、小ホールは、音響反射板の有無で、コンサート(空席時1.3秒)と邦楽用(1.1秒)と残響を調整している。
また主としてコンサートを目的としているが、オペラのために、重量物の天井の音響反射板をスライドさせて格納する方法が現れる。昭和58年の国立音楽大学講堂、昭和59年の洗足学園前田ホールである。 さらにオーチャードホール(平成元年1989)や滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール(平成10年1998)のように、コンサートとオペラを両立させるために、フライズの空間を確保し、十分な音響反射性能を得るために、大規模に走行させて音響反射板を格納する方法が採用された例がある。また側方反射音を重視するようになったことから、音響反射板の天井板の高さが高くなったことも特徴のひとつである。
またアクトシティ浜松(平成6年1994)のように、多目的ホールであるが、天井の音響反射板の高さを高く設定するために、プロセニアムの高さも可変できるように工夫する例も現れた。
残響可変の変わった例として、伝国の杜 置賜文化ホールのように、舞台に能舞台を設置した時には、舞台空間が変化することで、残響時間も、音響反射板設置時、空席時1.5秒、能舞台設置時1.4秒、幕設備時1.1秒と変化させている。

2.客席空間可変による残響可変

客席空間を間仕切ることによって、残響を可変する方法の変遷について述べる。その多くが、2階席を1階席と可動間仕切壁で区切り、大ホールと中ホールに規模を変化させる方法である。昭和48年の加古川市民会館、昭和50年の八戸市公会堂、昭和51年の高知県民文化ホール、昭和52年の敦賀市民文化センター、昭和57年の土岐市文化プラザが、いずれも石本設計事務所による一連の設計で、2階席先端を可動間仕切壁で仕切る方法によっている。この中で、加古川、八戸、敦賀は、間仕切りの有無で、残響時間はほとんど変化していないが、高知では、大ホールの反射板設置時1.6秒、中ホール時1.2秒、土岐市では、天井に残響可変装置も装備されて下り、大ホール音響反射板設置時1.75秒、中ホールでは1.49秒となっている。
平成元年の水戸芸術館コンサートホールATMでは、残響時間の可変ではないが、天井を上下させて、客席への初期反射音の時間遅れを調節する機構がある。
また特殊な例として、平成10年の東京芸術大学奏楽堂で、オーケストラから邦楽までの用途があるために、音響反射板設置時、天井を上下させて、天井高さ10mで、1.8秒、15mで2.6秒と変化させることが出来る。

3.吸音材による残響可変

残響可変の最初の例は分からないが、今回の調査では、旧杉並公会堂(昭和32年)は、可動の音響反射板のほかに、蝶番つきの残響可変装置があり、可変幅が0.2秒であった。初期で、大規模な例としては、立正佼成会の普門館(昭和45年)で、5000名収容の宗教施設であるが、吹奏楽の全国大会が行われていることも有名で、天井からシリンダー状残響可変装置が設置されている。
残響可変装置は、吊り下げ式、蝶番による回転式、カーテン式、シリンダーによる回転式、スライド式などの吸音率を物理的に可変する装置のほかに、残響室(エコールーム)により、残響を付加する方法と、電気的に残響を付加する方法がある。
代表的な例として、サンプラザホール(昭和48年)は、建築的にデッドな空間をつくり、エコールームや電気的な残響付加装置を設置したもの、昭和49年のヤマハつま恋エキジビションホールも同様、半屋外のデッドな空間に電気的な残響付加装置を設置している。
吊り下げ式残響可変装置の代表的な例として、高知県民文化会館大ホール(昭和51年)および松江市総合文化センタープラバホール(昭和61年)がある。回転式では、札幌市教育会館大ホール(昭和55年)、つくばセンタービルノバホール(昭和58年)、スライド式では、中新田バッハホール(昭和56年)、カーテン式では、やはり中新田バッハホール、青山音楽記念館(昭和62年)の京都フィルハーモニー室内管弦楽団のホームグラウンドのホールなどがある。
またリハーサル時と本番の残響特性の変化を調整するための吸音カーテンが、東京オペラシティコンサートホール(平成13年)およびミューザ川崎シンフォニーホール(平成16年)がある。また舞台でピアノ演奏用に舞台周辺のライブネスを吸音材によって変化させているホールとして、カザルスホール(昭和62年)、岐阜メルサホール(平成3年)、ミューザ川崎シンフォニーホールが上げられる。
平成18年の新杉並公会堂は、側壁上部のグラスウールの幕および舞台上部の天井が90度回転し、幕類が下ろせる状態となり、残響時間もコンサート形式時、満席時1.9秒、講演時1.1秒と大幅に可変できるようになっている。

