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2025/04/01

人形劇 華氏451度の公演

 日時:2025327日(木)1830より公演

場所:川崎市アートセンター小劇場

演者:人形劇団ひとみ座+高橋和久

元横浜ボートシアターの団員だった高橋和久さんから案内の手紙をもらい、人形劇に参加するというので興味を持って、行くことにした。何をする役割なのだろう。手紙によれば華氏451度は紙が自然発火する温度だそうだ。計算すると摂氏では220度になるようだ。ひょっとして山火事にもなりそうな温度だ。最近、ロスアンゼリス、大船渡、岡山、今治と大きな山火事があり、人家も延焼している。空気が乾燥していて、しかも風が強いことが問題である。華氏451度の主人公はファイアマンである。山火事を消す消防士でなく、実は本を率先して燃やす役割の「昇火士」である。とある専制国家では、民衆が心を煩わせないように、または反旗を振りかざさないようにすべての本を焼き尽くす部隊がいて、そのファイアマンのトップが主人公のガイ・モンターグで、本を焼き尽くすことに快感を覚えている。しかし近くにクラリスという少女がいて、道端の花や、月や月の前に飛ぶ鳥などに興味を持って、モンターグに話している。その彼女がモンダーグに燃やす前に一度でも本を読んだことがあるかと質問する。それから次第に心が変化してくる。あるとき本を持っている家に行き、その家を燃やし始めるとそこに住む老婆が本を外に置いて、火の中に飛び込んでしまう。その本は彼女にとって命より大切な聖書で、その本をモンターグは家に持って帰り、寝床に隠す。奥さんにも仲間にも不審がられ始めてしまう。人の性格や気持ちを判断する探査ロボット犬にも吼えられかみつかれるようになり、ある大学教授に本を集める業務をしながらそれを複製しようという計画を立てたとたんに、その計画が奥さんから内通されて、ファイアマンが我が家を燃やすときに、それを実況中継しているなかで、鉄砲で撃たれて死んだ。ところが死んだのは別の人で、モンターグは大学教授が逃げる方法をえていて、何とか逃げ延びることができ、仲間とあって、仲間の頭にそれぞれ物語を詰め込んで逃げる話だ。何となく恐ろしい、また現実にもありそうな話にも見える。

私はかつて技術者だったので、物理学などの科学的な本や技術的な本が無くなることはまず業務に差し支えることがすぐわかる。鉄砲や大砲やミサイルだって技術的な本が無ければ作れないと思われるので、体制側にいる人だけでも本は必要で、それを読み下す人も、また今後そうなるだろう人も確保しておかないと難しい。敵国の情報も必要だと思われる。文学的な本とか哲学的な本とか、政治的な本も現政権にとって反する本であっても、それが現政権的でないことを理解すためにはそれらの本もなくすことは、現実的には難しいと思われる。

燃える火や爆撃の火は赤い布で印象的であったが、空襲の爆弾のスピーカから音があまりにリアルなので、人形の世界や布による火の効果に合わせて、例えばドラムの音のような人為的に作った効果音でもよかったようにも思う。人形もモンターグとクラリスという子供と大学教授の大きさをもう少し変えた方がいいのではないか。ひとみ座は乙女文楽も行っていて何度も見に行っている。人形の一人遣いの人形浄瑠璃である。人形に感情が移入してしまうほどだ。高橋さんは人形使いの人としてではなく、人形の背後にいつもいて、モンターグがまともな人間に変化していく過程で人形から少しずつ分離し始める役割をしている。なるほどと感じた。

劇場の規模は200名程度で、側壁は前の2/3部分は木毛板に塗装を、残り1/3は有孔板としている。天井は黒く塗られているが、多分吸音材仕上げと思われ、演劇としては好ましい仕上げとなっていた。声も明瞭であった。この公演は本日の3/27(木)から3/31()までの7回公演となる。