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2022/08/12

Symphonic Concert Life and Concert Venues in Tokyo 1868-1945 東京1868―1945におけるオーケストラコンサートの営みとコンサート会場

   この著は、クレメンス・ビュットナーさんのベルリン工科大学のドクター論文として書いたもの。私はこの論文に用いたいくつかの写真の著作権について、出版社等に了解を得ることをしていたため、この度、日本に来て、7/19に来社して、本に製本されたドクター論文を持ってきてくれた。


今までは2度ほどクレメンスさんとは芝居小屋の音響特性を計測した。1度目は2015年に大隈講堂、旧鶴川座、内子座、金毘羅座、2度目は2017年に加子母明治座、白雲座を音響調査した。測定メンバーはクレメンス・ビュトナー(ベルリン工科大学)、Prof. Stefan Weinzierl ベルリン工科大学音響部長、2度目のみ)、森下有(東大生産技術研究所、准教授)、アントニオ・サンチェス(当時弊社)、藪下晶子(弊社、鶴川座および大隈講堂)と私で行い、1回目はポーランドのクラコーで開かれた国際音響学会でクレメンスさんが「Acoustical Characteristics of preserved wooden style Kabuki Theaters in Japan」と題して発表した。旧鶴川座については2017年の建築学会でアントニオ・サンチェス・パレホさんが発表し、また大隈講堂については、本書「Symphonic Concert Life and Concert Venues in Tokyo 1868-1945に記載された。2度目のデータは1度目も含め、ACUTA ACOUSTICA WITH ACUSTICAという国際音響学会誌にテーマ「The Acoustics of Kabuki Theaters」と題して掲載された。この内容については、本文および翻訳を本ブログ(http://yab-onkyo.blogspot.com/2020/11/)に掲載している。

本は以下の項目から構成されている。

1.    はじめに

2.    東京のコンサートの営み

3.    東京のコンサートの会場 関東大震災前

4.    東京のコンサート会場 関東大震災後

5.    室内音響の状況

6.    会場の3つの時代(初期の会場1868-1923、長い公共ホールの道、1982-現在世界標準への適用)

 西洋音楽の紹介の項で、1880年に、Fentonに次いで、ドイツ人のEckertが新しい君が代の作曲のメンバーとなっている(p.25)ことが紹介されている。

また同じ項では伊沢修二が1888年東京音楽学校のディレクターになり、1890年に奏楽堂を含む新しい建物ができた。木造と出ていた。何故木造であるか説明がなかったが、木造の建築のため残響時間が短くなったような書き方だ。たしかにRCと木造を比較すれば木造の方が、残響時間が短くなることが多い。ただ別の本(奥中康人著「国家と音楽 伊沢修二が目指した日本近代」ではp.143にはボストンに留学中には「われ思うに音楽のこと東西同じからず、汝東洋の極端なる日本国に生まれたれば、到底我西洋の音律を介することは難しかるべく、、、、」と有り、伊沢修二の音楽大学の意図は、音楽の普及のためには、初めは合唱が重要と考えていたので、勝手に想像すると奏楽堂の残響を短くしたかもしれない。

関東大震災により、レンガ造から鉄筋コンクリート造に変化し、根本的に建てる方法が異なった。その結果、日本青年館や日比谷公会堂ができた。

多目的ホールの残響時間については、音響設計の佐藤武夫が、最後に、音楽やスピーチに使用される多目的ルームでは、より短い残響時間が最も安全な妥協点であると考えたp.194

そして最終項は、おおよそ1997年、ハーモニーホール福井、札幌コンサートホール、すみだトリフォニーホール、タケミツメモリアルホールがオープンした。すべてのホールが満席で約2.0秒であった。そして最後の文章は、東京では、1945年までにかなりのレベルの音楽活動が確立された。しかしヨーロッパやアメリカへの旅行が増え、永田が言うように「真のコンサートホールの音に直接触れる」までは、このような会場にするための感性はなかった。

  奏楽堂は我が国、初めてのコンサート専門の劇場であるが、帝国劇場や歌舞伎座、東京劇場などは主に芝居の劇場となっている。日本では歴史的には、この最初の文章で述べた芝居小屋の歴史が長いために、芝居に適した残響時間になれていることもあるかもしれない。寺院の講堂や土蔵造りの蔵はかなり残響が長くなっているが、芝居小屋がこのような残響の長い空間を採用してこなかった理由もあると思われる。今後クレメンスさんがどのような研究を行うのか楽しみである。