残響可変年表はこちらからダウンロードできます(PDF)。


  
  
  

2010/02/16

JATETフォーラム2009/2010にて発表を行いました

2月2(火)~2月3日(水)に、あうるすぽっと(豊島区立舞台芸術交流センター)にてJATETフォーラムが開催され(JATET:(社)劇場演出空間技術協会)、 木造芝居小屋の音響特性について、および残響可変の変遷について、YABも発表を行いました。芝居小屋の音響特性についての主な内容は下記になります。

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木造芝居小屋の音響特性
The Acoustic Characteristics of the Wooden Playhouses
藪下 満
JATET建築部会・木造劇場研究会
有限会社YAB建築・音響設計

□はじめに
JATET建築部会木造劇場研究会(代表、建築家 山﨑泰孝)の中では以前より、「木造劇場は音が良い」という意見が多く聞かれていた。古い木造劇場の音がいいというのは、一般的に考えると不思議な印象がある。そこで全国各地にある木造芝居小屋の音響調査を行って、その理由を探ってみようと、神奈川大学建築学科寺尾研究室、および全国芝居小屋会議のご協力を得て共同で研究を始めた。
初年度の2007年度は、芝居小屋が今も多く残る岐阜県の常盤座、明治座、白雲座、鳳凰座の4座の調査を行った。2008年度は、香川の旧金毘羅大芝居金丸座、愛媛の内子座、福岡の嘉穂劇場、熊本の八千代座、兵庫の永楽館、2009年度は、秋田の康楽館、群馬のながめ余興場、岐阜の村国座、相生座、愛知の呉服座(くれはざ)、福島の旧広瀬座の調査を行った。また芝居小屋との比較のため、磯子区民センター杉田劇場(多目的ホール、音響反射板設置)、久良岐能舞台、横浜ふね劇場、神奈川大学講堂(セレストホール)、鹿角市交流プラザ、東京歌舞伎座、古民家の書院などの調査を並行して行った。歌舞伎座は、残響時間から見た場合に芝居小屋と同じ系列にあるのではないかと考え調査対象とした。

□木造芝居小屋について
本研究において、木造芝居小屋とは、舞台・客席ともに屋根で覆われている江戸歌舞伎様式の木造の小屋のことと定義した。当初は主に歌舞伎や人形浄瑠璃などの芝居が行われてきたが、明治以降は芝居興行の間に、長唄、地歌・筝曲、義太夫節、豊後系浄瑠璃、謡曲、小唄なども演奏されていた。明治に入り急速に増加し、全盛期には全国に2000以上もあったとされる。しかし戦後に急激に減少し、現在では全国芝居小屋会議に参加されている芝居小屋の17箇所ほどとなってしまっている。しかし近年、木造芝居小屋は、劇空間のすばらしさや、街づくりの大きな要素として見直され始めている。以下調査した芝居小屋を建設年代順に並べて表1に示した。 

表1.調査をした芝居小屋の建設年



□調査目的
きっかけは木造劇場の音響的な特性への関心であったが、日本の伝統芸能を育んだ芝居小屋の調査によって、邦楽にとって好ましい音響空間の検討を行うことを研究目的とした。また、数少なくなった芝居小屋の音響的な特性を、インパルス応答というデータで保存できることも貴重である。邦楽の定義は、邦楽器を用い、歌や語りを多く含む音楽全般である。

□調査内容・方法
調査内容は、残響時間周波数特性、音圧分布、音声明瞭度指数(RASTI)、エコータイムパターン、および音響インパルス応答である。さらにこの応答に対して、無響室で録音した朗読や音楽を畳み込むことで、その舞台での様々な演奏音をシミュレーションによって作成し、音楽舞台関係者に、その音質評価や劇場ごとに好ましいと思われる演奏音などの聴感アンケートを行った。

□音響測定結果
残響時間周波数特性を図1に示した。一番残響が長いのは、音響反射板設置状態の杉田劇場で、次に旧広瀬座、歌舞伎座、村国座、また嘉穂劇場の順となっている。




図1.残響時間測定結果

旧広瀬座は、床は板張りの上にゴザ、壁は板か土壁、天井は野地板張りと反射性だが、低音域は短くなっている。村国座は床が板張り、壁はほぼ土壁の上に漆喰、天井は野地板の上に瓦となっていて、歌舞伎座と同様、残響時間はより低音域で長くなる傾向がある。また金丸座も空間が小さいため残響時間は比較的短いが、土壁が多いため、同じく低音域ほど残響が長くなっている。それらを除き、多くの芝居小屋は残響時間が0.8秒前後と、いずれも低音域まで平坦な特性となっている。

平均吸音率の分析結果を図2に示した。残響時間の長い杉田劇場は0.2程度、そのほか内子座、ながめ余興場、村国座、久良岐能舞台なども0.2程度になっている。これに対して、平均吸音率が0.3程度となっているのは、歌舞伎座、金丸座、八千代座、鳳凰座、康楽館などである。歌舞伎座には側壁に菱形文様のある吸音材が張られているため、平均吸音率が大きくなっているものと思われる。音声明瞭度指数(RASTI)の分析結果では、杉田劇場は0.5程度、芝居小屋は0.6~0.7となっており、杉田劇場はFAIR(普通)、それに対して芝居小屋はGOOD(良好)と評価され、芝居小屋は音声明瞭性が高いことが分かる。

図2.平均吸音率分析結果

最適残響時間グラフを図3に示した。芝居小屋や歌舞伎座の残響時間(空席)は、室容積と最適残響時間のグラフにプロットすると、KnudsenとHarrisが推奨する講堂に適した曲線周辺に位置していることが分かる。東京歌舞伎座も同様に、講堂に適した曲線周辺にあり、ほぼ芝居小屋と同一の残響時間特性となっており、空間の大きさは異なるが、音響特性上は芝居小屋の音響空間と大きな違いが無いことがわかる。
図3.最適残響時間と残響時間測定結果

□音響シミュレーションによる聴感アンケート結果
邦楽は、日本の伝統的な空間である芝居小屋のような音響空間が適するという仮説のもと音響シミュレーションによる聴感アンケート行った。昨年の調査では、常磐津+三味線に関してはクラシック用のホールより、圧倒的に芝居小屋のほうが好ましいとの回答が得られたが、篠笛のゆったりとした曲「青葉の笛」については逆転する結果となっていた。そこで今年は、篠笛でも祭囃子のような歯切れの良い音楽も加え、ヴァイオリンは、ハーモニーを重要視する曲と不協和音のある曲で比較をした。また芝居小屋とクラシック用ホールの中間のような歌舞伎座のシミュレーションも評価対象に加えた。回答者は、吹奏楽や管弦楽団の学生、JATETのメンバーなど、劇場や音楽に関係している125名である。その結果を図4に示した。


図4.アンケート結果

常磐津三味線に好ましい空間は、歌舞伎座87%、康楽館11%、杉田劇場が2%となった。芝居小屋よりも、残響の少なさでは同じ程度の歌舞伎座が圧倒的な割合で評価された。これに対してヴァイオリンの曲、バッハの「G線上のアリア」では、歌舞伎座が15%、杉田劇場が68%。さらにヴァイオリンの曲でモーツアルトの「不協和音」では、歌舞伎座が34%、杉田劇場が45%となり、ハーモニーのあるG線上のアリアは、残響のある杉田劇場が、また不協和音で構成された曲では、歌舞伎座が好ましいと割合が大きく変わった。ハーモニーと残響感には相関関係がありそうである。篠笛は、「青葉の笛」では31%が康楽館、46%が歌舞伎座、杉田劇場は15%となっており、昨年のアンケートでは、この曲を好ましいと感じる人は、芝居小屋より杉田劇場が多かったが、今回は歌舞伎座を対象に加えたことで杉田劇場の割合が大きく減少した。祭囃子のような篠笛の曲「常磐の庭」では、康楽館が35%、歌舞伎座が47%、杉田劇場が12%と変化し、歯切れの良い曲は、予想通り、あまり残響感が無いほうが好まれる結果となった。篠笛に対してフルートは、歌舞伎座38%、杉田劇場43%と好ましいと感じる劇場が二つに分かれた。朗読は、康楽館43%、歌舞伎座55%と圧倒的に残響が少ない劇場が好まれる結果となった。
歌舞伎座が好ましいという評価が多いが、これは、舞台間口も天井も高いために、直接音を補強する役割の初期反射音が非常に少ないが、50msec以上遅れてくる拡散音があるために適度に残響感を感じながらも、音の明瞭性があるため好ましく感じるのではないかと思われる。


□まとめ
邦楽に好ましい音響空間は、響きの少ない空間が好ましいということはアンケートの結果から大きくは結論つけられる。しかし芝居小屋の音響空間がもっとも好ましいということでもない。さらに好ましい空間を分析するために、残響時間が、芝居小屋と大きな違いのない、側方反射音に特徴のある鹿角市交流ホールや初期反射音が少ないがアンケートで評価の高かった歌舞伎座の特性を参考に、初期反射音や拡散音構造の効果についてさらに研究が必要と考えている。芝居小屋は、聴衆にとっては好ましい音で聞こえるが、演奏者にとっては、音の返りや客席の空間に響きを感じられないために演奏しにくいことも予想され、また歌舞伎座では、一般の劇場や芝居小屋と同じ音量で、舞台で発した場合には、初期反射音が少ないために、観客席では声が小さく聞こえることになる。芝居小屋でも歌舞伎座でも演奏者にとっては、特段の技術が必要と思われる。

□謝辞
本調査を実施するにあたり、芝居小屋の関係者の皆様、久良岐能舞台、磯子区民文化センター(杉田劇場)、鹿角市交流プラザ、歌舞伎座、横浜ふね劇場、無響室録音にご協力していただいた音楽家の皆様、アンケートにご協力いただいた皆様、また神奈川大学管弦楽団・吹奏楽部・ビッグバンド部・建築学科の学生に心より感謝の意を表します。また本研究に対し、2008年度、2009年度には、ポーラ伝統文化振興財団より助成をしていただき、深く感謝いたします。

発表スライドはこちらからダウンロードしていただけます(約4MB)。

2009/11/25

つくば古民家の書院でのコンサート

元禄時代(1688~1703)に建設された、つくばにある古民家の書院造りの空間にて、第4回つくばフクロウの森コンサート「メゾソプラノの世界」と題して、11月15日17時半からコンサートが有りました。

この古民家でクラシックコンサートを行うにあたり、今年の夏に、音響的に何か工夫ができないかとご相談をいただき、いくつか提案をし、実験を行ったりしながら検討いたしました。障子を除く、襖を板襖にする、廊下に屏風を立てる、畳を除いて板にするなどで様々に音響的に、室内を変化させてみました。

このコンサートは、街づくりの一環として行われているようで、主に近隣の方々が多く訪れていました。出演は、メゾソプラノ西村佳子氏、ピアノ江澤隆行氏です。

ホームコンサートなどといって、一般の住宅の居間などで行われるコンサートもありますが、この古民家の空間は、しっとりとしていて、日本庭園とあいまってとても美しい空間です。今回のコンサートは、さらに出演者と主催者とで相談しながら、屏風を立てたり、畳をはずしたり、工夫されたようです。
また主催者は、メゾソプラノにこだわり、声の美しさや温かい音色が表現されるよう選んだ曲のようでした。

曲目は、ヘンデルのオペラ「優しい眼差しよ」、フォーレの「リディア」、「夢のあとに」、西條八十作詞の「お菓子と娘」、野口雨情作詞の「七つの子」、北原白秋作詞の「びいで びいで」、ミュージカルから「夢やぶれて」、「一晩中でも踊れたら」などでした。ピアニストが曲の説明をしながら、また観客も地元の人がほとんどのため馴染んだ感じの良い雰囲気でした。音響的には、ピアノの下は畳を除いて板畳を敷き、演奏者の後ろには屏風折れの音響反射板を設置していました。歌も音も、とても親密感があり、素晴らしかったです。



 


10月には、この場所で篠笛と能管のコンサートが行われ、とても評判が良いため再演になるとのこと。また11月28日(土)には、弦楽四重奏のコンサートが計画されており、こちらも人気で、切符は売り切れとなり、急遽マチネを追加したようです。弦楽器に対しては、響きが不足するのではないかと気になりますが、どうなるでしょうか。


10月23日には、旧東京音楽学校奏楽堂で行われたソプラノのコンサートに行きました。ソプラノは田井中由幾子氏、ピアノ伴奏は青井彰氏で、そのほか芸大卒の若い演奏者も出ていました。曲目は、北原白秋、土岐善麿、三好達治などの曲でした。

この奏楽堂は、明治23年(1890)に初代学長の伊澤修二が建設したもので、空席の残響時間は1.1秒程度、コンサートホールとしては短いホールです。伊澤は、西洋音楽と日本の音楽の良いところを合体して、音楽を作ろうとしたようでしたが、その伊澤が目指した曲目(歌曲)が演奏されたのではと思って聞いていました。おそらく当時は、歌曲を対象にしたようで、音響特性も残響のそれほど長くない空間が好まれたのではと思います。最近行っている芝居小屋の音響空間の研究の延長のような感じで、興味をもって聞きました。

2009/11/05

「天地人」のかしも明治座でのコンサート

先日ブログでお知らせいたしました、ソウル&ビートユニット「天地人」のライブを見に、11/3(月)岐阜県の中津川市加子母(かしも)にある木造芝居小屋の明治座に行ってきました。

「天地人」は、元「オフコース」のドラマー大間ジロー氏率いる、ソウル&ビートユニットで、和太鼓(大沢しのぶ)、津軽三味線(黒澤博幸)、パーカッション(大間ジロー)のバンドで構成されています。

明治座は、落ち着いた里山のなかにある芝居小屋で、2年前に音響測定に来たことがあり、懐かしいところです。




内部は、天井が格天井の板張りで、木がふんだんに使ってあり、いかにも木の産地であるこの地域のものだと感じます。



開始1時間前に到着しました。


拍子木の合図で引き幕が開かれ、コンサートが始まりました。すばらしい津軽三味線や和太鼓の歯切れの良いリズムに引き込まれました。木造芝居小屋は、いい空間ということもあらためて感じました。


われわれ音響技術者は、コンサートホール用の響く空間と、演劇や講演用の響かない空間の二つがあると今まで考えてきました。しかし、和太鼓や三味線やドラムのコンサートには、このような芝居小屋のような響かない空間がよいようです。
ライブツアーのプロデューサーの方が、今までは一般の多目的ホールで演奏すると、和太鼓の音圧が大きすぎて、うまくいかないとおっしゃっていました。
よく使用されるグラフで、B.F.Bay(他2名)が作成した「室の種類、室容積と最適残響時間」の中にあるコンサートホール用の最適残響時間の曲線は、「クラシック用コンサートホール」と書き換えないといけないのではと思います。

11月3日は、ちょうど寒波が訪れた日でした。天地人のメンバーは、秋田から寒波を連れてきたと言うほど舞台の上は寒そうでしたが、観客は地元の人が大部分で、この芝居小屋の隙間風には慣れた感じでした。
一般的なホールと比較すると音の返りが少ないので、自分の演奏音が聴こえにくく、そのためか最初の2曲は特に緊張感が感じられ、それがまたライブ感があって素晴らしかったです。

これまで天地人は、10月4日(日)内子座、10月18日(日)永楽館、そしてこれから、11月21日(土)九州の八千代座と23日(月祝)嘉穂劇場にも公演予定だそうです。宝船ツアーと銘うっての全国芝居小屋コンサートです。各地域で、すばらしい宝を見つけてきてください。